【R#423】筋トレだけでは、しなやかにならない ── 運動する人としない人で、筋膜はどう違うのか

カテゴリ:「身体の科学|筋膜研究・エビデンス」

はじめに

別の記事で、筋膜を「感じる器官(感覚器官)」として見てきた。押され、圧され、ずらされる刺激に応え、神経系と対話する組織としての顔だ。

筋膜には、もう一つの顔がある。

「弾む」「作り変えられる」という、変えることのできる側面だ。これについては「筋膜は、弾んでいる──動くことが、しなやかさを保つ」に書いた。今回のブログ記事では、それをもう一歩踏み込んで掘り下げたい。ヨガやランニングを長く続けている人と、ほとんど身体を動かさない人とでは、筋膜そのものが違ってくる ── Robert Schleip らが提唱する「筋膜フィットネス(Fascial Fitness)」では、筋膜の視点から示唆の富むことがまとめられている。

今回のブログでは、筋(muscle)と筋膜(fascia)を運動で鍛える(身体を鍛える)際、それぞれの違いや役割を整理。運動する人としない人で筋膜がどう変わっていくのか、その背後の仕組みを探っていきたい。一方で、この分野がまだ動物実験に多くを負っていることにも、あらかじめ注意していただきたい。

筋と筋膜は、何が違うのか ── 「身体を鍛える」と「時間」

「身体を鍛える」というとき、多くの場合に思い描くのは、筋(muscle)だ。筋は、みずから縮んで力を生み出す収縮性の組織。負荷をかけて鍛えると太く強くなる(肥大、hypertrophyと呼ぶ)。一般的な筋力トレーニングが主に働きかけているのは、筋およびその層である。特徴的なのは、筋の適応は比較的速く、数週間の単位で変化があらわれることだ。

筋膜(fascia)は、筋のように収縮して力を生み出す組織ではない。コラーゲンやエラスチンの線維と、それを織りなす細胞(線維芽細胞、fibroblast)、線維と細胞のあいだを埋める、水を含んだゲル状の物質(基質、細胞外マトリックス、Extracellular Matrix、ECM)からなる、全身に連続した結合組織の網だ。

特徴は、力を生むことではなく、力を蓄えて返し、伝え、滑らせることである。この後で触れる「弾性」(クリンプやカタパルト機構)を支えるのも、筋膜およびこの層だ。そして、その作り変え(リモデリング、remodelingと呼ぶ)は筋よりもはるかにゆっくり。数ヶ月から2年という時間を要する。

とはいえ、両者は別々に働いているわけではない。

筋が生んだ力は、腱を通って端から端へ伝わるだけではなく、筋を包み連ねる結合組織(筋内膜・筋周膜・筋外膜から、その先の筋膜へ)を介して、横方向にも伝えられている ── 筋膜を介した力の伝達(myofascial force transmission)と呼ばれる仕組みがある。

動物実験やヒトの遺体を用いた研究から裏づけられており、筋を収縮させるどんな運動も、筋膜に負荷をかけていると考えられる。筋と筋膜は、機能の上では、ひとつの単位(myofascial unit)として動いていると言っていい。もっとも、生きたヒトでその伝達がどれほどの大きさを占めるのか、また加齢や運動習慣がそれをどう左右するのかは、まだ議論の途上にある。

ここに、鍛えるうえでの違いが見えてくる。筋と筋膜は、それぞれ標的が違う。従来のトレーニングが主に筋の収縮力を育てるのに対し、筋膜が担う弾みやしなやかさには、別の働きかけが要る ── この点は、次に掘り下げたい。

若く、よく動く筋膜 ── 整った織りと、ばねのうねり

若く、よく動く身体の筋膜には、二つの構造的な特徴がある。どちらも、しなやかさと弾力のもとになるものだ。

ひとつは、コラーゲンの線維が、方向のそろった網目のように織られていることだ。糸が規則正しく交差する、目のそろった網や、ていねいに編まれた布を思い浮かべるとよい。線維がてんでばらばらの向きを向くのではなく、きちんと二方向に交差して並んでいる ── この整った織り(格子状、lattice)が、力を一方向に偏らせず、全体でしなやかに受け止める土台になる。

