7回目までで各部位が整うと、8回目から統合セッションに入る。10回シリーズの第3フェーズだ。ここで、セッションの組み立て方そのものが変わる。
問いが変わる
1〜7回目で問われていたのは、どの部位をどう扱うかだった。8〜10回目で問われるのは別のことになる。
- クロージングに向けて何をすべきか
- これまで学んだことは何か
- 今後どういった方向へ進むのか
この3つが統合セッションを貫く。技術的な問いではなく、クライアント自身への問いでもある。
手順から設計へ
1〜7回目には手順がある。呼吸、足裏、前後、骨盤底、腸腰筋、仙骨、首。順序が決まっていて、その回に扱う場所も決まっている。
8〜10回目は違う。ここまでの7回で何が変わり、何が変わらなかったかによって、扱うものが変わる。手順をなぞる回ではなく、その人に合わせて毎回組み立てる回だ。
アドバンストの言い方を借りれば、手順ではなく設計として組むことになる。同じ8回目でも、人によって触れる場所が違う。
もともとは7回だった
10回という数は、最初からあったものではない。
かつては7回で一区切りだった。基礎トレーニングでも、7回を終えた時点でシャンパンの乾杯が行われる。統合セッションは、その後から加えられたものになる。
7回で養った意識を身体として統合していく。それが8〜10回目の役割だ。順序としては、後から足されたものが最後に置かれている。
背骨が捻れるということ
統合セッションのテーマの一つに、背骨を捻るスパイラルの動きがある。
背骨が伸びて捻れると、重力に対して必要最小限の力で歩けるようになる、とロルフィングでは考える。伸びるだけでも、捻れるだけでも足りない。両方が同時に起きたときに、歩きから力みが抜ける。
ただしこれは、前後・左右・上下、そして中心軸の感覚ができていないと成り立たない。1〜7回目が要る理由がここにある。統合セッションは、それ以前の7回の上にしか置けない。
3回の並び
8回目と9回目には、対になる主題がある。8回目は、在ること、存在、構造、静止、安定。9回目は、流れ、為すこと、機能、動き、統合。まず動かずに支えられる状態を作り、その上で動きながら保てる状態へ移る。
8回目は、肩帯と骨盤帯という2つの帯(Girdle)を扱う。肩帯は上肢の動きの基礎、骨盤帯は下肢の動きの基礎になる。この2つが連動して動けるようになると、全身の動きの土台ができる。
なお、この3回は教科書的な並びであって、実際にはクライアントに合わせて組み立てる。7回目までに残っている課題をもとに設計するのが原則になる。
9回目は、その先端まで届かせる。手先と足先を含めた全身が、一つの動きとして協調する状態を目指す。クラスでは、骨盤帯と肩帯が透明(invisible)になると理想的だと表現していた。うまく働いている構造は、意識から消える。
10回目は、全体を見渡す。残った箇所を仕上げるのではなく、スペースを残し、あとは時間をかけて重力によって身体が整っていくのを促す。
統合とは何が揃うことか
統合という語は、身体だけを指しているのではない。
トレーニングでは、4つの層で捉えるよう教わった。物理的な構造、協調のしかた、知覚、そして意味づけ。1〜7回目で筋膜に働きかけると、まず部位どうしの関係と重力との関係が変わる。それが筋肉の張力と動きの適応力を変え、そこから自分をどう感じ取るかが変わり、最後に、どう振る舞えるかの幅が広がる。
この4つは強く結びついていて、逆向きにも進む。意味づけの側が変わって、身体が変わることもある。そして層ごとに、定着するまでの時間が違う。
だから統合とは、この4つが自由に、そして遊びをもって連携している状態を指す。何が前面に出るかは人によって違う。胸が持ち上がる変化が起きても、歩きに移らないことがある。呼吸がついてこないことがある。感情が揺れることもある。8回目から10回目は、そのずれを揃えていく時間になる。
統合を促す3つのこと
アドバンスト・トレーニングで、統合を促すうえで要になることとして3つが挙げられた。
一つは、自己調整力を促すこと。クライアントの中にある、自分で整っていく力を信じ、それを支える。施術者は変化を起こす存在ではなく、変化が起こる場を整える存在になる。
