【R#76】Phase III(17)〜身体地図と幻肢

Body Reading(身体観察)を行う際、身体がどのような姿勢を取っているのか?ということについて触れてきた。ここで気になるのは、なぜ身体が姿勢をとることができるのだろうか?という点である。
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なぜ、自分の身体の足、膝、腰、肩、腕、手をしっかりと認識できるのか?目を閉じてもなぜ鼻、口、目に触れることができるのか?考えてみれば不思議。そこでその説明に入る前に一つ興味深い体験をしたのでそのシェアから始めたい。
クライアントセッション中(セッションは6回目。セッションの詳細については【RolfingコラムVol.29】参照)に興味深いことが起きた。腰痛持ちだったために、腰椎の3椎の神経を抜くという手術を過去に行った。病院のみならずオステオパシーを含めいろいろな医療機関を通っているにもかかわらず、痛みが未だに持続しているらしい。セッション6では、背骨の終わりに位置する仙骨を調えるセッション。仙骨は靭帯を通じて下肢にもつながっているので、身体の背骨と下肢の双方を後側から調っていく。そして今回その中心に位置する腰にたどり着いた。
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セッション6で仙骨を調えるセッションが終わりに近づいたときに、左右の足の後ろから首まで一直線に身体がつながったという自分の感覚があったのだが、どういうわけだが、右側のつながりを本人は感じることができなかった。なぜだろう?ということでPhase IIIのAndrea先生を呼んで一緒に対処することにした。
まだ、セッションが残っていてこれはあくまでも推測の域を出ないが、おそらくこれは幻肢(Phantom Limb)の一種ではないか、と。幻肢というのは、事故・病気が原因で手・足が失った患者が存在しないにもかかわらず、そこに手・足があるように感じる ことだ。おそらく、昔の痛みが手術をしたのちにも続いている可能性があるのかもしれないことが考えられた。
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その場合に、「気にかけている人がここにいるんだよ」というサインを送ることで少しずつ良くしていく方法がとられるらしい。例えば、今回は、腰から繋がる脊椎の棘突起に手を当てて静かに身体の反応を聞きながらの施術を最後に取り入れた。果たして、改善していくのか?これから経過待ちになりそうだが、今後とも一つ一つのセッションを細心の注意を払いながら、辛抱強く続けたい。
先ほど述べた、身体の姿勢や身体の構成するパーツはなぜ自分自身は認識することができるのか?と幻肢は表裏一体になっている。いずれにせよ、それは人間には身体地図(body map)があるため、地図を頼りにどこになにがあるのか?について知ることができる。
Media technologies concept
Sandra Blakesleeに「Body Has a Mind of Its Own(邦訳:脳の中の身体地図)」の本では、2種類の身体地図が紹介されている。ボディスキーマ(Body Schema)とボディイメージ(Body Image)だ。
ボディスキーマは脳によって無意識に作られる身体地図だ。主に五感(視覚、聴覚、触覚等)、固有感覚(Proprioceptive)(固有感覚とは、手足等の身体情報に基づいて制御される知覚、もしくは身体位置の知覚のことをいう)や平衡感覚(Vestibular)等により無意識に地図が作られる。ボディスキーマは皮膚、関節や筋肉の感覚によって絶えず情報を更新している。ロルフィングに限らず、太極拳やヨガを含めたボディワークはボディスキーマという無意識に働かせている身体感覚を意識化させることにある。
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興味深いのは、幻肢とボディスキーマの関係。幻肢の研究で有名な脳科学者ラマチャンドラン博士を含めた研究者によって唱えられている一つの仮説として、四肢のどれかを失うと、脳が数時間以内に無意識に身体地図を再構築するらしい。そして幻肢が現れるのはこの時。新たな身体地図を脳が受け入れる場合には、この幻肢が消えることがあるが、長い場合には何十年と居座り続けるらしい。
一方で、ボディイメージは、身体によって意識的に知覚することで作られた身体地図だ。個人的な経験や態度、自分に対する期待や思い込みによって作られるといってもいい。痩せているのに太っていると感じることは、一つのボディイメージである。
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ボディイメージは、自分がどのように身体を知覚するのか?というPerceptionに関わっているともいえる。ロルフィングではPerceptionに対して、新たな選択肢を与えるようなワークをすることについて本コラムで以前触れた(この詳細は【RolfingコラムVol.72】参照)。
身体観察を行う際に、ボディスキーマとボディイメージを分けて考えるとわかりやすい。この二つの考え方を知ることで、ロルフィングの施術のどこに集中したらいいのか?明確になるからだ。
身体地図との関係についてはまた本コラムで触れる予定だ。

この記事を書いた人

Hidefumi Otsuka