【R#92】アレクサンダー・テクニックとの関係(2)

2015年4月21日、アレクサンダー・テクニック教師の荒牧稔博先生(以下トシ先生)に再会できた。彼を通じてアレクサンダー・テクニック(以下AT)を知った経緯については、【RolfingコラムVol.85】に書いた。
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ATについては、【RolfingコラムVol.11】に書いたが、頭と脊柱の関係に注目することで、身体の不必要な自動的な反応に気づき、それをやめていくことを学習。力を抜くことを身体で覚えていく方法の一つだ。 フレデリック・マサイアス・アレクサンダー(Frederick Matthias Alexander)によって開発されたが、アイダ・ロルフがロルフィングの手法を開発していくにあたって、大きな影響を及ぼした。
トシ先生とは、ロルフィングとATの違いについて話したのだが、2つのボディワークの違いを理解する上で、彼と話していてすごく整理ができた。今回、彼と話した内容を中心に取り上げたい。参考に、【RolfingコラムVol.85】では、ロルフィングのトレーニングとの共通性について取り上げたが、今回は、ロルフィングと ATがなぜ補っていける関係にあるのか?について書きたい。
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ロルフィングには、Tonic Functionという考えがある。本コラムで紹介したことがあるが(【RolfingコラムVol.42】【RolfingコラムVol.43】参照)、キーとなるのが2方向性(Palantonicity)だ(【RolfingコラムVol.19】参照)。
Godard 氏の言葉を紹介すれば、2つの方向性とは、足を整えることで下半身の土台を築く(Ground orientation:ground:地に着く、orientation:方向性)という一つの方向性と、土台に基づいて上半身が自由にSpaceと関係を構築する(Space Orientation)というもう一つの方向性という、2方向をもつことだ。
ATでは、脊椎と頭蓋骨との接点にあるAO関節の緊張を解き、上半身が自由に動けることで力が抜けるようになると考える。これだけでも、絶大な効果が実感できるのだが、実は、もう一つの方向性、すなわち、下半身に対するアプローチがあって初めてそれが効果として現れるのだ。例えば、AO関節の緊張を解いた後に坐骨や足から伸びることに意識を向けることで、それが可能となる。
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そして、ロルフィングは、10回セッションのうち、1、3、5、7回は、上半身のセッション、2、4、6回は下半身のセッション。それぞれ交互に行うことで、二方向性が意識できるように目を向けていくのだ。
また、ATからもロルフィングは学べることがある。
AT教師のバジル・クリッツアー先生の著書「吹奏楽指導者が心がけたい9つのこと」には、ATにおける「言葉遣い」の重要性について書いてあり、ロルフィングにも利用できる。
例を挙げたい。
ATでは、「背筋は伸ばすものではなく、伸びるものである」という。それは、背筋は伸ばそうと思っても伸びるものではないと考えるからだ。もう少し詳しく説明すると、「背筋が伸びるという状態」は、姿勢の制御や安定をになっている深層筋が働くときに生まれ、いわば無意識の動作である。これは、ロルフィングでいうγ運動神経系の支配下にあるTonic Muscle(持続的に働く筋肉)が働いた状態ともいえる(【RolfingコラムVol.42】参照)。
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もちろん、「背筋は伸ばす」というのは一見正しいように思うが、意識的に行うと、力みも伴い、疲れとともに姿勢が維持できなくなり、崩れる。つまり、無理に姿勢を維持しようとして、姿勢維持に関わらない筋肉を使うことによって姿勢が崩れるのだ。ロルフィングでいうα運動神経系に支配されるPhasic muscle(疲労感のある一時的に働く筋肉)が働いている状態ともいえる。
ロルフィングでは、
身体に2方向性を与えることで、身体内でスペースができ、もっとも適した位置に筋肉が働き出すようになる
と考える(【RolfingコラムVol.19】参照)。このため、この言葉はロルフィングに対しても当てはまると思う。
「人間は、感覚は覚えておくことができない」ということを知ることで言葉遣いの重要性がより明確になる。
ロルフィングのセッションを行っている最中にクライアントと対峙し、施術を終えた後、クライアントから
「この感覚を維持できれば・・・」
とよく言われることがあった。
自分の体験からも言えることだが、感覚というのは、漠然したものであり、身体が変わった感覚というのはわかっていても、再現することが思いの外難しいことがわかる。
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バジル先生の本では、感覚よりも、脳からの指令で身体内でどのような動きが起こるのか?
つまり、
考え→動き→感覚
というプロセスでみることでそれは、解決できるという。どのような考え方でその感覚に至ったのか?というプロセスをみることで、再現できる可能性が高まるからだ。考えを表現するのは言葉が最も有効な手段。言葉遣いが大切になるのは、思考を通じて再現できる可能性があるからだ。
言葉遣いを通じた考えの再現というのは、今後私自身がロルフィングの施術を通じて、是非ともクライアントへ伝えていきたいと思っていることでもある。
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ATとロルフィングというのは、このようにお互いが強みを持っており、組み合わさることによって効果がより高まると思う。私自身は、ロルフィングという一つの手法に拘泥するのではなく、様々な視点、様々な考え方をもった人とコラボすることで、ロルフィングの手法を伝えていければと思っている。
また、ATとロルフィングとの関係は本コラムで取り上げていきたい。

この記事を書いた人

Hidefumi Otsuka