もうひとつは、線維の一本一本が、細かく波打っていることだ。まっすぐではなく、電話の巻きコードや、ばねのように、うねりを含んでいる。この波打ち(クリンプ、crimpと呼ぶ)が、弾力のかなめだ。組織が引き伸ばされるとき、まずこの波がまっすぐに伸び、それから張力がかかる ── ちょうど、巻きコードを引っぱると、はじめはくるくると伸びて、それから手ごたえが返ってくるのに似ている。

その「遊び」の分だけ、力をいったん受け止め、ばねのように跳ね返す余地が生まれる。波がはっきりしているほど、蓄えられる弾みは大きい。

使わないでいると、もつれていく

一方、加齢や運動不足によって、この秩序は失われていく。

コラーゲンの配列は多方向的で不規則になり、クリンプは減少する。動かさずにいると、線維のあいだに新たな架橋(クロスリンク)が生まれ、線維どうしが滑らなくなる。やがて癒着し、最悪の場合には「もつれ・フェルト化」した状態になる ── 動物実験では、不動化がこうした変化を比較的すみやかに引き起こすことが示されている。

動きのしなやかさや弾みは、こうして少しずつ失われていく。硬さは、必ずしも「加齢そのもの」の帰結ではなく、「動かさないこと」の帰結でもある、というのがここでの示唆だ。

カタパルト機構 ── 弾む身体の秘密

弾性のある筋膜が何をもたらすかを、動物モデルがよく教えてくれる。

カンガルーは、脚の筋の収縮力だけでは説明できないほど、遠く速く跳ぶ。その秘密は、腱と筋膜が弾性バンドのように張力を蓄え、それを一気に解き放つ「カタパルト機構(catapult mechanism、弾性反跳)」にある。同じ仕組みは、決して筋骨隆々ではない華奢なガゼルの、優雅な跳躍にも見られる。

跳ねる・弾む・走るといった動きの軽やかさは、筋の力そのものより、この筋膜の弾性に多くを負っている。そして、よく訓練された組織ほど、蓄えた弾性エネルギーを効率よく返す。跳ぶたびにエネルギーを無駄なく回収できる身体と、そのたびに失っていく身体の違いが、ここにある。

この弾性反跳が主役になるのは、走ることや跳ぶことの方だ。

ゆっくりした歩行では、むしろ重心が硬めの脚の上を乗り越える「倒立振り子(inverted pendulum)」── 位置エネルギーと運動エネルギーが逆位相で入れ替わり、筋の仕事を節約する仕組み ── が、省エネルギーの主役になる。

とはいえ、歩行でも腱の弾性が働いていないわけではなく、蹴り出しなどでアキレス腱や足のアーチが弾性を担い、筋の仕事を減らしていると考えられている。速度が上がって走りに移るにつれ、主役が振り子からばね(カタパルト)へと移っていく ── そう捉えると、混同を避けられる。

筋膜は「作り直せる」── リモデリングという希望

重要なのは、この構造が固定されたものではない、という点だ。

筋膜を作る細胞(線維芽細胞、fibroblast)は、かかる負荷に応じて、線維の配列やクリンプを作り変えていく。動物実験では、適切な運動が、より若々しくクリンプに富んだ構造を誘導することが示されている。つまり、失われた弾性は、年齢に関わらず、ある程度まで取り戻しうる。

ただし、このリモデリングはゆっくりと進む。数ヶ月から2年ほどの時間をかけて、はじめて構造が変わる。一度の運動で変わるものではなく、続けることによって、少しずつ織り直されていく。

Schleip らが提案する「Fascial Fitness」は、この性質を活かす運動の考え方だ。筋力・持久力・神経協調に加えて、筋膜の弾性そのものを訓練の対象に据える。ヨガ・ピラティス・ダンス・武術などが、その応用領域として挙げられている。具体的にどう動けばよいのかは、記事の後半で改めて見ていく。この提案は、その後の研究知見を取り込みながら更新されており、改訂第2版(2021)に最新の見解がまとめられている。

