9回目:連動性──手先・足先まで全体をつなぐ

8回目で肩帯と骨盤帯が連動しはじめると、9回目ではその先端まで届かせる。手先と足先を含めた全身が、一つの動きとして協調する状態を目指す回だ。

9回目の位置づけ

統合セッションの2回目にあたる。1〜7回目が部位を扱う段階、8〜10回目が全体を扱う段階だとすれば、9回目はその全体をいちばん広く取る回になる。

8回目が静を担ったのに対し、9回目は動を担う。トレーニングで与えられていた主題は、流れ、為すこと、機能、動き、統合だった。動かずに支えられる状態から、動きながら保てる状態へ移る。

もう一つ、この回で変わるものがある。動きの組み立て方だ。

何かが起きてから反応する状態から、起きる前に備える状態へ。動き出す前に支えが用意されていて、いつどれだけ加速するかが先に決まっている。2回目で扱ったPre-movementが、全身の規模で働きはじめる、と言ってもいい。

統合セッションで何が変わるのかは、別の記事にまとめている。

帯が透明になる

トレーニングのクラスでは、この回の目標を印象的な言い方で表していた。骨盤帯と肩帯が透明(invisible)になると理想的だ、と。

骨盤や肩を意識しなくても滑らかに動ける。動きの起点として自覚に上らなくなる。うまく働いている構造は、意識から消える。8回目で連動を作った2つの帯が、9回目では感じられなくなる方向へ進んでいく。

整うことと、感じられなくなることが同じ方向を向いている。ここが9回目の面白いところだ。

歩きは対角でできている

人間の歩行は、対角の連動で成り立っている。

一歩ごとに骨盤が左右に4〜5度回旋し、これが歩幅を生む。同時に、右足が前に出るとき左腕が前に出る。この対側の動きが体幹の回旋を起こし、そのエネルギーが次の一歩へ引き継がれる。

だから、片側の問題として現れているように見えても、実際には対角のラインの問題であることが多い。9回目で扱うのはこの連なりになる。

なぜ「歩く」は人間の基本なのか──二足歩行・重心移動・重力の科学

対角の差は、使ってきた痕跡

仰向けで手足がどう協調するかを見ていくと、左足から右手へのラインは力が入りやすく緊張しやすいのに、右足から左手へのラインは力が入りにくい、といったことが起きる。左右のどちらが弱いという話ではなく、対角のラインごとに質が違う。

この差を、歪みとして扱わない。使ってきた証だからだ。

利き手、仕事で繰り返す動作、長く続けてきた練習。どれも身体に方向を与える。自分の場合は、10年近く続けたアシュタンガ・ヴィンヤサ・ヨガが、右手を強く左手を弱く使うという形で残っていた。

ヨガのアーサナは、左右を均等に行うよう組まれている。それでも非対称は残る。均等に配置された動きを、非対称な身体が受け取るからだ。練習の量では解けないものがある。

9回目にすることは、この差をなくすことではない。対角の連なりが通れば、差があっても全体は協調できる。

セッションの冒頭で観ているもの

冒頭のBody Reading(立ち方や歩き方の観察)で見ているのは、次のような点だ。

  • 仰向けで、左足と右手、右足と左手の協調にどう差があるか
  • 歩行中、腕の振りと反対側の脚が対応しているか
  • 手指と足指まで動きが届いているか
  • 目を閉じて数回回旋し、足を揃えて両手を前へ出したときに、身体がどちらへ傾くか
  • 顎とAO関節に残る緊張

目を閉じた状態でのバランスを見ると、平衡感覚の偏りが姿勢としてそのまま現れる。7回目で扱った内耳感覚が、ここで再び顔を出すことは珍しくない。

セッションで整えていく条件

椅子に座り、坐骨が広がって仙骨がより自由になるところから始める。8回目で入った使い方を確かめてから先へ進む。

次に体側を下にして横たわり、足のつま先から坐骨、骨盤へと続く筋膜の緊張がほどけていく。そこから胸と手をつなげる意識へ移る。反対側も同じ手順で行う。

最後に仰向けで、胸椎から脊椎にかけて筋膜が伸び、頭蓋骨の裏にあるAO関節が緩んでいく。

身体には6つのスペースがあるという捉え方がある。それぞれが独立して存在するのではなく、連動して働く。9回目で扱っているのはこの連動そのものだ。

力は、抜こうとして抜けない

この回に、印象的な手順がある。

体側を下にして横たわった状態で、嗅覚・聴覚・視覚を働かせながら手を動かしてもらう。すると、手の力が抜ける。

力を抜こうとして抜けたのではない。他のことに注意が向いたときに、抜けた。自分の身体を操作した結果ではなく、感覚器が外の世界と関わりはじめたときに、身体のほうが不要な力を手放した。

9回目が目指す協調は、この種類のものになる。全身を意識してつなげるのではない。つなげようとする意識をやめたときに、つながっている。帯が透明になるというのも、同じことを別の側から言っている。

この回で、身体が受け取る情報

9回目にしていることを、上肢帯から末梢へアプローチした、と手技で説明すると、実際に起きていることから離れる。

受け取っているのは、末端まで届いているという情報だと考えている。手先も足先も、胴体から切り離された部品ではない。どこか一箇所が動けば、全体が応じてよい。この情報が届くと、部分で動かしていた身体が、全体で動く形へ組み替わりはじめる。

何をもって、整ったとするか

手足がよく動くようになったかどうかを、それ自体では成果としない。

セッションの終わりに見ているのは、重力との関係のほうだ。歩いているとき、床から返る力が足先から手先まで通り抜けているか。どこか一箇所で止まって、そこだけが働いていないか。重力が、全身をつなぐ流れとして働いているか。

セッション後に起きること

  • 胸の詰まりが取れ、広がりが大きくなる
  • 坐骨から頭までのつながりが感じられる
  • 骨盤帯と肩帯を意識せずに歩ける
  • 手足の末端まで動きが届く
  • 腕を振る、脚を出すといった動作の起点が変わる

次の回へ

全体が連動しはじめると、残るのはクロージングだ。10回目では身体全体を見渡し、10回で学んだことを生活に持ち帰る段階に入る。

トレーニングでこの回をどう学んだかは、こちらに書いている。


大塚英文(Ph.D.)|認定アドバンスト・ロルファー™/ロルフ・ムーブメント・プラクティショナー 東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(医学博士)。外資系製薬会社でメディカル・マーケティング業務に従事した後、2015年より渋谷でロルフィング®セッションを提供。「科学と実践の統合」をテーマに活動。

この記事を書いた人

Hidefumi Otsuka