癒し・矯正・全体 ── 手技療法の三つの道と、科学で説明できることの境界

はじめに

マッサージ、整体、指圧、オイルトリートメント、クラニオセイクラル、そしてロルフィング ──「身体に手で触れる」実践は、驚くほど多様だ。名前も理論も作法も違うそれらを前にすると、「結局、何がどう違うのか」「自分には何が合うのか」が、見えにくい。

ここで役に立つのが、手技を「何をしようとしているのか(志向)」で捉える見方だ。私は、ロルフィングのAdvanced Trainingで学んだ枠組みだが、手技のアプローチには、大きく三つの方向に整理できる。癒し(Relaxation)、矯正(Corrective)、そして全体(Holistic)だ。

さらに、別の記事で見た「筋膜の感覚受容器」という枠組みを重ねると、この三つの違いを、身体の側で何が起きているのか、という言葉でも捉え直すことができる。

今回のブログ記事では、その地図を描き、最後に、位置づけの難しい二つの実践 ── クラニオ・セイクラル・バイオダイナミクスと、ソースポイントセラピー ── が、そこにどう収まるのかを考えてみたい。この二つは、系譜の上でも志向の上でも、隣り合っている。それでも、一方はなんとか地図の上に置け、もう一方は置けない。その境目にこそ、この地図の性質が現れる。

手が触れている組織や、四つの感覚受容器(ゴルジ・パチニ・ルフィニ・間質)の詳細については下記をご参照ください。

→「筋膜の四つの感覚受容器 ── 「どう触れるか」で、身体の応え方は変わる

癒し(Relaxation)── 鎮める

1つ目の道は、癒しだ。緩め、鎮め、心地よさをもたらすことを主眼とする。ゆっくりとした、包み込むような接触が中心で、リラクゼーション・マッサージやスパのトリートメントが、この極にある。

受容器の観点からは、持続的な圧や横方向のずれに応じるルフィニ受容器、微細な刺激に応じる間質受容器を介して、交感神経の高ぶりを鎮める方向に働く。緊張がほどけ、呼吸が深まり、心が静まる ── その心地よさは気のせいではなく、自律神経が実際に落ち着いていく過程でもある。

主眼は「治す」ことではなく、「整える・回復させる」ことにある。慢性的なストレスや疲労のなかで、まず神経系を鎮めたいときに、この道は力を発揮する。

矯正(Corrective)── 直す

2つ目の道は、矯正だ。トリガーポイント、可動域の制限、姿勢の歪み、特定の痛み ── はっきりした「問題」を見定め、それを狙って変えていく。局所的で、機械的で、目標のはっきりしたアプローチだ。トリガーポイント療法や、いわゆる治療的・整復的なマッサージ、多くの徒手療法が、ここに位置する。

受容器の観点からは、強い伸張と能動的な動きでゴルジ受容器に、素早い圧の変化や振動でパチニ受容器に働きかけ、局所の構造や運動協調を、直接的に組み替えようとする。

この道の強みは、明確な問題への的確さだ。一方で、注意も要る。「痛むところ」だけを追いかけると、その痛みが、離れた場所の緊張や身体全体のバランスから来ている場合を、取りこぼしかねない。部分を直すことと、全体が変わることは、必ずしも同じではない。

全体(Holistic)── 編み直す

3つ目の道は、全体だ。部分ではなく、全身の連続体を、そしてその人全体を、ひとつの系(システム)として扱う。特定の一点を「直す」のではなく、四つの受容器はもちろん、意識せずとも身体を立たせている持続的に起きる筋の張り(トニックな緊張、ロルフィング(構造的統合)では、Tonic Functionという考え方がある)や、その張りを高くも低くもする自律神経の働きまで含めて、身体全体をひとつの秩序へと編み直していく。

ロルフィングの姿勢は、この極に近い。痛むところを揉みほぐす対症的な手当てではなく、重力のなかで身体全体がどう組織化されているか ── その連続体のありようそのものに、10回シリーズを通じて働きかけていく。身体を、部品の寄せ集めではなく、動く一つの系として捉える見方だ。

この道が扱うのは、「どこが悪いか」よりも「全体としてどうあるか」だ。だからこそ変化は、一点の解消としてではなく、立ち方・動き方・感じ方の全体的な更新として現れることが多い。

重力の中で身体がどのように組織化されるか?重力とTonic Functionの関係は、ロルフィングにおいて根幹になる考え方だ。詳細は下記をご参照ください。

→「なぜ「姿勢の良さ」は筋力ではないのか── Tonic Functionと重力の関係

クラニオセイクラル・バイオダイナミクスは、どこにあるのか

さて、この三つの地図の上で、位置づけがとりわけ興味深いのが、クラニオセイクラル・バイオダイナミクス(Craniosacral Biodynamics)だ。

前提として、クラニオセイクラルには二つの流れがある。ひとつは、頭蓋や仙骨、膜の「制限」を見つけて解放していくバイオメカニカル(biomechanical)な流れ(Upledger 系)で、これはどちらかといえば「矯正」寄りだ。

