1〜3回目で表層が解放されると、4回目から深層に入る。10回シリーズの第2フェーズだ。扱う対象が変わるだけでなく、セッションの性質そのものが変わる。
深層(Core)とは
身体の内側にある層のことを、ロルフィングではCore(芯)と呼ぶ。骨盤底、腸腰筋、内臓、仙骨、そして首の深層。表層の内側にあって、姿勢を支えている場所だ。
4回目から7回目までの4回をかけて、この層を扱う。
- 4回目:下半身(内転筋から骨盤底付近)
- 5回目:背骨の前側(腸腰筋、内臓、横隔膜)
- 6回目:背骨の後側(脛、臀筋群、仙骨、背骨)
- 7回目:肩と首の全体

床との接触面から入り、身体の前側を上がり、後ろ側を降りて、最後に首と頭へ向かう。この4回で通っていくのが中心軸だ。
深層(Core)という語は、身体の中の場所だけを指すのではない。トレーニングでは、時間の質でもあると教わった。協調と方向づけ、つまり動きがどう組み立てられ、どこへ向かうかということだ。表層が容れ物だとすれば、深層はその中身にあたる。
表層と何が違うのか
深層は奥にあるため、どこに滞りがあるのかを見て取ることが難しい。触れても、表層のように直接は届かない。
そしてもう一つ、決定的に違う点がある。
身体の深い所に入っていくとき、蓄積された感情が浮かび上がってくることがある。長くヨガを練習してきた経験からいえば、後屈系のポーズで胸が開いたときに、それまで奥にしまわれていた感情が一気に出てくる練習者は珍しくない。深層に入るとは、そういう領域に触れることでもある。
深層の緊張は、何かを守っている
なぜ感情が出てくるのか。深層の緊張が、何かを抱えていたからだ。
圧倒的な出来事に対して身体が取った反応は、そのまま組織に残る。トラウマをボディワークにどう取り入れるかを扱ったワークショップで学んだのは、この見方だった。緊張は残っているのではなく、働き続けている。抱えていたものを抱えたまま生活できるように、深層が固まっている。
だから深層が緩むとき、抱えていたものが表に出る。順序としてはそうなる。
実際、表層のあとに深層のセッションが入る段階で、続かなくなる方が年に数名いる。自分の内側に触れることへの抵抗としか言いようがないが、抵抗そのものにも理由がある。その緊張が守ってきたものが、まだ必要なのかもしれない。急いで解こうとせず、量と速さを慎重に扱う理由がここにある。
場のほうの空間
深層のセッションで作られる空間には、二つある。身体の内側の空間と、セッションの場そのものの空間だ。
Maitlandが最初の一歩として挙げるのは、後者になる。施術者が自分を開き、変化のための繊細な空間を作る。その空間が本当に開かれると、クライアントは安心を感じる。そして施術者が何もしなくても、回復の過程が始まりうる。
ロルフ・ムーブメントのトレーニングでも、心理的に安全な場が課程そのものの条件として置かれていた。挑戦が許されるから個性が出る、という考え方だ。深層のセッションでも同じことが要る。何が出てきても構わないという前提がなければ、身体は奥を開かない。
技術より先に、この条件が要る。
内側に空間が生まれる
もう一つが、身体の内側の空間だ。
深層筋は奥にあるため、直接触れることも、鍛えることも難しい。そこで、意識が向かうことで働きが呼び起こされる、というアプローチをとる。
身体の中にスペースを感じ取れると、そこへ向かって深層筋が自ずと動きはじめる。内側のスペースが広がるほど、意識も内面へ向かい、身体の整い方も深まっていく。
この「空間が生まれる」という捉え方には、Articulationという語が当てられる。関節が分かれて動けることと、身体の中に隙間ができることを、同時に指す言葉だ。力を抜くというのは、脱力することではなく、隙間ができることに近い。
深層に入るとは、玉ねぎの皮を一枚ずつ剥がすように、少しずつ内側へ進むことでもある。この方向性を別の言葉で見ている例もある。稲盛和夫『生き方』では、心が同心円状の多重構造として捉えられ、外側から順に知性、感性、本能、魂、真我が置かれる。心を磨くとは外側の知性から内側へ降りていく作業だ、という見方だ。方向が重なる。
答えを持っているのは誰か
手を聴診器にたとえるとわかりやすい。手で深層を探り、どこに滞りがあるかを見つける。場所がわかれば、手から刺激が届き、深層からの反応を待つ。
大切なのは、変化が内側から起きることだ。深層に適切な刺激が届くと、身体は「ここだ」と感じる場所へ自ずと向かう。施術者はニュートラルでいて、その道案内に徹する。
正解を持っているのは施術者ではなくクライアントの側だ。答えは本人の身体の中にあり、それが出てくるのを待つ。
もっとも、施術者とクライアントの二者だけでこの過程が進んでいるわけでもない。何が健康であるかを決めているのは、どちらでもない第三のものだ。施術者はそこに向かって開き、同時にクライアントがそこへつながるのを促す。呼び方は体系によって違うが、二者関係ではないという点は共通している。
施術者がニュートラルでいるという言い方は、2015年の基礎トレーニングの記録にも出てくる。当時はコーチングから借りてきた語で、心の持ち方を指していた。10年後のアドバンスト・トレーニングで、これは身体の置き方の手順として渡された。ニュートラルは心構えではなく、施術者が自分の身体をどこに置くかの問題だった。
- 「させられる」でも「する」でもない「ニュートラル」の在り方
中心軸が判断軸になる
4回をかけて中心軸を扱うことに、どんな意味があるのか。
身体に軸ができると、重力の中で、仕事でも遊びでも人と会う場面でも、どの程度の力を使えばいいかが無意識のうちに調整されるようになる。
逆に中心の軸が感じ取れないと、姿勢を保つこと自体に意識的なエネルギーが割かれ続ける。無意識のうちに筋肉を配分できない分、持てる力の多くが、立っていること、座っていることに費やされてしまう。
その負担を首まわりが引き受けている場合、頭を支えることに力が取られる。机に向かって集中する、読み書きを続けるといった場面での負担が増えやすい。セッションの現場でも、姿勢が整うと集中の続き方が変わる、という報告を受けることが多い。
そしてもう一つ。自分の軸で物事を判断できないと、他の人が定めた軸で判断することになる。「自分はどこへ向かっているのか」を考える余地をつくるのが、中心軸だ。
各回の記事
- 4回目:表層から深層へ──自分の居場所から判断軸を身につける
- 5回目:内臓の動きを整えていく上で「腸腰筋」が大事な理由とは?
- 6回目:仙骨と骨盤を整えていくこと〜自分軸と社会性
- 7回目:首と肩を整えていくこと〜内耳感覚を呼び起こす意義
前後のフェーズ
- 表層セッションとは何か──1〜3回目に起きること
- 統合セッションとは何か──8〜10回目に起きること
- ロルフィングの10回セッションとは何か──身体が変わる3つのフェーズと各回の流れ
- ロルフィング用語集──10回セッションを読むために
大塚英文(Ph.D.)|認定アドバンスト・ロルファー™/ロルフ・ムーブメント・プラクティショナー 東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(医学博士)。外資系製薬会社でメディカル・マーケティング業務に従事した後、2015年より渋谷でロルフィング®セッションを提供。「科学と実践の統合」をテーマに活動。
