はじめに
2019年4月から10月まで、東洋医学の講座を受けた。神奈川県の Kei.K Aroma Studio で開かれた「からだの学校【東洋医学】」で、全6日、1日2コマ、合計12コマ。講師は札幌の風の音の治療院の安部雅道さん、鍼灸師である。
この記事は、その6日間で何を学んだのかをまとめたものだ。個別の内容は4本の記事に分けて書いた。ここでは、なぜ受けたのか、どういう場だったのか、そして受け終えて何が残ったのかを書く。
ロルフィングを学んできた人間が、なぜ東洋医学の講座に通ったのか。そこから始めたい。
なぜ受けたのか
きっかけは、前年の11月にさかのぼる。
大阪・北浜の TEN を主宰する佐藤博紀さん(以下ヒロさん)のIMACという講座に、2015年から通っていた。身体の可動域を測ることで、どこに制限があるのかを評価していく方法である。2018年11月、その内臓のクラスに参加した。
参加者どうしでペアを組んで練習する時間があり、そのとき組んだのが安部さんだった。練習をするはずが、どういうわけか、ヒロさんと安部さんが実験を始めた。経絡の上にある筋肉の可動域を測り、ツボに刺激を与えると、身体がどう変わるのか。細かいところは省くが、大きな変化が起きるのを自分の身体で確かめることになった。
それまで東洋医学は、本で読んで理屈として知っているだけだった。このとき初めて、理論ではなく体感として面白いと感じた。
同じ頃、IMACの講座そのものにも経絡が入りはじめていた。2019年3月の下肢のクラスで6本、4月の上肢のクラスで12本が揃う。可動域を測ることで、東洋医学でいう五臓のどこが影響を受けているのかに見当がつく、という組み立てだった。
そこで、疑問が出てきた。
IMACは、可動域という西洋の道具で経絡を測っている。では、測られている側の経絡とは何なのか。五臓とは何を指しているのか。IMACが何を測っているのかを、東洋医学の側から知りたい。そう思っていたところに、安部さんから講座の案内をいただいた。2019年1月のことで、すぐに申し込んだ。
受ける前に、期待として3つ挙げていた。陰陽説と五行説を理解すること。内臓と経絡の関係を知り、IMACの理論的な背景をつかむこと。そして、東洋医学を西洋医学の側から理解すること。
どういう場だったか
全6日、1日2コマ。午前10時から午後3時まで。会場は神奈川の Kei.K Aroma Studio で、場を提供されたのは小林ケイさん、講師が安部さんという形だった。
日程は6回とも日曜日だった。
| 回 | 日付 | 内容 |
|---|---|---|
| 1 | 2019年4月7日 | 陰陽説と五行説 |
| 2 | 2019年5月12日 | 五行の各論(木・火) |
| 3 | 2019年6月2日 | 五行の各論(土・金) |
| 4 | 2019年7月7日 | 五行の各論(水)/氣 |
| 5 | 2019年9月8日 | 血・水/経絡 |
| 6 | 2019年10月6日 | 弁証 |
初日に配られたプリントは12ページしかなかった。東洋医学の本を開くと、陰陽や五行について詳しく書いてある。しかし、どこが要点なのかは書かれていない。安部さんの12ページは、そこだけを取り出したものだった。
質問が多く、脱線もよく起きた。それでも毎回、時間内に収まる。膨大な情報の中から本質的なところを取り出して伝える、という一点で、6日間を通して同じことが起きていた。
これは、私が学びの場を選ぶときに見ているものと重なる。IMACのヒロさん、イノチグラスの灰谷孝さん、ロルフィングのPedro Prado。言語化できる人から学ぶと、受け取れる量が変わる。安部さんはその4人目だった。
西と東で、基準のありかが違う
6日間で一番大きかったのは、五行の知識でも経絡の走行でもなかった。基準がどこにあるか、という一点である。
西洋医学は、客観的な指標を外に求める。血液検査の数値、画像、統計。集団の平均値をとり、万人に当てはまる原理を探していく。判断の基準は統計的有意で、100人のうち95人に当てはまれば正しいとする。
東洋医学は、そこが逆になっている。
安部さんは初日にこう言った。陰陽は、何を基準にするかを決めた上で比較する。だから、比較するものによって何が陰性で何が陽性かは変わる。基準は自分で決めることができる。そこが東洋医学の面白いところであり、便利なところだ、と。
指標が自分の中にある、ということである。
食事についての別の講座でも、同じことを言われた。どの食事が自分に合っているかを判断する材料は、食欲、味覚、目覚めの3つだという。何を食べたいか、何が美味しいか、翌朝の目覚めはどうか。答えはエビデンスの側ではなく、自分の身体の側にある。
この違いを、どちらが正しいという話として受け取らなかった。西洋医学の否定ではなく、もう一つの尺度を手に入れたということだ。医学には別の尺度がある。それが分かったことが、6日間で一番大きい。
