7回目:首と肩を整える──内耳感覚を呼び起こす意義

4〜6回目で中心軸が胸のあたりまで整うと、7回目ではその上に首と頭が乗る。深層のセッションを締めくくる回だ。

7回目の位置づけ

7回目は、手、腕、肩周辺、上半身の背骨、顔、頭という順で進む。頭は身体の頂上にあるため、この回は中心軸の意識を最後に取り戻すセッションになる。

この回は、2つの流れを同時に閉じる。4〜7回目の深層の流れと、上半身を扱ってきた1、3、5、7回目の流れだ。頭は背骨の最後の椎骨だ、という言い方がある。下からの支えが通ってきた線の、最後の一つを乗せる回になる。

7回目は、10回の中心だという見方

締めくくりとは別の位置づけもある。

アイダ・ロルフは、セッション7を行うために1回目から6回目までを積み重ね、7回目で行ったことを8回目から10回目で統合していく、と説明していた。この見方では、7回目はフェーズの終わりではなく、10回シリーズの中心になる。前の6回はここへ向かう準備であり、後の3回はここで起きたことを定着させる時間だ、ということになる。

シアトルでSharon WheelerからCranio Workを学んだとき、講座はこの前提で進んだ。彼女はアイダ・ロルフから直接学んだ数少ないロルファーの一人で、事情によって7回目の経験が非常に豊富だった。教えられるほどの量を積んでいたため、この手技は7回目を効率よく行うためのものとして組み立てられている。だから講座も、アイダ・ロルフが7回目をどう教えたのか、それをどう理解したのか、という観点で進んだ。

10回を3つのフェーズとして見ると、7回目は第2フェーズの最後になる。中心として見ると、10回全体がこの回を軸に前後へ広がる。どちらか一方が正しいという話ではないが、後者の見方を知っていると、この回に何が起きているかの受け取り方が変わる。

深層のセッションがどういう性質のものかは、別の記事にまとめている。

固まった顎と首が、支えてきたもの

頭は重い。その重さを下から支える道が通っていないとき、首と顎が肩代わりする。

緊張する場面で顎を固める習慣は、多くの人が持っている。噛みしめることは、身体を一つにまとめるいちばん手っ取り早い方法だからだ。集中するとき、痛みに耐えるとき、言いたいことを飲み込むとき。顎はそのたびに働いている。

首の緊張も同じだ。頭が前に出ている身体では、首の後ろが常に引っ張られている。それは怠けている状態ではなく、落ちてくる頭を支え続けている状態になる。

4〜6回目で下からの支えが通ってくると、この肩代わりが要らなくなる。7回目が最後に置かれているのは、そのためだ。順序が逆だと、支えのないまま首の緊張だけを取ることになる。

頭の位置は、その人を表す

3回目で、身体が平面から立体へ移る変化を絵画史にたとえた。その続きが、この回にある。

ルネサンスのピエロ・デラ・フランチェスカは、顔と頭までを立体として捉えることで、頭とともに世界が広がっていく感覚を描いた。心が安定しているということを、顔を通じて表現しているといっていい。

同じ表し方は、2世紀から3世紀のガンダーラの仏像にも見られる。頭の位置によって、バランスと統一感と全体感が現れている。自分の内側に入って省みる姿と、安定した頭と足、そして合わせた手。

20世紀初頭のモディリアーニは、首を長く描くことで顔を表現した。その人の美しさや知性といった、立体の中に現れる質が、そこに出てくる。

頭の位置の描き方によって、その人が何を考えているか、どんな表情をしているかが変わる。7回目が身体の側から扱っているのは、この主題になる。

そしてもう一つ、対になる関係がある。2回目で扱ったEye of the Footは、足裏から空間を捉えるワークだった。7回目は、頭の位置から空間を捉える。足裏と頭。上と下で対をなしている。

姿勢を支える3つの感覚

姿勢を観るとき、3つの要素が互いに関わっている。

  • 視覚(Visual system)
  • 内耳感覚(Vestibular system)
  • 筋感覚(Kinesthetic system)
3 system in the posture 2

この3つがそろって初めてバランスが成り立つ、とロルフィングでは考える。眼・足・内耳を頂点とする三角形(Triangle of Support)として捉える言い方もある。