もうひとつが、バイオダイナミクス(Biodynamics)だ。こちらは、施術者が「治そう」「矯正しよう」としない点に、際立った特徴がある。ごく軽い接触と深い静けさのなかで、身体そのものに備わる自己調整の働きに寄り添い、全体が自ずと整っていく条件を差し出す ── 何かを能動的に直すのではなく、いわば「手放す」ことで働きかける。

この非-操作的で、全体の自己調整に委ねる姿勢は、三つのなかでもっとも「全体(Holistic)」の極にある。むしろ「矯正」の対極だと言ってもいい。同じ全体の道でも、ロルフィングが能動的に全体を編み直していくのに対し、バイオダイナミクスは、身体が自ら整うのを待ち、支える

受容器の観点から眺めると、その手触りも腑に落ちる。バイオダイナミクスの、ごく微細で、持続的で、静止に近い接触は、低閾値の間質受容器や、持続圧に応じるルフィニ受容器 ── ルフィニ様(Ruffini-like)の受容器は、硬膜(デュラ・マター)の結合組織にも認められると報告されている ── に働きかけるものだと理解できる。強い機械的変形を求めない接触が、自律神経を深く鎮め、内受容の層に届く、というわけだ。

受容器の地図は、どこまで届くのか ── ソースポイントセラピーという限界事例

ここまで、四つの受容器という地図を手に、三つの道を眺めてきた。バイオダイナミクスのような、位置づけの難しい実践についても、なんとかその地図の上に置くことができた。

では、この地図は、どこまで届くのだろうか。

私は、ソースポイントセラピー(SourcePoint Therapy)という実践のトレーニングを、2015年から受けてきた。セッションに取り入れてもいる。そして、この実践こそが、いま述べてきた地図の限界を、はっきりと示している。

→「ソースポイントセラピー──14日間・5年にわたるトレーニングの総まとめ

まず、両者は隣り合っている

意外に思われるかもしれないが、ソースポイントとクラニオセイクラルは、無関係ではない。

ソースポイントセラピーでは、その中核概念であるブループリント(Blueprint)を説明するさい、バイオダイナミック・オステオパシーの「健康のブループリント」を、同じものを指す先行概念のひとつとして挙げている。トレーニングの場でも、サザーランドに始まる頭蓋ワークの歴史と、その解剖学が、背景として教えられる。志向としても、どちらも「全体」の極にあり、施術者が「治そう」としない点で共通している。

つまり、この二つは、地図の上で隣り合っている。だからこそ、興味深い。これから引く境界線は、遠く離れた実践とのあいだにではなく、この隣り合う二つのあいだを走ることになる。

点は、身体の上にない

決定的な違いは、どこに働きかけるのか、という点にある。

ソースポイントセラピーの中核をなすのは、ダイアモンド・ポイント(Diamond Point)と呼ばれる四つの点だ。そして、この四点は、身体の上にはない。それらは、身体の表面から30センチから60センチほど(12〜24インチ、多くは18インチ前後)離れた空間 ── この実践が「人間のエネルギー・フィールド」と呼ぶ領域 ── に位置している。

物理的な接触が、そもそも存在しないのである。

だとすれば、そこには、機械受容器が受け取るべき力学的な刺激が、何もない。押しても、引いても、ずらしてもいないのだから。ルフィニ受容器にも、間質受容器にも、この場面では出番がない。バイオダイナミクスには、まだ「ごく微細な接触」があった。ソースポイントの中核には、それすらない。

位置は解剖学、しかし機序はエネルギー

ただし、話はもう少し込み入っている。

ソースポイントセラピーには、身体の上に置かれる点もある。ガーディアン・ポイント(Guardian Point)だ。そして、その位置は、解剖学的にきちんと定まっている。骨盤上の点は骨盤のアラインメントや寛骨のリズムに、鎖骨下の点は胸鎖関節のバランスや第一肋骨の動きに、頭蓋の四点は側頭骨・上顎骨・蝶形骨・頭頂に、それぞれ対応している。訓練でも、これらは頭蓋の解剖学とともに教えられる。

だが、ここで区別しておかなければならないことがある。点がどこにあるか、ということと、なぜ効くとされているのか、ということは、別なのだ。

トレーニングでは、ガーディアン・ポイントを、ガーディアン・エネルギー ── この実践が「エネルギー的・霊的な免疫系」と呼ぶもの ── にアクセスする点として学ぶことができた。解剖学は、点の在り処を教えるが、その作用の説明ではない。

