【R#388】Advanced Rolferの認定までの歩みについて【総括】〜認定までの道のり

はじめに

こんにちは、渋谷でロルフィング・セッションを提供している大塚英文です。

24日間の日程が2025年7月11日(金)に終わり、アドバンスト・ロルファー(Advanced Rolfer)の認定を受けた。全てのトレーニング日程が終わったので、総括したい。

アドバンスト・ロルフィングのトレーニング(AT)は、Phase 1(前半、2025年4月8日〜25日、12日間)、Phase 2(後半、2025年6月24日〜7月12日、12日間)の合計24日間に及んだ。

米国からRay McCallと、日本から田畑浩良さんの2名がトレーニングの講師を担当(講師の人間性については「Ray McCallと田畑浩良さんの人柄に接して」、クラスの雰囲気については「うまくいかなかった時に、どう向き合うか?──日本人に囲まれたトレーニングの雰囲気」参照)。

今まで、ミュンヘンを中心とした欧州ロルフィング協会から学んでいたが、上記の2名からトレーニングを受けるのは初めてだった。期待していたのは、違った視点からロルフィングを見直すことだった。

ATのPhase 1のカルキュラムは、外部クライアントへ5回セッション、生徒同士の3回セッションを練習。Phase 2では、外部クライアントへ3回セッション、生徒同士の3回セッションをそれぞれ行った。

スキルも色々と学んだが(「Spinal Biomechanicsとは何か?」「ロルフィングとは何か?──ポジショナルストラテジーから考える身体の統合」参照)、なんといっても学んだことは、ボディワーカーとしての「在り方」だった。

今回の総括では「在り方」をどのように養ってきたのか?を中心にまとめたい。

ロルフィングとAdvanced Rolfing Trainingの歴史

幸運だったのは、2024年7月から、業務委託の仕事の依頼があり、資金面でATを受けられるようになったこと。この仕事の関係上、東京を離れることが困難になった。結果、市ヶ谷でATを受けることになった。(「参加を決意〜アドバンスト・ロルフィング研修・2025年4月〜7月」参照)。

Rayと田畑さんは、ロルファーのJeff Maitlandの哲学の影響を大きく受けている。なぜ、Maitlandの哲学が大きな影響を与えたのか?その前にロルフィング協会の歴史を見る必要がある。

ロルフィング協会の歴史〜FormulaicからNon-Formulaicへ

歴史的に見ると、ロルフィングの創始者のDr Ida Rolfは、1971年に米国・コロラド州・ボルダーでロルフィング協会(RISI(Rolf Institute of Structural Integration、RISI、現、Dr Ida Rolf Institute(DIRI))を設立。ロルファー(Rolfer)の養成を開始する。

RISIとGuildの2団体への分裂

当時、ロルフィング10回シリーズ、(10回を終えた方を対象とした)アドバンス5回シリーズは、いずれも手順(formulaic series)が決まっていて、そのように教えられていた。後者は、Peter MelchiorとEmmett Hutchinsの2人によって開発された。残念なことに、1989年にGuild for Structural Integration(以下Guild)とRISIに分裂。それぞれ独自の路線を歩む。

米国・ハワイ州で設立されたGuildは、MelchiorとHutchinsを中心にDr Rolfの教えを忠実にセッションの手順を教えることを死守。一方、Maitland、Jan Sultanを中心としたRISIは、手順にとらわれない形式(non-formulaticと表現)へと変貌させる(「初日〜歴史と意味〜なぜアドバンスを受けるのか?」参照)。

Jan Sultanは、下記の動画インタビューで、RISI、Guildへの分裂の模様を含めシェアしている。

ロルフィングのトレーニングは、基礎(Basic Training、BT)と上級(Advanced Training、AT)に分かれるが、同じ技術を使い教えている。BTとATの違いはどこにあるのか?BTは、一人一人が同じような平均的な人間として手順を教えるのに対し、ATは、一人一人の独自性を尊重した上で、クライアントに合わせてセッションを提供する。

