8回目:肩帯・骨盤帯──2つのGirdleへのアプローチ

7回目までで各部位が整うと、8回目から統合セッションに入る。ここから、身体を部分として扱う視点が、全体として扱う視点に切り替わる。

8回目の位置づけ

統合セッションの1回目にあたる。扱うのは、肩帯と骨盤帯という2つの帯(Girdle)だ。肩帯は肩甲骨から鎖骨、胸骨のあたり。骨盤帯は恥骨、坐骨、腸骨、骨盤底のあたりになる。

8回目と9回目には、対になる主題が与えられている。8回目は、在ること、存在、構造、静止、そして安定。9回目は、流れ、為すこと、機能、動き、統合。在ることと為すこと、と言い換えてもいい。

まず、動かずに支えられる状態を作る。その上で、動きながら保てる状態へ移る。8回目が静を、9回目が動を担う。

そしてこの2回は、決まった手順を持たない最初の回でもある。教科書的には8回目が肩帯と骨盤帯、9回目が末端までの連動だが、実際には7回目までに何が残っているかで決まる。上半身寄りにするか下半身寄りにするかを、その人に合わせて選ぶ。慣例としては、7回目で上へ向かった分を釣り合わせるために8回目を下半身寄りにし、9回目を上半身寄りにしてクロージングへ備える。7回目の続きとして8回目を使うこともある。

以下に書くのは、その一例になる。

統合セッションで何が変わるのかは、別の記事にまとめている。

なぜ2つの帯なのか

肩帯は上肢(肩から肘、手)の動きの基礎になり、骨盤帯は下肢(腿から脛、足)の動きの基礎になる。手足がどう動けるかは、この2つの帯がどれだけ自由かで決まる。

そして、この2つは互いに連動している。歩くとき、肩帯と骨盤帯は逆方向へ回旋する。右足が前に出るとき左腕が前に出るのは、この連動が働いているからだ。片方が固まれば、もう片方も動きを制限される。

8回目の重心は、それぞれを緩めることよりも、2つが連動して動ける状態にある。ここが整うと、全身の動きの土台ができる。

ヨガのポーズを思い浮かべると分かりやすい。ダウンドッグや逆立ちのポーズでは、肩帯と骨盤帯のバランスの取り方が要になる。ここを考えずにポーズを取ると、肩や腰に極端な負担がかかる。基礎トレーニングでは、ヨガの指導者でもあるGiovanni Felicioniが、実例をもってこれを示した。

もっとも、8回目に何をするかは決まりきったものではない。統合セッションは、7回目までに残っている課題をもとに組み立てる。以下は、その一例として読んでほしい。

姿勢を良くしようとしてきたこと

椅子に坐骨で座り、背筋を伸ばす。このとき腹筋に力を入れている方は非常に多い。

これは怠けの結果ではなく、その逆だ。姿勢を良くしようとしてきた努力の跡になる。背筋を伸ばそう、猫背を直そうと意識してきた身体が、その意識を実行する手段として腹筋を選んだ。

ただ、この使い方をしていると、その内側にある大腰筋や、鎖骨から胸骨まわりの筋肉まで一緒に緊張する。座り方ひとつが全身に及ぶ。姿勢を良くしようとする努力が、そのまま2つの帯を固めていることになる。

8回目にすることは、その努力をやめさせることではない。腹筋を使わなくても背筋が伸びるという事態が起きると、身体はそちらを選びはじめる。

セッションの冒頭で観ているもの

冒頭のBody Reading(立ち方や歩き方の観察)で見ているのは、次のような点だ。

  • 椅子に坐骨で座り、背筋を伸ばしたときに腹筋が働いていないか
  • 鎖骨と胸骨のあたりに詰まりがないか
  • 肩帯と骨盤帯が、歩くときに逆方向へ回旋しているか
  • 腕を挙げたときに、骨盤側が応じているか
  • 坐骨の広がりと、仙骨の自由度

セッションで整えていく条件

骨盤帯には、坐骨から背骨を通って頭までつながる道が開くよう働きかける。

  • 体側を下にして横たわり、坐骨と仙骨をつなぐ靭帯を緩める
  • 骨盤と肋骨をつなぐ筋肉(腰方形筋のあたり)に触れる。ここが2つの帯の連動を左右する
  • 椅子に座って坐骨を広げ、仙骨が緩むのを待つ。腹筋が緩んだまま、胸骨から背骨が伸びていく
  • 脚を壁につけ、身体を90度に曲げて両手を椅子に置く。ヨガでいえばダウンドッグに近い形で、同じ動きを別の角度から確かめる

肩帯には、鎖骨から胸骨のあたりの圧迫感がほどけるよう、仰向けで胸椎から頚椎までの筋膜に触れていく。

新しいパターンには時間がかかる

腹筋を使わずに坐骨から背筋が伸びる。この使い方が身体に入ると、全身の力が抜けやすくなる。

ただしこれは新しいパターンであり、定着には時間がかかる。10回が終わった後も続けていく類のものだ。

そして、古いパターンが消えるわけでもない。新しいパターンは、古いパターンと並ぶ選択肢の一つとして加わる。身体は選べるようになるのであって、上書きされるのではない。だから、疲れているときや急いでいるときには、古いほうが出る。それは後退ではなく、選択肢がまだ2つあるということになる。

統合セッションが「その後も続くこと」を前提にしているのは、このためだ。10回で終わることと、その後も続くこと。この2つは矛盾しない。

この回で、身体が受け取る情報

8回目にしていることを、腰方形筋を緩めた、胸鎖関節を扱った、と手技で説明すると、実際に起きていることから離れる。

受け取っているのは、腕と脚は胴体から動いてよいという情報だと考えている。手足を動かすのに、肩や骨盤を固めて土台を作る必要はない。この情報が届くと、固めてから動かしていた身体が、つながったまま動く形へ組み替わりはじめる。

何をもって、整ったとするか

肩や骨盤が柔らかくなったかどうかを、それ自体では成果としない。

セッションの終わりに見ているのは、重力との関係のほうだ。上下の2つの帯が、互いを妨げずに回旋できているか。下からの支えが骨盤帯を通って肩帯まで届き、そこから腕へ抜けているか。

セッション後に起きること

  • 首こりが軽くなる
  • 胸まわりが自由になる
  • 坐骨が広がり、仙骨の感覚が広がる
  • 腕と脚が、胴体から動かせるようになる

次の回へ

2つの帯が連動しはじめると、次はその先端だ。9回目では、手先と足先までを含めた全身の連動性を扱う。

トレーニングでこの回をどう学んだかは、こちらに書いている。


大塚英文(Ph.D.)|認定アドバンスト・ロルファー™/ロルフ・ムーブメント・プラクティショナー 東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(医学博士)。外資系製薬会社でメディカル・マーケティング業務に従事した後、2015年より渋谷でロルフィング®セッションを提供。「科学と実践の統合」をテーマに活動。

この記事を書いた人

Hidefumi Otsuka