二つ目は、重力との調和。アイダ・ロルフは、統合とは重力と調和することだと考えていた。身体が重力に支えられることで、最小限の力で立ち、動ける状態が生まれる。
三つ目は、全体性の回復。統合とは、筋骨格だけの話ではない。感覚、感情、意識を含めた全体のつながりを取り戻す過程を指す。
クロージングという考え方
10回で終わることと、その後も続くこと。この2つは矛盾しない。
アドバンスト・トレーニングで、ロルフィングの原則の一つとして挙げられたのがClosure(完了)だった。プロセスに適切な終わりを与えること。その理由の説明が印象に残っている。クロージングが重要なのは、それが次に起こることを可能にするからだ。
終わりがあるから、そこから先が始まる。
この原則群は、アイダ・ロルフ本人が定めたものではない。彼女から直接教えを受けたJan Sultanと、Jeff Maitlandを中心に確立されたものだ。全体性、支持、適応性、二方向性、そして完了。5つが挙げられる。Maitland自身の著作では、これに連続性を加えた6つとして整理されている。
名前が付いたのは後からだが、指している事柄そのものは10回シリーズの構造にもともと組み込まれていた。大切なのは、いまその人に何が足りていないかを見極めて、そこからセッションを組み立てることだとされる。
主語が移る
統合セッションで起きているのは、ワークの主語が移ることだ。
かつては施術者が知識を持ち、変化も予測できるという前提があった。いまは違う。ワークを行うのはクライアントの側で、施術者はその条件を整える。継続トレーニングで学んだことのなかに、この主題をはっきり言葉にしたものがある。
だから10回目の目的は、施術の仕上げではない。10回を通じて学んだことを自分の生活に取り入れていく、その能力が育つことにある。自分の身体に気づき、整えていけるようになれば、セッションが終わった後も変化は続く。
ロルフィングが提供するのは完成品ではなく、変容を続ける身体だ。
何をもって、整ったとするか
統合セッションでも判定は変わらない。
セッションの終わりに見ているのは、身体が重力とよりよい関係にあるかどうかだ。重力が負担ではなく、資源として働いているか。技法によってではなく、この目的によってロルフィングは定義されている。
各回の記事
10回を終えた後へ
10回のシリーズを終えた後、さらに統合を深めたい方のためにアドバンスト・シリーズ(5回)がある。決まった手順をなぞるのではなく、その時点の状態に合わせて毎回設計する。統合セッションで始まった組み立て方が、そのまま5回分続くことになる。
このシリーズにも、かつては手順があった。身体軸に戻し、決められた姿勢に置き、膝・肘・肩の蝶番を整える。作ったのはアイダ・ロルフではなく、後継者にあたる二人だ。ただ、手順に固執するとクライアントに負担をかけすぎることがある。そこで、原理に基づいて個々に組み立てる形へ変わっていった。
Jan Sultanは、後年その動機をこう語っている。アイダ・ロルフは、基礎の10回を超えて人に関わるなら、より高い水準の個別性が要ると繰り返し述べていた。それなのに、渡されたのは姿勢を軸にした形式だった。彼はそこに矛盾を見て、手順ではなく、パターンを見分ける力を教えることを選んだ。
前のフェーズ
- 表層セッションとは何か──1〜3回目に起きること
- 深層セッションとは何か──4〜7回目に起きること
- ロルフィングの10回セッションとは何か──身体が変わる3つのフェーズと各回の流れ
- ロルフィング用語集──10回セッションを読むために
大塚英文(Ph.D.)|認定アドバンスト・ロルファー™/ロルフ・ムーブメント・プラクティショナー 東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(医学博士)。外資系製薬会社でメディカル・マーケティング業務に従事した後、2015年より渋谷でロルフィング®セッションを提供。「科学と実践の統合」をテーマに活動。