独自性を尊重した上で、クライアントに合わせてどのようにセッションを提供するか?そこで、Maitlandの哲学が登場する。

RISIとJeff Maitlandの哲学

ATで登場した考え方だけでも、「3つの問いかけ」「ロルフィングの5原則」「アプローチの種類・分類(Taxonomy)」「Somatic Sensorium」「治療の3つのパラダイム(Relaxation、Corrective、Holism)」「Orthotropism(オーソトロピズム)」等が挙げられる。本総括で各々を説明していく予定だが、Matilandが中心になって確立した考え方だ。

これから、上記の考え方については語っていくが、上記の考え方に触れたのはボディワーカーとして大きな礎となった。AT期間中、Jeff Maitlandの Embodied Being – The Philosophical Roots of Manual Therapy (未邦訳)を拝読・参考にATに臨むことで、更にトレーニングの内容が深まったと感じている。

3つの問いかけ

Maitlandの考え方を象徴的に表すのが「3つの問いかけ」だ。
1)Where do you start?(どのようなアプローチ(考え方)で(セッションを)開始するか)
2)What do you do next?(次に何をするのか?)
3)When are you done?(いつ終わりを判断するか?)

3つの問いかけは、セッションの技術的な流れではなく、施術者の知覚状態や「在り方」を問うもの。Rayは、セッションの起点となる「知覚」には、“安心・安全”を感じられる「在り方(Being)」を重視。結果として、クライアントは必要なリソースと自然につながり、可能性を広げていく(「Jeff Maitlandの3つの問いかけ、在り方、知覚、自己調整」参照)。

Rayと田畑さんはともに「light touch(軽やかなタッチ)」を重視。背景となったのは、1980年代以降、Dr. John Upledgerが中心になって、オステオパス以外にBiodynamic Craniosacral Therapyの考え方を伝えるようになったこと。それが、ロルフィングのコミュニティ大きな影響を与えたことだった。

Dr Rolf時代の『強い圧』とは異なり、身体と空間が自然に再編成されるための“適切な在り方(proper presence)”がより重要視の方向へと変わっていく。この考え方は、エネルギーワークの一つであり、今回のATで中心的に扱うテーマであった(「エネルギーワークとボディワークを情報の観点で捉えてみる」「「エネルギーワーク」と「身体意識」の関係」参照)。

「在り方」とは、Rayにとっては身体軸(LINE)の感覚であり、仙骨付近への集中を通じて「クライアントの軸が浮かび上がる(evoke)」プロセスだ。田畑さんは、「肚(HARA)」の重心を通じて、適度な緊張(tonus)が保たれた身体状態を目指した(「ニュートラルとHARA(肚)〜セッション中にどう中立を保つのか?」参照)。

ニュートラルの養い方

今回のATでは、「在り方」を養うための「ニュートラル(Neutral)」の感覚を養うワークも行った。ポイントとして、3つ挙げることができる(「「ニュートラル」をどう育むか?」「ニュートラルな触れ方(Listening Touch)」参照)。

1. Shape the Hand(手を成形する)

クライアントに触れる際、自分の「手」で何かを「しよう」とするのではなく、クライアントの身体に「自分の手を形作ってもらう」ことを意識する。手を通じて、身体の情報を受け取り、そこに寄り添う。これが、ニュートラルなタッチの基本となる。

2. Finding Back Space(背後の空間を感じる)

「いま・ここ」に意識が偏りすぎると、身体が縮こまったり、過剰に前のめりになったりする。意図的に背中側のスペース、つまり「後ろの空間」を感じ取ることで、重心が中央に戻り、安定したニュートラルポジションに立つことができる。

3. Hara(肚)に繋がる

身体意識の中心である「肚(Hara)」に意識を向けることもニュートラルを育む鍵。肚は単なる筋肉ではなく、自分自身の「軸」や「存在感」を支える場所。肚にラジオのチューニングを合わせるように意識を向けると、ブレない感覚と相手にも開かれた状態を保てる。

