ロルフィングの10回シリーズは、3つのフェーズに分かれる。最初の3回が表層セッションだ。ここで何が行われ、なぜ最初に置かれているのかをまとめる。
そしてもう一つ、この3回には別の顔がある。10回シリーズがフォーマットとして作られたということが、いちばんはっきり出る場所でもある。
表層(Sleeve)とは
身体の外側を覆う層のことを、ロルフィングではSleeve(袖)と呼ぶ。その内側にある層がCore(芯)で、4回目からはそちらに入る。
表層は目で見える。立っている姿を横から見れば、どこが張っているかがおおよそ分かる。触れれば反応が返ってくる。扱いやすい層だといえる。
深層は違う。奥にあるため見て取ることが難しく、触れ方も変わる。だから順序がある。表層が解放されていないと、深層には手が届かない。
すべての身体に当てはまる手順として
アイダ・ロルフが施術者と教師の養成を始めたのは1950年代だ。『Rolfing and Physical Reality』によれば、そのときに探されたのは、すべての身体に適用できる方法だった。その答えとして考案されたフォーマットが、表層から深層へ進む10回シリーズになった。
表層から始めるのは、玉ねぎの皮を一枚ずつはがすように身体に近づくためだ。別の言い方もある。表層で動きを邪魔しているピンを、一本ずつ抜いていく。
ここには一つの前提がある。すべての身体に当てはまる、という前提だ。表層の3回は、その前提がいちばん強く働く場所になる。
3回で何が起きるのか
表層セッションが扱うのは、身体の空間軸だ。
1回目は上半身。胸郭、肋間、横隔膜まわりの表層筋膜に触れ、呼吸が自由になる(free the breath)。上下のバランスが整いはじめる。
2回目は下半身。土台となる足が自由に動けるようにする(free the foot)。足全体、とりわけ足裏とふくらはぎに触れ、床との関係が変わる。
この回には軸が2つ入っている。上下でいえば下端を担う。同時に、足は左右に2つあるので、この回で左右のバランスも扱われることになる。胸郭は一つなので、1回目には左右がない。左右という軸が身体に入ってくるのは、2回目からだ。
3回目は身体の側面から入り、前後のバランスを整える。同時に、1回目と2回目の統合を行う回でもある。上と下が別々に整った状態から、一つの身体として働く状態へ移る。
上下、そして前後。この2つが揃うと、身体が占める空間の輪郭がつかめる。輪郭がつかめて初めて、その中心にアプローチできる。4回目から扱う中心軸は、この段階を前提にしている。
上と下を、交互に
3つのフェーズとは別に、もう一つの分け方がある。
上半身を扱う回と、下半身を扱う回が、交互に組まれている。1回目は上、2回目は下、3回目は再び上へ戻って表層を閉じる。この交互は4回目以降も続き、上の系列は1、3、5、7回目、下の系列は2、4、6回目になる。
表層の3回だけを見ると、上・下・上という往復がある。上を緩め、下を整え、もう一度上から前後を通して両者をつなぐ。3回目が1回目と2回目の統合になるのは、この並びによる。
そして3回目は、表層の3回を閉じる回でもある。閉じるからこそ、次のフェーズが始まる。10回シリーズは、こうした小さな閉じと開きを何度か重ねながら進んでいく。
呼吸と歩行という2つの動き
もう一つ、表層の3回で始まる線がある。
呼吸と歩行は、誰もが一日中繰り返している2つの動きだ。だからBody readingでこの2つを観る。すべての身体に当てはまる手順を作るなら、すべての人が行っている動きから観るしかない。
1回目で呼吸を扱い、2回目で歩行の土台を扱う。そして3回目で、呼吸と歩行が出会う。別々に整えられていた2つが、一つの身体の動きとしてつながりはじめる。
この線は10回を通して続く。5回目でより深い層で出会い、最後の10回目で一つの流れになる。表層の3回は、その第一歩にあたる。
なぜ上から降りるのか
土台を作るなら下からではないか、と思われることがある。実際には上から降りる。
呼吸が浅いままだと、胸郭の張力が筋膜を通じて全身に残る。その状態で足裏だけを緩めても、上からの張力に引き戻される。逆に呼吸が深まると、全身の緊張パターンが緩みはじめる。
そしてもう一つ、呼吸には別の役目がある。自分の身体の内側を感じ取る入口になっていることだ。心拍や消化は意志では動かせないが、呼吸は意識を向けた瞬間に感じ取れて、しかも変えられる。10回を通じて育てていく身体感覚の、最初の手がかりになる。
観察・目的・方法という3つ
各回のセッションを行うには、3つが要る。
Body reading。身体の観察。 Goal。観察から導き出された、その回の目的。 Strategy。目的に応じた進め方。
基礎トレーニングでは、この3つをどう組み立てるかを、講師とアシスタント講師によるデモセッション、手技の練習、生徒同士の施術を通じて学んでいく。