受容器では、説明できない

ここまで来れば、結論は明らかだろう。

ソースポイントセラピーは、自らを「エネルギー・ワークへのシンプルなアプローチ」と規定している。筋膜に働きかけるとも、受容器に働きかけるとも、言ってはいない。中核概念であるブループリントは、身体の健康の情報を含む「普遍的なエネルギーのなかの特定のエネルギー場」として定義され、カルマ(Karma)や先祖からの影響とともに語られる。

これを、受容器の言葉で説明することは、できない。

もちろん、書こうと思えば書ける。「ごく微細な接触が、低閾値の間質受容器を刺激し、自律神経に働きかける」── そう書くことは可能だ。だが、それは、この実践が主張していないことを、科学の装いで代弁することになる。ソースポイントは、受容器に働きかけているとは言っていない。ブループリントに働きかけている、と言っている。その主張を、勝手に別の言語へ翻訳して、もっともらしくすること ── それは、説明ではなく、粉飾である。

だから、ここでは説明しない。この実践は、受容器の地図の外にある。筆者自身が訓練を受け、実際に用いている実践について、そう言っておきたい。

そして、そのことは、この地図の価値を損なうものではない。むしろ逆だ。どこまでが説明でき、どこからは説明できないのか ── その境界を引けることこそが、地図が地図として機能している証である。あらゆる実践を説明できてしまう枠組みは、実は何も説明していない。

誠実に、線を引く

ここで、はっきりさせておきたいことがある。

まず、この「癒し・矯正・全体」という三分類は、あくまで志向を捉えるための地図であって、厳密な区分ではない。多くの実践は複数の道にまたがり、優れた施術者は、その日のクライアントに応じて力点を移していく。どれが上でどれが下、という話でもない。鎮めることも、直すことも、編み直すことも、それぞれに固有の価値がある。

そして、クラニオセイクラル ── とりわけバイオダイナミクス ── については、より慎重な但し書きが要る。それが拠って立つ中核概念、頭蓋の律動(cranial rhythm)や「原初呼吸(primary respiration)」といった考えは、現在の科学で確立されたものではない。律動を触診できるという主張についても、施術者のあいだで結果が一致しにくいという否定的な報告がある。

だからここで言えるのは、「その理論が正しい」ということではない。「もし確かな効果があるとすれば、ごく微細な持続的接触が自律神経と内受容に働きかける、という受容器レベルの説明が、少なくとも一つの筋の通った仮説になりうる」── それだけだ。これは擁護でも否定でもなく、同じ受容器の地図の上に、この実践を置いてみる試みである。効能の主張ではなく、見方の提示である。

ソースポイントセラピーについては、さらに踏み込んでおきたい。その中核概念であるブループリントは、科学的に検証された概念ではない。検証されていないというより、現在の科学が検証の対象としうる形をしていない、と言うほうが正確だろう。

もっとも、ソースポイントセラピーで示された原理は「説明しえないものを説明しようとする、もう一つの試み」にすぎないと述べ、この実践は特定の症状や疾患の診断・治療を意図したものではなく、医学的な問題については医療者に相談するように、と明記している。その節度は、正当に評価しておきたい。

そして、わからないものを、わからないままに置いておくこと ── その節度もまた、誠実さの一部だと考えている。それを「まだ科学が追いついていないだけだ」と語ることは、筆者はしない。筆者がこの実践を用いているという事実は、その正しさを何ら保証しない。

おわりに

「身体に触れる」という同じ営みのなかにも、鎮める道、直す道、編み直す道がある。そのどれが「本物」ということはない。大切なのは、いま自分の身体が何を必要としているのか ── ほどけたいのか、整えたいのか、あるいは全体として組み直したいのか ── を、一つの手がかりとして持っておくことだ。

そして、どの道を選ぶにせよ、手が触れているのは、単なる詰め物ではなく、感じ、応え、自己を調整する、生きた組織である。その事実は、三つのどの道にも通底している。

ただし、手技のすべてが、その言葉で説明しきれるわけではない。説明できるところまでを、正確に説明すること。そして、説明が届かないところでは、届かないと認めること。地図を持つとは、地図の縁を知ることでもある。

参考文献

  • Schleip R. Fascial plasticity — a new neurobiological explanation. Part 1 & 2. J Bodyw Mov Ther. 2003;7(1):11–19/7(2):104–116.
  • Andres KH, von Düring M, Muszynski K, Schmidt RF. Nerve fibres and their terminals of the dura mater encephali of the rat. Anat Embryol. 1987;175(3):289–301. doi:10.1007/BF00309843
  • European Rolfing Association: Fascia Expertise & Scientific Research
  • Fascia Research Society

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大塚英文(Ph.D.)|認定アドバンスト・ロルファー™/ロルフ・ムーブメント・プラクティショナー 東京大学大学院医学研究科博士課程修了。外資系製薬会社でメディカル・マーケティング業務に従事した後、2015年より渋谷でロルフィング®セッションを提供。「科学と実践の統合」をテーマに活動。

この記事を書いた人

Hidefumi Otsuka