「歩く」と「腸腰筋」〜転倒防止、力を抜く、丹田の意識につながる

はじめに

私は、2015年6月から、ロルフィングのセッションを提供している。「筋膜」へアプローチすることで、身体の姿勢を整えていく。ロルフィングで見る姿勢は「歩く」「立つ」「座る」の3つだ。

以前、人類学の視点から見た「二足歩行」と「歩く」ことについてまとめた。今回は「歩く」上で重要な筋肉の一つ、「腸腰筋」について取り上げたい。

歩くために重要な「腸腰筋」という筋肉

ロルフィングでは、5回目のセッションで「腸腰筋(ちょうようきん)」を取り上げる。腸腰筋は、大腰筋(だいようきん)、小腰筋(しょうようきん)、腸骨筋(ちょうこつきん)の3つをまとめた呼び名だ。腰筋(大腰筋と小腰筋)と腸骨筋の2つに分けて見ることもある。

下半身と上半身を結ぶ唯一の筋肉であり、背骨の前側に付着している。

腸腰筋は、太腿の骨(大腿骨)、骨盤、背骨を結ぶ深層(コア)に位置する筋肉だ。背骨から下半身に向かって垂直に降り、そこから斜めに骨盤を横切る。上半身と下半身をつないでいるため、身体の中心でバランスを取ることができる。

腸腰筋の中でも、大腰筋は腰椎の前面から始まる。腸腰筋全体が縮んだり緩んだりしながら、身体は「歩く」ことができる。垂直と斜めが組み合わさった形が、上半身と下半身のバランスを、建物のアーチのように支えている。

さらに、丹田(ヨガでいう「バンダ」)の意識にも関わってくる。背骨(腰椎)の前側から骨盤を経由して、脚(大腿骨の小転子)まで伸びるのが腸腰筋だ。位置としては身体の「重心」「丹田」の近くにあるので、腸腰筋が使えているということは、丹田の意識が深まっているとも言える。

「5回目:内臓と腸腰筋を整える──背骨の前側」に詳しく書いたように、

  • 1)内臓の働きを良くする
  • 2)横隔膜と連動して、呼吸を深くする
  • 3)血流と神経の働きを良くする

といったことにも関わっている。腸腰筋がしているのは、上半身と下半身のバランスだけではない。身体のさまざまなところへ届いている。

腸腰筋は、股関節を曲げる(屈曲)、伸ばす(伸展)動作に関わっており、太腿を上げる際に働く筋肉として知られている。大腰筋が弱っていると「歩き」「走り」への影響が強くなり、転倒やつまずきが起きやすくなる。

腹筋の鍛えすぎにより、腸腰筋が使えなくなる

デスクワークや運動不足によって腸腰筋は弱まるが、見落とされているのが腹筋との関係だ。腹筋の鍛えすぎが、腸腰筋を弱くする可能性が指摘されている。

というのも、

1)肋骨の下と骨盤を結ぶ筋肉である腹筋(特に腹直筋)が強くなりすぎる 2)その内側にある内臓は動きたいのだが、空間が狭いため動きにくくなる 3)内臓が動きにくくなると、さらに内側にある大腰筋が圧迫される 4)大腰筋が動きにくい身体になっていく

という順で進むからだ。お腹の中は、外から順に、腹直筋、内臓、大腰筋という層になっている。いちばん外の層が硬く締まると、いちばん内側まで影響が届く。

腸腰筋〜「恐れ」の筋肉?

腸腰筋は、呼吸に関わる横隔膜につながっているが、ここは「太陽神経叢(たいようしんけいそう)」として知られている位置でもある。太陽神経叢(マニプラチャクラ)は、全身をめぐる生命エネルギーの流れを整える役目があるとされる。自律神経系を整え、第二の脳、腸脳相関との関係もあると言われている。

太陽神経叢の役割のキーワードとして挙げられるのは、信頼、おそれ、脅迫、自尊心。自分を大切にすることや、自己責任など、自分で判断していくためにも重要なチャクラとされる。「怒り」や「恐れ」が強くなるようなトラウマ経験があると、ここが動きにくい傾向があるという。セッションを通じて、そう感じることがある。

ロルフィングでできること〜空間を広げる

ロルフィングの5回目で、腸腰筋を整えるセッションを行う。腸腰筋は身体の深いところにあるので、手で直接触れることができない。そのため、周辺の筋肉・筋膜を緩めていくことで、腸腰筋が動くためのスペース(空間)を広げることを心がける。

驚くべきことに、これを心がけると、自ずと腸腰筋が動けるようになる。

「歩き」の変化〜脚がぶら下がる感覚

興味深いことに、腸腰筋が使えるようになると、歩き方も変化する。

普段、多くの人はズボンのベルトから下を脚だと思って歩いている。腸腰筋を意識できるようになると、肋骨の下から脚が2本ぶら下がっている状態で歩く感覚へと変わっていく。

その結果として背骨も伸びるようになるので、腰痛や肩こりも改善の方向へ進む。

まとめ

今回は「歩き」に重要な腸腰筋について、腸腰筋とは何かから出発し、なぜ弱まるのか、腹筋の鍛えすぎや、恐怖を含めたトラウマの体験によって起きることを説明した。その後、ロルフィングで何ができるのかについても取り上げた。

2026年9月の注記

この記事が書いた腸腰筋は、2年後に歩くシリーズの1回分になった。「第3回:脚は、肋骨の下から始まっている──腸腰筋と対角の連動」である。

書いていることは重なっている。背骨の前面から始まり、骨盤を斜めに横切って大腿骨へ向かうこと。建物のアーチに似ていること。腹直筋が硬く締まると内臓が動けなくなり、その内側の大腰筋が圧迫されること。ベルトから下を脚だと思っていた感覚が、肋骨の下から2本ぶら下がっている感覚へ変わること。

違うのは、その先である。

第3回は、腸腰筋から骨盤の回旋へ進む。一歩ごとに左右へ4〜5度回り、それが歩幅を生む。回旋は背骨を通って上へ伝わり、肩帯が逆に回る。その逆回旋が腕の振りとして現れる。骨盤と肩帯が逆に回るということは、あいだの胴体が捻れるということで、捻れた組織は戻ろうとする。その戻る力が、次の一歩の推進力になる。

腕を振らずに歩くと疲れるのは、捻れが作られないからである。

この記事は、腸腰筋で止まっている。上半身と下半身をつなぐ唯一の筋肉であることは書いたが、そのつながりが歩行の中で何をしているかまでは行っていない。

もう1つ、この記事にあって第3回にないものがある。

太陽神経叢と、恐れの筋肉という見方である。チャクラの側から腸腰筋を見ている。第3回は丹田とバンダには触れるが、そこから先へは進まない。

解剖の側から書くか、東洋の身体観の側から書くか。同じ筋肉について、2つの入口がある。

この記事を書いた人

Hidefumi Otsuka