Body readingは、毎回、歩行と呼吸を観察するところから始まる。この2つが選ばれているのは、誰もが行う反復運動だからだ。すべての身体に当てはまる手順を作るなら、すべての人が行っている動きから観るしかない。
そして毎回、上半身と下半身が連動して動くように施術が進む。これも表層セッションの特徴になる。
手順は、後に外された
この3つの枠組みには続きがある。
10回シリーズも、10回を終えた人のためのアドバンスト5回シリーズも、当初は手順が決まっていた。決められた手順に沿って進める形式を、Formulaicと呼ぶ。
1989年、ロルフィングの組織は分裂する。Guild for Structural Integrationは、アイダ・ロルフの教えに忠実に、手順を守る道を選んだ。一方、Jeff MaitlandとJan Sultanを中心とするRISI(現Dr. Ida Rolf Institute)は、手順にとらわれない形式へと変えていった。
Ray McCallの言葉によれば、手順に固執するとクライアントに負担をかけすぎることがある。そこでMaitlandらは、原理に基づいて個々に応じたセッションを組み立てるスタイルを確立した。
そのときに使われるのが、Body reading、Goal、Strategyという枠組みだ。表層セッションで最初に習うこの3つが、手順を外してセッションを設計するための道具になる。
基礎トレーニングと上級トレーニングの違いも、ここにある。基礎は一人一人を平均的な人間として扱い、手順を教える。上級は一人一人の独自性を尊重し、その人に合わせてセッションを組み立てる。
もっとも、手順そのものが否定されたわけではない。10回シリーズはロルフィングを届ける一つの方法であり、ロルフィングという概念の全体ではない、という整理になる。この3回の手順は、いまも基礎トレーニングで教えられている。
そして手順には、もう一つの役目がある。戻る場所になることだ。
Phase IIIの教材には、施術者への助言として、途方に暮れたときは手順に戻れ、と書かれていた。自分の位置を取り戻すのに、それ以上のものはない、と。手順は縛るためのものではなく、迷ったときに立ち返るための地図でもある。
平均的な身体は、どこにもいない
表層の3回を受ける立場からすると、この背景は知っておいて損がないと思う。
1回目に呼吸を扱い、2回目に足を扱い、3回目に前後を扱う。この順序は、その人のために選ばれたものではない。すべての身体に当てはまるように作られたものだ。
それでも機能する。歩行と呼吸は誰もが行っているし、上と下、前と後ろという軸は誰の身体にもある。平均に向けて作られた手順が、目の前の一人に届く。
同時に、平均的な身体はどこにもいない。だからセッションの中では、手順どおりに進みながら、その人の身体が何を必要としているかを毎回読み直すことになる。
表層で起きることの性質
表層セッションで起きる変化は、力を入れて作るものではない。
足裏に触れているうちに接地感が戻る。背景を認識したときに歩きから力みが抜ける。触れられているうちに呼吸が深くなる。する側にも、される側にも属さない出来事が起きている。
ロルファーがすることは、変化を起こすことではなく、変化が起こりうる条件を整えることになる。この性質は10回を通じて変わらないが、表層の3回でそれを体験しておくことが、深層に入るための準備になる。
表層が解放されると
3回を終えると、次のような変化が報告される。
- 呼吸が深くなり、胸まわりが広がる
- 足裏が床に触れている面積が増える
- 背中の面が広く感じられる
- 頭の位置が背骨の上に乗る
- 視野が広がり、周囲との距離感が取りやすくなる
ただし、これらを成果そのものとは考えていない。セッションの終わりに見ているのは、重力との関係のほうだ。重力が身体を押し潰す負担ではなく、支えの資源として働いているか。呼吸や接地の変化は、その関係が変わった結果として現れる。
各回の記事
次のフェーズへ
- 深層セッションとは何か──4〜7回目に起きること
- 統合セッションとは何か──8〜10回目に起きること
- ロルフィングの10回セッションとは何か──身体が変わる3つのフェーズと各回の流れ
- ロルフィング用語集──10回セッションを読むために
トレーニングでこのフェーズをどう学んだかは、こちらに書いている。
大塚英文(Ph.D.)|認定アドバンスト・ロルファー™/ロルフ・ムーブメント・プラクティショナー 東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(医学博士)。外資系製薬会社でメディカル・マーケティング業務に従事した後、2015年より渋谷でロルフィング®セッションを提供。「科学と実践の統合」をテーマに活動。
