はじめに
東京・渋谷でロルフィング・セッションと脳科学から栄養・睡眠・マインドの脳活(脳科学活用)講座を提供している大塚英文です。
私は、2015年6月から、ロルフィングのセッションを提供している。「筋膜」へアプローチすることで、身体の姿勢が整えていく。ロルフィングで見る姿勢は「歩く」「立つ」「座る」の3つだ。過去に「なぜ、長時間「座る」ことが身体の良くないのか?」で、長時間、椅子に座ることで、身体内で何が起きるのか?定期的に立つことの大切さについて紹介した。
今回は、人類学が明かした、椅子が発明される前に、人類はどのように座っていたのか?日本の身体文化と背もたれの椅子が登場してから、何が起きたのか?身体に与える影響についてシェアしたい。
すわるとは何か?〜姿勢の種類
座っている方が、立っている方よりも疲れにくく、姿勢が安定するというのは、直感的にわかるかと思う。カロリー的に見ても、立っている時に使われるエネルギーは、静かに椅子に座っている時に比べ、8〜10%のカロリー消費が見込まれている。
エネルギー的にも、身体内の基礎代謝に多くのエネルギーが注がれているので、座る方が、人間にとって理にかなっていて、人間は習慣的に「座る」ようにできているといってもいい。
つい最近まで、人間は椅子を使わずに座っていた。狩猟採集民は、家具を作ることはなく、いまだに欧米を含めた先進国以外の地域では、床に直接座ることが多いのだ。
矢田部英正著の「坐の文明論」には、人類学者のゴードン・ヒューズの「世界中の人々がどのように座ってきたのか?」の成果が紹介されている。民俗学の研究論文に書かれた図像資料を集め、人間の取る姿勢を300余りの種類に分類。
その中で共通する坐法を、
椅子座(Chair sitting posture)
しゃがみ姿勢(Deep squatting posture)
投げ足(Sitting with legs stretched out)
胡座(Cross legged or tailored, fashion postures)
正座(Kneeling on knees and feet or knees and heel)
横座(Sitting with the legs folded to the side)
立膝(One knees up, other down and flexed)
等に分類している。
日本では、昔から日常的に行われている身体技法として古くから伝承し、畳の生活の中で培われていたのだ。しかし、床に座る習慣のない欧米人は、そういった体位に対して名称がないため、わざわざヒューズは分類せざるを得なかったという事情がある。
すわるとは何か?〜「坐」と「座」の違い
興味深いことに、日本語にはすわることに関して「座」と「坐」の2つの漢字がある。
「坐」は、人がすわる形、姿勢を意味しており、坐禅、正坐、坐骨等に使われる。そもそも、坐は、人が土の上にすわる形をとっており、それにまだれ偏をかぶせ「座」となると、人がすわる空間を意味にするようになる。一方で「座」は「座敷」「宮座」「連座」「歌舞伎座」「楽市・楽座」というように「座」は、人々が集い、生活する場所を意味してきた。
そして坐の方が、床に直接すわるという語感を強く持っているといってもいい。欧米の文化が入ってきて、日本にも椅子文化が入ってきているが、歴史的に身体文化を持っていることを知っていると、日本文化の理解が深まると思う。
実は、床にしゃがむ姿勢をとると、足首の内側にある「距骨(きょこつ)」に「距骨蹲踞(そんきょ)面」と呼ばれる小さな滑らかな部分ができる。日本人の和式トイレは、しゃがんだ姿勢で用を足すので、この面が鍛えられることで、長時間、しゃがむことが可能になる。
ダニエル・リーバーマン著の「運動の神話」によると、しゃがむのが慣れていない人の場合は、ふくらはぎが固く、足底を地面に平らにすることができなくなるため、足、ふくらはぎ、大腿四頭筋が疲れてくる上、腰も痛くなりリスクが高まるらしい。
しゃがむ vs 背もたれの椅子
地面に座ること、背もたれのない椅子に座ると、背部や腹部の筋肉は、上半身を支えるために働く必要がある。しゃがんだ時、足、特にふくらはぎの筋肉が働くのだ。筋肉の負担自体はそれほど大きくないが、長時間しゃがむと、筋肉が鍛えられ、長い時間しゃがむことも可能になる。
人類学者のエリック・カスティロは、共同実験で、背もたれの椅子にほとんど座らないケニア人の10代の若者の背筋力が、椅子によく座る都会の10代の若者に比べ、21〜41%も強いことがわかっている。他の研究から、背もたれがあると、少ない筋肉で姿勢が維持されることも明らかになっている。
背もたれの椅子が登場したのは、主に高い地位にいる人たち。16世紀後半になって家具を購入できる中流・上流階級が増え、背もたれがついた椅子がヨーロッパで普及した。
「座る」とロルフィング〜足と背骨のつながりを意識
以前、ロルフィングでは「筋膜」に注目すると書いた。筋膜は、筋肉、内臓、骨、神経を含めた身体の各部位を配置し、身体のエネルギーを効率よく使えるようにする、いわば「姿勢」にとって大事な臓器だ。
ロルフィングは、10回のセッションから構成されているが、2回目に、足を効率よく動かすために必要な「筋膜」を整える。
実は、足全体が緊張していると、背中にある腰、肩、首まで、緊張する。逆に、緩めると背中全体が緩むからだ。
実際、
1)土踏まずを含めた足全体の筋肉を使える状態に緩める
2)下半身全体と足とのつながりの意識を強化する
3)足から上半身(背骨)の意識をつなげる。
を意識しながら行う。
足のセッションを受け終わること、足裏が地面に吸い付くような状態になるので、つま先と踵のバランスが改善していく。そして、座る姿勢を含め、改善が認められるといってもいいのだ。
まとめ
今回のブログでは、「座る」について「しゃがむ姿勢」と「椅子」を中心にまとめさせていただいた。ロルフィングの特徴である、筋膜へアプローチすることで、なぜ、椅子に座る際に、姿勢が整っていくのか?について少し紹介した。
少しでもこの投稿が役立つことを願っています!