ニュートラルを養うことで「プレゼンス(presence)」が生まれ(「「プレゼンス」とは何か?」参照)、Letting(起きるに任せること)Making(関わって起こすこと)の2つのバランスを適切に取る「正しい行為(Right Action)」が可能になる(「「Right Action(正しい行い)」をどう捉えるか?」参照)。

INTENTION(意図)とINTENTIONALITY(志向性)

「ニュートラル」の意識を養った上で、
次のステップは、
「相手の身体は自己調整すること(Body is self-organizing)ができると信じること」
を意識することが重要となる。

その際、Rayは、ヒントととして、INTENTION(意図)とINTENTIONALITY(志向性)の2つの物事の捉え方(知覚)を紹介した(「意図と志向性の違い〜セッションに臨む2つの「在り方」〜ニュートラルを理解するには?」参照)。

意図は因果的な思考に基づき、プラクティショナーの理解を優位とする。一方で志向性とは、「意識が常に何かを指し示している」という前提のもと、クライアントとの関係性そのものを変化の場として捉える姿勢である。

このような姿勢は、治療を「直線的・段階的(Developmental)」なものから、「非直線的・創発的(Fruitional)」なものへと移行させる。つまり、変化を“起こす”のではなく、変化が“起こる”ことを信頼する態度が求められるのである。

一人一人違ったセッションを提供するには?

ATは、一人一人の独自性を尊重した上で、クライアントに合わせてセッションを提供していくことになる。どのようにしたら、それができるのか?

それは「観察力を鍛える」ことや、クライアントのニーズを聴き取りつつ「ロルフィングの5原則」や「アプローチの種類・分類(Taxonomy)」を柔軟に組み合わせながら、クリエイティブなプロセスを使ってセッションを提供することだ(「フレームワーク思考で個別セッションをデザインする」参照)。

アドバンスト5回シリーズをどう脱構築したか?

前述のように、アドバンスト5回シリーズの手順(Recipe、Formulaic Series)は決まっていた。

  • 身体軸(LINE)に戻す
  • Zポジション、Cポジションに置く
  • 膝・肘・肩のHINGEを整える

この手順を開発したのは、Dr Rolfではなく、後継者のMelchiorとHutchinsだ。

Ray曰く、

「この手順に固執すると、クライアントに負担をかけすぎる可能性がある。」

Maitlandはここに問題を見出し、「原理・原則に基づき、個々に応じたセッションを組み立てる(Non-Formulaic)」スタイルへと変えた(「ロルフィングにおける原理・原則と観察力 — Jeff Maitlandのアプローチ」参照)。

観察力を鍛える

Maitlandが最も強調したのが、「観察する力(Seeing)」を鍛えることだった。

「単なる目視ではない。感覚器官全体を使って”身体を聴く”ことだ。」

彼は、Somatic Sensorium(身体感覚の総動員)によって情報を得ることを推奨した。

Rayも

「’Seeing with your own eyes’ は誤解を生む。身体全体で受け取ることが観察だ。」

とATで語っている。要は、Somatic Sensoriumを使って感じ取る(”見よう”とするのではなく、”開いて受け取る”)ということだ。

参考に、Maitlandは、観察力(Seeing) を鍛えるために、3段階を提唱している(「「あるがまま」が現れるのを待つ〜どうしたらわかるの?」参照)。

① 志向性をシフトさせる(Shift your intentionality or orientation)

  • 自分中心の意図を手放し、「対象(クライアント)」にオープンな状態に変える。

② 能動的に見ること・感覚器官を総動員する(Active Seeing、Engage your somatic sensorium)

  • 視覚だけでなく、触覚、聴覚、内受容感覚などを総動員して、身体全体で感じ取る。
  • これが、いわゆる「feeling-nature(存在の感受性)」だ。

③ 身体の語りかけを待つ(Letting what is show itself)

クライアントの身体が自然に見せる変化を待つ・受け取る。させる)