何を学んだのか
4本の記事に分けて書いた。
五行という分け方──身体は自ずと整う方向へ向かう
東洋医学は氣という目に見えないものを扱う。氣のままでは実感が湧かないので、イメージしやすい形にした。それが陰陽説と五行説である。木・火・土・金・水の5つに分け、それぞれに臓と腑を割り当てる。臓は詰まっているもの、腑は空洞であり通り道。五臓を整えると、五腑は勝手に整っていく。相生と相剋の関係があるので、どこかが乱れると、身体は自ずとバランスを取り戻す方向へ向かう。
この考え方に衝撃を受けた。西洋医学のように、感情、個性、生理機能を細かく分けて扱うのではなく、同じグループに入れて同じものとして扱う。細かい解剖学や栄養学を知らなくても、整う方向へ向かうことができる。ロルフィングやソースポイントセラピー、IMACの考え方と、向いている方向が同じだった。
氣・血・水──目に見えないものを、三つに分けて扱う
生命を維持する基本物質を3つに分ける。目に見えない氣、目に見える血、そして体の水分である水。氣は原氣・宗氣・営氣・衛氣の4つの視点から見る。血は作られ、巡り、貯蔵され浄化される。水は三焦という目に見えない通り道を流れる。それぞれの状態は、具体的な症状に現れる。顔色、筋肉の張り、皮膚、毛髪、爪。血液検査の数値ではなく、見えるところから推測していく。
経絡とは何か──氣と血の通り道と、身体のセンターライン
正規のルートが12本。身体の前・後・横という位置で並んでいる。手の経絡は胸にある臓、足の経絡は腹にある臓につながる。ここで一つ、大きなことを教わった。五臓は頭と首につながっていない、ということである。五感を司るはずの五臓が、頭につながっていない。だとすれば、情報を届ける役割を持つ何かを想定しなければならない。それが五腑にあたる。五臓と五腑を分ける理由は、通り道の問題なのか、エネルギー不足の問題なのかを見分けるためだった。
そして督脈と任脈。前者は全身の陽経を、後者は全身の陰経を管理する。この2本を先に整えてしまえば、残りは絞り込める。安部さんは臨床でそこにたどり着いていた。督脈と任脈は、身体のセンターラインを整える。
弁証という手順──なぜ、いきなり内臓を見ないのか
東洋医学の診断にあたる。証を立てる、とも言う。八綱弁証、氣血津液弁証、臓腑弁証の3つがあるが、順序が決まっている。いきなり五臓から入らない。最初から細部を見ると全体を見失うからだ。まず陰陽、次に虚実、寒熱、表裏。そこから絞り込んでいく。病因は外因・内因・不内外因の3つに分け、気象条件と心理条件と生活条件を同列に扱う。
受け終えて
受講の目的だった問い、IMACが何を測っているのかについては、答えが得られた。
経絡は身体の位置で並んでいる。前・後・横、手と足。可動域を測るということは、その位置に対応する経絡の状態を見ているということだった。IMACが可動域という西洋の道具で経絡を測れるのは、経絡がもともと身体の形として扱われてきたからである。
督脈と任脈がセンターラインを整える、という話も同じところに届いた。ロルフィングは、表層のセッションで表層を整え、深層のセッションで深層とセンターラインを整え、統合のセッションで全体をまとめる。ソースポイントセラピーのダイヤモンド・ポイントやスティック・フィギュアも、センターラインを整えるためにある。別々の場所から来た体系が、同じところを指していた。
もう一つ残ったのは、順序である。
弁証で教わった、いきなり五臓から入らないという順序。八綱から始めて、氣血水を見て、五行まで絞ってから、最後に五臓を見る。全体から入って細部へ降りる。IMACで可動域から入るのも、ロルフィングでボディリーディングから入るのも、同じ形をしている。細部から入ると全体を見失う、という警告は、どの体系でも同じだった。
東洋医学が一番だとも、西洋医学が一番だとも思わなくなった。それぞれに良さがあり、視点がある。両方を持っていると、目の前の身体について言えることが増える。それが6か月で得たものだった。
まとめ
この講座を受けたのは、IMACが何を測っているのかを知りたかったからだった。答えは得られたが、得られたものはそれだけではなかった。
基準が自分の中にある、という考え方。全体から入って細部へ降りる、という順序。そして、自ずと整う方向へ向かう身体という見方。どれも、私がロルフィングで学んできたことと、離れたところにはなかった。
膨大な情報から本質だけを取り出して伝える。6か月にわたって、それを続けてくださった安部雅道さん、そして学ぶ場を提供された小林ケイさんに、あらためて感謝を申し上げたい。
この講座について書いた記事
- 五行という分け方──身体は自ずと整う方向へ向かう
- 氣・血・水──目に見えないものを、三つに分けて扱う
- 経絡とは何か──氣と血の通り道と、身体のセンターライン
- 弁証という手順──なぜ、いきなり内臓を見ないのか