では、ヨガや運動をしている人は、何が違うのか

ここまでを整理すれば、記事の題に立てた問い ──「運動する人としない人で、筋膜はどう違うのか」── に答えられる。日常的に、多様な方向と可動域で身体を動かしている人の筋膜は、整った織りとクリンプを保ちやすく、弾性に富む傾向がある。逆に、ほとんど動かさない生活のなかでは、その秩序はゆっくりと失われていく。姿勢や動きの「しなやかさ」は、意志や筋力だけでなく、筋膜の状態にも支えられている、というわけだ。

そして、これは手技によるボディワークとも響き合う。ロルフィングが、手で触れるだけでなく、動きの再教育(Rolf Movement)を大切にするのも、筋膜が「触れられること」と「動くこと」の両方によって変わっていく組織だからだ。手技が入口をひらき、日々の動きがそれを育てる ── その両輪で、筋膜は少しずつ織り直されていく。

なぜ、筋トレだけでは十分でないのか

ここまでを踏まえると、「筋力トレーニングをしていれば、それで十分ではないのか」という問いにも答えられる。

従来の筋トレが狙うのは、主に、収縮する力(筋力)と、持久力、そして神経の協調だ。どれも身体の土台として欠かせない。ただ、そこで鍛えられているのは筋の収縮力であって、筋膜の弾性そのものではない。しかも、決まった方向に、一定の可動域で、ゆっくり丁寧に反復する運動は、筋を太くするには有効でも、二方向の格子とクリンプを保つのに必要な「多方向の負荷」を与えにくい。

関わってくるのが、カタパルト機構だ。前に見たとおり、弾性反跳は、すばやく引き伸ばされた直後に一気に縮む ──「伸張−短縮サイクル(stretch-shortening cycle)」と呼ばれる使い方でこそ、大きく働く。ゆっくりコントロールした反復運動では、この弾む回路はあまり使われない。跳ぶ・弾む・切り返すといった、弾性を求められる動きのなかでこそ、腱と筋膜のばねは養われていく。

だから、筋トレが「間違い」なのではない。むしろ、それは確かな土台だ。ただ、それだけでは、弾みと回復力(レジリエンス)という筋膜の質は、自動的にはついてこない、ということである。Schleip と Müller も、筋膜フィットネスは従来のトレーニングを置き換えるものではなく、補完するものだと述べている。

スポーツ外傷の多くが、筋そのものよりも腱・靭帯・筋膜といった結合組織に起きるとされることも、この層を手入れしておく理由の一つに挙げられている。

筋膜を手入れする ── カタパルトを軸にしたセルフケア

では、この知識を、日々のセルフケアにどう活かせるだろうか。Schleip と Müller が整理した筋膜フィットネスの原則を、カタパルト機構を軸に、いくつかの手がかりとして並べてみる。

中心にあるのは、弾むこと(elastic recoil)だ。軽く弾む、スキップする、なわとびをする ── そうした小さな反跳の動きは、腱と筋膜のばねを直接に使う。

ここで一つ、カタパルトを引き出すコツがある。動き出す直前に、行きたい方向とわずかに逆へ、小さな予備動作を入れること(準備的カウンタームーブメント、preparatory counter-movement)だ。弓をいったん引いてから放つように、あらかじめ組織を軽く引き伸ばしておくと、蓄えられる弾性エネルギーが増し、反跳が大きくなる。カンガルーのカタパルトを、日常の動きのなかに小さく借りてくる感覚である。

次に、動的で、多方向のストレッチ。静止してじっと伸ばすだけでなく、ゆっくり溶けるような静的ストレッチと、小さなバウンスを含む動的ストレッチとを織り交ぜ、角度や方向を少しずつ変えていく。一つの筋を狙うより、長い筋膜の経線(chain)を意識して、螺旋やしなりを含む動きを通すとよいとされる。ヨガのしなやかなフローや、武術・ダンスの流れるような動きは、その好例だ。

そして、感じ取る力を養うこと(固有受容感覚のリファインメント、proprioceptive refinement)。不安定な面の上でのバランス、ゆっくりとした重心移動、細部まで丁寧に感じながらの動き ── こうした働きかけは、鈍りがちな筋膜の感覚を、新鮮に保つことにつながるとされる。

