2015年4月21日、アレクサンダー・テクニック教師の荒牧稔博先生(以下トシ先生)に再会できた。彼を通じてアレクサンダー・テクニック(以下AT)を知った経緯については「ロルフィングとアレクサンダー・テクニックとの関係(1)──「力を抜く」ことを身体で学ぶ二つの方法」に書いた。
ATについては「力が抜けない身体を、どう解くか〜ヨガに足りなかったもの」に書いたが、頭と脊柱の関係に注目することで、身体の不必要な自動的な反応に気づき、それをやめていくことを学習する。力を抜くことを身体で覚えていく方法の一つだ。フレデリック・マサイアス・アレクサンダー(Frederick Matthias Alexander)によって開発されたが、アイダ・ロルフがロルフィングの手法を開発していくにあたって大きな影響を及ぼした。
トシ先生とは、ロルフィングとATの違いについて話したのだが、2つのボディワークの違いを理解する上で、彼と話していてすごく整理ができた。今回は、彼と話した内容を中心に取り上げたい。参考に、前回はロルフィングのトレーニングとの共通性について取り上げたが、今回は、ロルフィングとATがなぜ補っていける関係にあるのかについて書きたい。
ロルフィングには、Tonic Functionという考えがある。本コラムで紹介したことがあるが(「疲れる筋肉と、疲れない筋肉〜姿勢を支えるTonic Function」「2方向性が身体を調える〜Tonic Functionと歩行・座位」参照)、キーとなるのが2方向性(Palintonicity)だ(「基本的な考え方〜2方向性(Palintonicity)」参照)。
Godard氏の言葉を紹介すれば、2つの方向性とは、足を調えることで下半身の土台を築くという一つの方向性(Ground Orientation。groundは地に着く、orientationは方向性)と、土台に基づいて上半身が自由にSpaceと関係を構築するというもう一つの方向性(Space Orientation)、この2方向をもつことだ。
ATでは、脊椎と頭蓋骨との接点にあるAO関節の緊張を解き、上半身が自由に動けることで力が抜けるようになると考える。これだけでも絶大な効果が実感できるのだが、実は、もう一つの方向性、すなわち下半身に対するアプローチがあって初めて、それが効果として現れる。例えば、AO関節の緊張を解いた後に、坐骨や足から伸びることに意識を向けることで、それが可能となる。
そして、ロルフィングは、10回セッションのうち、1、3、5、7回は上半身のセッション、2、4、6回は下半身のセッション。それぞれ交互に行うことで、2方向性が意識できるように目を向けていくのだ。
また、ATからもロルフィングは学べることがある。
AT教師のバジル・クリッツアー先生の著書『吹奏楽指導者が心がけたい9つのこと』には、ATにおける言葉遣いの重要性について書いてあり、ロルフィングにも利用できる。
例を挙げたい。
ATでは、背筋は伸ばすものではなく、伸びるものである、という。それは、背筋は伸ばそうと思っても伸びるものではないと考えるからだ。もう少し詳しく説明すると、背筋が伸びるという状態は、姿勢の制御や安定をになっている深層筋が働くときに生まれ、いわば無意識の動作である。
これは、ロルフィングでいうγ運動神経系の支配下にあるTonic Muscle(持続的に働く筋肉)が働いた状態ともいえる(「疲れる筋肉と、疲れない筋肉〜姿勢を支えるTonic Function」参照)。
もちろん、背筋は伸ばすというのは一見正しいように思うが、意識的に行うと力みも伴い、疲れとともに姿勢が維持できなくなり、崩れる。つまり、無理に姿勢を維持しようとして、姿勢維持に関わらない筋肉を使うことによって姿勢が崩れるのだ。ロルフィングでいうα運動神経系に支配されるPhasic muscle(疲労感のある一時的に働く筋肉)が働いている状態ともいえる。
ロルフィングでは、
身体に2方向性を与えることで、身体内でスペースができ、もっとも適した位置に筋肉が働き出すようになる