その上に、以下に述べるロルフィングの5原則を考慮するといいという。

ロルフィング5原則

ロルフィングの5原則は、MaitlandとDr Rolfから直接教えを受けたJan Sultanを中心に、

  • WHOLISM(全体性):身体を統一的なシステムとして見る。
  • SUPPORT(支持):安定性と自己支持を促す。
  • ADAPTABILITY(適応性):環境への柔軟な対応力を高める。
  • PALANTONICITY(二方向性):相反する力のバランスを調整する。
  • CLOSURE(完了):プロセスに適切な「終わり」を与える。

のロルフィングの5原則(Principles)を確立。大切なのは、クライアントを観察し、今、どの原理が不足しているか?を見極めていき、セッションを設計することだ。

Taxonomyをどう柔軟に利用するか?

身体は一つの「統合された存在」だが、

  • 構造(筋膜・骨格)
  • 機能(動き・パターン)
  • 感情や神経システム
  • エネルギーフィールド

といった異なるレイヤーを持っている。これらを適切に整理し「今、どの観点から働きかけるべきか?」を選ぶために、分類(Taxonomy)という考え方が必要になる。

主なTaxonomyとして、以下の5つがある。

  • 構造的・セグメント的(骨格・筋膜構造への介入)
  • バイオメカニカル(運動・機能改善)
  • 機能的(動き・パターンを重視)
  • 心理生物学的(感情や神経系との関係性)
  • エネルギー的(情報場やフィールドへの働きかけ)

クライアントの状態に応じて、Taxonomyを優先的に見るかを選択することで、より深い、精度の高いセッションの提供が可能。クライアントが身体的に身を「委ねる」ことで、予想外の変化(創発的な変化)が期待できる(「「見る」を超える──ファンダメンタル・バイブレーション、正しい行為、中立性について」)。

身体的に「委ねる」ことで「変容」が起きる

田畑さんは、Rolf Movement Instructorの資格を取得する過程で、Rebecca Carli-MillsCarol Agneessensの影響を受け、独自に「YIELDワーク」を探求。彼独自のエネルギー的側面にアプローチを樹立していく。参考に、田畑さんはAT期間中、エネルギーという言葉よりも、システムの完全性という言葉を使ってYIELDワークを表現していた。

YIELDワークは、クライアントがテーブルでリラックスした状態(仰向け、うつ伏せ、横向き等)で、ニュートラルな場所(1st Position)を見つけ、そこにとどまることで、クライアントのシステムに働きかける。

その原理は、

  • マッサージテーブルに仰向けになるとき、クライアントが接地面に自らを委ねること。
  • 分子細胞学でいう「アンカリング(接着細胞の基盤)」と同じように、安定した基盤ができて初めて、内側の変化が自然に起こる

にある。ポイントとなるのは、「場(フィールド)」を施術する側(プラクティショナー)が整えることによって「変容」が起きることだ(「ニュートラルに身を委ね、変化を待つこと〜YIELDワークとセッション間の変化」参照)。

関与しすぎず、しかし無関心でもない

セッションにおいて変容が起きるためには、施術者がどのような「在り方」でクライアントと関わるかが重要である。

その鍵となるのが「ニュートラル」という姿勢であり、Rayはこれを「Kind Indifference(優しい無関心)」と表現。

要は、

  • クライアントの体験に過剰に巻き込まれないこと
  • しかし同時に、深く関心をもって見守ること

ということ。このような絶妙なバランスが、変容の場を開く(「クライアントとの関係性をどう築くか?──ロルファーとしての「関与」と「信頼」のあいだで」参照)。

このことを、オステオパスのJim Jealousは、

The process is none of your business. Observe, but do not become part of the story.
「クライアントのプロセスは、私たちの“ビジネス”ではない。観察はしても、ストーリーの一部になってはいけない。」

と表現している。

述べているように、変化は施術者が「起こす」ものではなく、クライアントの内側から「起こる」ものである。施術者の役割は、その変化が生まれる「場」を整え、信頼し、待つことにある(「技術よりも「在り方」が問われる」参照)。

こうした在り方は、身体を通して調律されるべきものであり、Rayはそれを「Fundamental Vibration(基本的な振動)」として語っていた(「「在り方」を身体で整える〜Neutrality(中立性)の実践」参照)。