見落とされやすいのが、水分と回復だ。筋膜は、スポンジのように水を含む組織でもある。負荷がかかるとその部位から水が押し出され、力がゆるむと、まわりから新しい水が満ちてくる。だからこそ、こまめに身体を動かすこと、水分をとること、そして休む時間そのものが、しなやかさを支える。そして、すでに見たとおり、筋膜の作り変えはゆっくりだ。即効性はない代わりに、続けた変化は長く残る。週に一、二度、細く長く続けることが、重要になる。

最後に、道具を使う自己筋膜リリース(self-myofascial release)。フォームローラーやボールで、ふくらはぎ、足裏、胸のあたりなどを、ゆっくり転がしていく方法だ。ただし、その効きめについては、後で触れるように、慎重に理解しておきたい点がある。

なお、どこに力点を置くかは、体質によっても変わる。

Schleip は改訂第2版で、結合組織のタイプを、頑健で硬めの「ヴァイキング型(Viking)」と、生来しなやかで過可動な「コントーショニスト型(Contortionist)」とに、大まかに分けている。硬めのタイプであれば弾性と水分の手入れに、過可動なタイプであれば、むしろ安定性と固有受容感覚のほうに重心を移す ── そんな按配だ。あくまで大づかみな目安ではあるが、同じ運動が誰にでも同じように効くわけではない、という感覚は持っておきたい。

誠実な限界

魅力的な話だが、行き過ぎないために線を引いておきたい。

第一に、ヒトでの直接的な知見の中心は、「若年者の筋膜は格子状でクリンプに富む」という観察であり、「運動が構造を作り変える」「運動不足が構造を損なう」という部分は、その相関と動物実験に多くを負っている。ヒトで運動群と非運動群を長期に比較した決定的な証拠は、まだ限られている。

第二に、筋膜の硬さや弾性には、生まれ持った個人差がある。先に触れた「ヴァイキング型/コントーショニスト型」の大別のように、体質によって、効きやすい働きかけも、必要な負荷の質も違ってくる。誰もが同じように変わるわけではない。

第三に、リモデリングはゆっくりで、特定の成果を約束するものではない。「筋膜フィットネス」も、従来の運動を置き換えるものではなく、それを補完する提案として位置づけられている。また同じ第2版では、広く勧められているストレッチのすべてが有益なわけではなく、やり方によってはかえって害になりうる、という慎重な但し書きも加えられている。

第四に、ここで挙げたセルフケアについても、期待は程よく保っておきたい。個々の原則 ── たとえば弾性反跳や固有受容感覚の訓練 ── には一定の科学的裏づけがある一方で、「筋膜フィットネス」というプログラム全体としての効能については、まだ十分な証拠がそろっているとは言いにくい。

フォームローラーによる自己筋膜リリースは、筋肉痛(DOMS)をやわらげ、運動能力を損なわないことが観察されているが、その作用は「筋膜を物理的にほぐす」ことよりも、神経や感覚を介した変化である可能性が高い。外傷予防といった具体的な成果の主張も、なお発展途上にある。

それでもなお、「筋膜は動きに応じて作り変えられる」という事実は、身体との長い付き合い方に、確かな示唆を与えてくれる。

おわりに

筋膜には、少なくとも二つの顔がある。ひとつは、別の記事で見た「感じる器官」としての顔。もうひとつは、この記事で見た「弾み、作り変えられる」織物としての顔だ。

動くこと ── とりわけ、多様に、弾むように動くこと ── は、この弾性のある織物を、静かに手入れしていく営みなのかもしれない。今日の一歩や一呼吸が、何ヶ月か先の身体の弾みを、少しずつ準備している。

参考文献

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  • Schleip R, Müller DG. Training principles for fascial connective tissues: Scientific foundation and suggested practical applications. J Bodyw Mov Ther. 2013;17(1):103–115. doi:10.1016/j.jbmt.2012.06.007
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  • European Rolfing Association: Fascia Expertise & Scientific Research
  • Fascia Research Society

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大塚英文(Ph.D.)|認定アドバンスト・ロルファー™/ロルフ・ムーブメント・プラクティショナー 東京大学大学院医学研究科博士課程修了。外資系製薬会社でメディカル・マーケティング業務に従事した後、2015年より渋谷でロルフィング®セッションを提供。「科学と実践の統合」をテーマに活動。

この記事を書いた人

Hidefumi Otsuka