10回目:統合──クライアントの自立への扉

最終セッションは、身体全体を見渡して行う。ただしこの回でいちばん重要なのは、施術の内容ではない。

10回目の位置づけ

統合セッションの最後にあたる。8回目で2つの帯を、9回目で全身の連動を扱ってきた。10回目で焦点が当たるのは、全体を締めること、つまりクロージングだ。

統合セッションで何が変わるのかは、別の記事にまとめている。

残す、という仕事

10回目は、残った箇所を仕上げる回ではない。

むしろスペースを残す。そして、あとは時間をかけて、重力によって身体が整っていくのを促す。ここで整えきってしまうと、その先で起きるはずのことが起きなくなる。

これは9回までとは性質の違う仕事になる。触れることよりも、触れずに残す判断のほうが効いてくる。何をしたかではなく、何をしなかったかで結果が決まる回だといえる。

アドバンスト・トレーニングでは、この判断をLettingとMakingという2つの語で扱った。起きるに任せることと、関わって起こすこと。どちらかに寄りきるのではなく、そのときに応じた釣り合いを取ることが、正しい行為と呼ばれる。10回目は、その釣り合いがLettingの側へ大きく傾く回になる。

背景にある見方も教わった。ひまわりが太陽へ向かって伸びるように、人間の身体も重力と調和しながら上へ向かおうとする力を内に持っている。ロルフィングの役割は、それを起こすことではなく、邪魔せずに支えることにある。

セッションの冒頭で観ているもの

冒頭のBody Reading(立ち方や歩き方の観察)で見ているのは、次のような点だ。

  • 立ち方、歩き方が1回目とどう変わったか
  • どこか一箇所を動かしたときに、全体がどう応じるか
  • 残っている緊張が、どの場面で戻ってくるか
  • 顎と頭の力の抜き方
  • クライアント自身が、自分の身体の何に気づけるようになったか

最後の項目が10回目の核心だ。ロルファーが何を見つけたかではなく、クライアントが何を見つけられるようになったか。

クロージングができているかを見分ける問いが、一つある。その人の動きや佇まいに、これは自分のものだという感覚があるかどうか。施術によってもたらされた状態ではなく、自分が持っているものとして扱えているか。ここが変われば、10回は終われる。

セッションで整えていく条件

下肢、骨盤のあたり、胴体、上腕、首、頭と、全身の筋膜に触れていく。ただし部位ごとに扱うのではなく、必ず関連づけて行う。

  • 下肢と頭
  • 胴体と下肢
  • 首と骨盤
  • 顎を緩めながら、全身の力が抜けていく

こうして結びつけていくことで、身体が有機的なつながりを取り戻す。

この回で、身体が受け取る情報

10回目にしていることを、全身の筋膜を統合した、と手技で説明すると、実際に起きていることから離れる。

受け取っているのは、この先は自分で続けてよいという情報だと考えている。支えは通っており、変化はまだ途中で、その続きは日々の生活の中で起きる。この情報が届くと、セッションの中でしか変わらなかった身体が、セッションの外でも変わりつづける形へ移っていく。

自立が目的である

10回のセッションを通じて学んだことを、自分の生活に取り入れていく。それができるようになることが、この回の本質的な目的になる。

継続トレーニングで学んだことのなかに、この主題をはっきり言葉にしたものがある。かつては施術者が知識を持ち、変化も予測できるという前提があった。いまは違う。ワークを行うのはクライアントの側だ。施術者はその条件を整える。ワークの主語が移っている。

ロルフィングが提供するのは完成品ではない。変容を続ける身体だ。自分の身体に気づき、整えていく能力が育てば、セッションが終わった後も変化は続いていく。

アドバンスト・トレーニングで、Ray McCallはロルフィングの目的をこう述べた。クライアントの身体とシステムを支えて、その人自身の道を歩む手助けをすること。その人が本来の自分である状態を促すプロセスだ、と。

姿勢が良くなることも、痛みが軽くなることも、その入口に過ぎない。10回目が向かっているのはその先にある。

10回で終わることと、終わらないこと

正直に書いておきたいことがある。

トレーニングで自分自身が10回シリーズを受けたとき、首こりは軽くなり、胸の詰まりは消え、肩と骨盤を意識せずに歩けるようになった。それでも、左の内耳感覚の偏りだけは最後まで残った。8回目、9回目、10回目と、同じ左右差が三度続けて記録に現れている。原因は分からないまま終わった。

10回シリーズには終わりがある。身体の課題には、必ずしも終わりがない。

その左右差は、11年後に別の経路から扱われることになった。中耳の筋肉に働きかける介入を受けたとき、左右の内耳のバランスが身体感覚としてはっきり分かるようになった。2014年に手で追いかけていたものに、別の入口から届いた形になる。

10回目が「スペースを残し、時間をかけて整うのを促す」回であることと、この結末は無関係ではない。時間をかけるという言葉の、実際の長さがここにある。

何をもって、整ったとするか

10回を終えた身体を、完成した身体とは考えていない。

最後に見ているのは、これまでの9回と同じことだ。身体が重力とよりよい関係にあるか。重力が負担ではなく、資源として働いているか。技法によってではなく、この目的によってロルフィングは定義されている。

クロージングをどう終えるかについては、3つのことを見る。セッションの終盤でクライアントがどんな状態にあるかを丁寧に観る。セッションの後も自己調整が続けられるよう、動きながら保てる安定で終える。そして深層と表層の関係を確かめ、外からの情報に柔軟に応じられる状態にしておく。

アイダ・ロルフは1974年の講演で、聴衆に向けて釣りのたとえを使い、こう語っている。

I hope that among you there are the kind of fish that will go out and bring in another school of fish . . . Not to get their aches and pains taken out, not to have their symptoms removed, but that they might contribute to the understanding of energy in the human universe.

みなさんの中に、外へ出て別の魚の群れを連れてきてくれるような魚がいてほしいと願っています……その人たちが来るのは、痛みを取ってもらうためでも、症状を消してもらうためでもなく、人間の宇宙におけるエネルギーの理解に寄与するためであってほしい

10回目に立っているのは、その入口だ。

セッション後に起きること

  • 全身のつながりが、動きの中で感じられる
  • 姿勢を保つことに使っていた力が戻る
  • 気づいたときに自分で整えられるようになる
  • セッションが終わった後も、変化が続く

分化した部位がつながり、身体が一つの協調した全体として動きはじめる。この状態を、神経科学者で精神科医のDaniel Siegelも統合(Integration)と呼んでいる。彼の定義では、統合が起きたとき、エネルギーと情報の流れは柔軟で、適応的で、首尾一貫し、活力に満ち、安定したものになる。分野は違うが、指している事態は近い。

この統合は身体の変化にとどまらず、感情・思考・知覚にも及んでいく。

10回を終えた後へ

10回のシリーズを終えた後、さらに統合を深めたい方のためにアドバンスト・シリーズ(5回)がある。決まった手順をなぞるのではなく、その時点の状態に合わせて毎回設計する。10回で作った基盤の上に、より個別の課題や深層のパターンを扱っていく。

トレーニングでこの回をどう学んだかは、こちらに書いている。


大塚英文(Ph.D.)|認定アドバンスト・ロルファー™/ロルフ・ムーブメント・プラクティショナー 東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(医学博士)。外資系製薬会社でメディカル・マーケティング業務に従事した後、2015年より渋谷でロルフィング®セッションを提供。「科学と実践の統合」をテーマに活動。

この記事を書いた人

Hidefumi Otsuka