Maitlandの提唱する“orthotropism(オーソトロピズム)”──ひまわりが自然に太陽へ向かって伸びるように、人間の身体も重力と調和しながら“上へ”と向かおうとする力を内に秘めている。ロルフィングの役割は、それを邪魔せず、静かに支えることにある(「整えるのではなく、整う力に委ねる──中立性と身体軸(Verticality)の身体知」参照)。

整えるのではなく、「整おうとする力」に委ねる──これこそが、ニュートラルな在り方の本質である。

この感覚を養うのに役立ったのが、Eye of The Foot(足裏)のワークだった。

空間認識のワーク──足裏に“目”を持つという感覚

Rayは、毎回トレーニングで扱うという足裏のワーク(「空間は「ないもの」ではなく「あるもの」──足裏の“目”から始まる知覚の捉え方」参照)。

「足裏に目がある」と仮定し、それを開閉することで、身体や空間にどのような変化が起きるかを観察する。目を「閉じる」と身体は収縮し、接地感が乏しくなる。一方「開く」と骨盤底や横隔膜がゆるみ、空間とのつながりが豊かになる。歩行中に意識して開閉を繰り返すことで、距離感や一体感も変化する。

この体験を通して、空間とは「何もない」ものではなく、私たちと関係性を持つ“質を持った場”であるの理解が深まった。対象ではなくその「間」に意識を向けると、身体の支持感や安心感も広がる。ある参加者は空間を「密度を持った存在」と感じたように、空間は身体と“応答関係”を持つ対象として立ち現れるように感じれる。

足裏を通して、内側のセンターラインと外側のホリゾンタルラインの両方を感じ取る参加者も多くいた。身体の緊張が緩み、自己感覚が広がる中で、脱力と集中、リリースと芯の感覚が共存する。これはリラックスではなく「適正な緊張」を探るプロセスなのではないかと感じる。

この体験は、空間と身体の関係性を取り戻すための実践になった。私たちは空間の中にただ存在しているのではなく、空間との関係性の中に存在している。

個人的には、このワークをやった後に、講師のデモの知覚の精度が大幅に上がったのが興味深かった。

ATで扱ったエネルギーワーク

今回のATの特徴は、世界で初めてエネルギーを中心に扱ったことだ。

ロルファーのKevin Frankによると、ボディワークは筋膜や骨格などの物理的構造へのアプローチであり、エネルギーワークは目に見えない情報のフィールドへのアプローチと分けて考えることが可能だという。

​両者は対立するものではなく、情報の伝達という共通項を持つ連続体の両端と捉えることができる。​要は、ボディワークもエネルギーワークも、すべて「情報のやり取り」として理解できる(「エネルギーワークとボディワークを情報の観点で捉えてみる」「「エネルギーワーク」と「身体意識」の関係」参照)​

情報のやり取りの視点からエネルギーワークは、以下の4つの視点で捉えることができる。

1. 生体は自己組織化システムである

生体は外部からの情報刺激に対して自己組織的に反応し、秩序を再構築すると考える。​Rayは、これを「身体は自己調整できるシステムである」と表現している。

2. エネルギーは情報的構造としての「場」である

Bob Schreiのソースポイントセラピー(Source Point Therapy)では、身体の周囲に秩序情報のフィールド(ブループリント)が存在し、身体はそれとつながっているとされている。​これは、身体が常に外部と情報交換している「開かれたシステム」として捉える。​

3. 二元論を超えた全体論的視野がエネルギー

通常の科学では、主観と客観、心と身体、内と外といった二元論的な分離を超え、構成要素相互の関係性そのものに意味を見出す。​Kevin Frankは「ボディワークとエネルギーワークの区別は本質的にはない。すべては“情報”である」と表現している。​

4. Jeff Maitlandのエネルギーの考え方

Maitlandにとってのエネルギーワークは、「癒しが自然に起こる場(フィールド)を保持すること」プラクティショナーの役割は、癒しを引き起こすことではなく、癒しが起こる空間を保つことにある。その結果、あるがままが立ち現れていくという。

統合とは何か?