と考える(「基本的な考え方〜2方向性(Palintonicity)」参照)。このため、この言葉はロルフィングに対しても当てはまると思う。
人間は感覚を覚えておくことができない、ということを知ることで、言葉遣いの重要性がより明確になる。
ロルフィングのセッションを行っている最中にクライアントと対峙し、施術を終えた後、クライアントから
この感覚を維持できれば
とよく言われることがあった。
自分の体験からも言えることだが、感覚というのは漠然としたものであり、身体が変わった感覚というのはわかっていても、再現することが思いの外難しいことがわかる。
バジル先生の本では、感覚よりも、脳からの指令で身体内でどのような動きが起こるのか、つまり、
考え→動き→感覚
というプロセスで見ることで、それは解決できるという。どのような考え方でその感覚に至ったのかというプロセスを見ることで、再現できる可能性が高まるからだ。考えを表現するのは言葉が最も有効な手段である。言葉遣いが大切になるのは、思考を通じて再現できる可能性があるからだ。
言葉遣いを通じた考えの再現というのは、今後私自身がロルフィングの施術を通じて、是非ともクライアントへ伝えていきたいと思っていることでもある。
ATとロルフィングというのは、このようにお互いが強みを持っており、組み合わさることによって効果がより高まると思う。私自身は、ロルフィングという一つの手法に拘泥するのではなく、様々な視点、様々な考え方をもった人とコラボすることで、ロルフィングの手法を伝えていければと思っている。
また、ATとロルフィングとの関係は本コラムで取り上げていきたい。
2026年8月の注記
この記事の後半に、いま読んでも古びていない問いがある。セッションを終えたクライアントが、この感覚を維持できれば、と言う。けれども感覚は覚えておくことができない。身体が変わったことは分かっていても、その状態を自分で呼び戻すのは思いのほか難しい。
答えとして書いているのは、考えから動きが起こり、動きから感覚が生まれる、という順序で見ることだった。どういう考え方でその感覚に至ったのかを辿れば、再現できる可能性が高まる。そして考えを表すのに最も有効なのが言葉だから、言葉の選び方が重要になる。
十一年たって、この問いはロルフィングの中心にあり続けている。基礎トレーニングの最後の日に受け取った質疑応答では、音楽家やスポーツをしている人には、セッションの最初と最後に実際にその動作をやってもらうとよい、と教わった。Rolf Movement の課程は、新しい協調を日常へ統合できるよう支えるものだと説明される。どちらも、部屋を出た後にどう持ち帰るかを扱っている。この記事が立てた問いと同じである。
興味深いのは、その答えをどこから借りてきたかである。アレクサンダー・テクニックの教師が書いた、吹奏楽の指導者に向けた本だった。ロルフィングの外にある体系から借りるという方法は、この時期に繰り返し使っている。ただ、管楽器を教える人のための本というのは、その中でも最も遠い場所にあたる。遠いところから来たものが、いちばん長く残った。
もう一つ、この記事で初めて書かれている語がある。Ground Orientation と Space Orientation。足を調えて下半身の土台を築く方向と、その土台の上で上半身が空間と関係を結ぶ方向。Godard の二方向性が、それぞれ名前を持つ形で並んでいる。
これを使って、この記事は10回シリーズの構造を説明している。奇数回が上半身、偶数回が下半身で交互に進む。教室で順番として教わった配列が、二つの方向性という一つの原理として見えている。
二つの方向性そのものは、基礎トレーニングの教室で話に出ていた。ただ、この形で書いたのはここが初めてである。冒頭にあるとおり、この記事はアレクサンダー・テクニックの教師と話して整理がついたところから書かれている。聞いていたことと、書けるようになることのあいだには、隔たりがあった。そしてその隔たりを埋めたのは、教室の外にいる人との会話だった。