ATでは、「ニュートラル」と並んで「統合(Integration)」というテーマが中心に据えられている。統合については、Rayは、次のように語っている(「統合とは?健康を呼び起こすこと」「統合(Integration)とは?〜「まとめ」ではない」「後半がスタート〜Phase 1を振り返って」参照)。

統合の3つのポイント

統合を促すうえで、以下の3つポイントがあると学んだ。

1. 自己調整力の促進

クライアントの中にある自己調整力を信じ、それをサポートすること。変化を「起こす」存在ではなく、変化が「起こる場」を整えること。

2. 重力との調和

Ida Rolfは、統合とは重力との調和と考える。身体が重力のサポートを受けることで、最小限の努力で立ち、動くことができる状態が生まれていく。

3. 全体性の回復

統合とは、筋骨格系だけでなく、感覚、感情、意識レベルを含めた全体的なつながりを取り戻すプロセスとしてみることができる。特定の部分ではなく、人間存在の全体としての統合を目指す。

統合を促すための基本プロセス — 「Test → Intervene → Re-test」

セッションにおける「Test → Intervene → Re-test」を繰り返すことで、統合を検証することが可能だ。

具体的には、

  1. Test(テスト)
    クライアントの立ち方、動き、感覚を観察する。「何をすべきか」を押しつけず、クライアントの身体の声に耳を傾けることが大切になる。
  2. Intervene(介入)
    必要最小限の働きかけを行う。エネルギー的な側面で見ると「何をするか」よりも、「どのような場を作るか」「何が自然に起きるか」を重視する。
  3. Re-test(再テスト)
    介入のあと、クライアントの反応を再度観察する。ここで変化を押し付けるのではなく、自然な自己調整が始まっているかを見るのです。

このサイクルを繰り返すことで、クライアント自身の中から統合のプロセスが自然に生まれていく。更に、アプローチが良かったかどうかについての判断ができる。

クロージングをどのように考えるか?

ロルフィング・セッションの特徴は、終わり=クロージングがあること。ATでは、クロージングを効果的に行うために、何を意識したらいいのか?についても取り上げた。

例えば、

One of the reasons closures are important is because it allows what is next to happen.
クロージングが重要な理由のひとつは、それが「次に起こること」を可能にするからです。

クロージングとは、セッションの経験を身体的に「収め」、感覚的に「消化」し、統合的に「意味づける」プロセス。​クライアントがセッションの効果を持続的に感じ、次の変化へと自然に移行できるようにするための重要なステップとして捉えることができるようになる。

そのためには、

  • クライアントの状態を観察:​セッションの終盤でクライアントがどのような状態にあるかを丁寧に観察。必要に応じて協奏的または有機的なクロージングを選択する。​
  • 動的安定を目指す:​クライアントがセッション後も自己調整を続けられるよう、動的安定の状態でセッションを終えることを理想として、クロージングを進めていく。
  • コアとスリーブのバランスを考慮:​クライアントのコアとスリーブの関係性を意識し、外部からの情報に柔軟に対応できる状態を促進すること。

が重要とのことだ(「クロージングは統合する上でなぜ大事か?」参照)。

まとめ

駆け足で、ATの全体の総括を行った。今回のATの特徴は、エネルギーワーク。そして、どのように施術者の「在り方」を養っていくのか?抽象的な話が多かったが、学びも大きかった。

基礎トレーニング(「ヨーロッパのロルファーとしての認定までの歩みについて〜ヨーロッパ・ロルフィング協会・認定トレーニング」参照)、Rolf Movementトレーニング(「ヨーロッパのRolf Movement Practitionerまでの歩みについて〜認定までの道のり」参照)とアドバンスト・トレーニングを合わせると、ロルフィングの学びもひと段落がついた形になった。

これからも、学びをクライアントに還元できるように日々精進していきたい。

この記事を書いた人

Hidefumi Otsuka