2回目のセッションで筋感覚を、7回目で内耳感覚を扱う。この2つが働き出すことで視覚にも影響が及び、姿勢が変わっていく。三角形の別の頂点に、5回分の間隔をあけて触れていることになる。

視覚──唯一、学習されるもの

人間が外から受け取る情報の多くは視覚に依っているといわれる。視力の低下、老眼の進行、左右の目の使い方の違いといった不調があると、視覚がうまく働かなくなる。

そのとき身体は、筋感覚と内耳感覚を動員して、抜けた分を補おうとする。デスクワークが中心の生活では、目に負担が集中しやすい。

ロルフ・ムーブメントのトレーニングで、講師のRita Geirolaが述べたことが記憶に残っている。3つの感覚のうち、視覚だけが学習されるものだ、と。見方は身につけたものであり、身につけたものであれば変えられる。

視覚を整えるのはボディワークだけの役目ではない。眼鏡で矯正するという手立てもある。ただ、それだけでは残りの2つの感覚が育たないため、姿勢を良くしようとしても効果が半分にとどまる。

筋感覚──手と足が情報を受け取れているか

筋感覚とは、手・足・頭・顔といった外部の感覚器官が、外の環境から情報を受け取れている状態を指す。

ロルフィングではPalpatory、Hapticという語で表す。Palpatoryは、解剖学を学ぶときに実際の身体に触れて確かめるPalpation(触診)に由来する。Hapticはギリシャ語の「触れる」を意味する語からきている。どちらも、手や足が触れたときに情報を受け取れる状態にある、という意味だ。

足については2回目で扱った。3つのアーチが土台として働き、下肢と足の間に空間が生まれると、下半身が地面を受け止められるようになる。その分だけ上半身の自由度が増す。

顔と頭についても同じことがいえる。重力に押しつぶされた状態ではなく、頭が空から吊るされたような状態で、身体が重力に対して2つの方向に整う。下半身が地面に着いて土台をつくり、その分だけ上半身が上へ向かって自由に動ける、という意味だ。

Session 2 notes, Giovanni, Oct 2014

この2つの方向を、ロルフィングではPalintonicity(2方向性)と呼ぶ。語源はヘラクレイトスの弓と竪琴で、互いに逆を向く力が張り合うことで形が保たれるという意味を持つ。下へ向かう支えと、上へ向かう自由は、どちらか一方では成り立たない。

頭が自由に動けるようになると、五感も働きやすくなり、外からの情報を受け取りやすくなる。7回目で手や腕を扱うのも、同じ理由による。手のひら全体が力を入れずに床に触れていると、前鋸筋や菱形筋、肩甲骨と背骨を結ぶ深層の筋肉が働くようになる。

要点は、手や足に力を入れることではなく、意識が向かうことにある。

feet eye

内耳感覚──平衡感覚を呼び覚ます

内耳感覚は平衡感覚のことだ。重力を感じ取っているのは耳の奥にある内耳で、そこにある平衡器官が神経系と協働し、身体の向き、傾き、動きを感知する。そうしてバランスを取り戻そうとする。

わかりやすい例は船酔いだ。波によって平衡感覚が乱れることで起こる。

耳は顔と頭の一部である。だから7回目では、顔と頭の筋膜に触れることで内耳感覚が呼び覚まされていく。ロルフィングの7回目が知られているのは、口や鼻の中の筋膜にも働きかける点にある。顎とその周辺、鼻の周辺、舌の筋肉なども含まれる。

セッションの冒頭で観ているもの

冒頭のBody Reading(立ち方や歩き方の観察)で見ているのは、次のような点だ。

  • 頭が背骨の真上に乗っているか、前に出ているか
  • 左右の肩の高さと、肩甲骨の位置
  • 顎の左右差と、噛み合わせのかたより
  • 目を閉じて立ったときのバランス
  • 手のひらが床に触れたときの接地の質

口や鼻へのアプローチ──噛み合わせとAO関節

ロルフィングが他のボディワークと異なるのは、口や鼻の中にも手を入れ、筋膜の緊張を緩めるところだ。

口の中を扱うのは、噛み合わせのバランスを整えるうえでも意味がある。矯正で歯列を整えた方、親知らずを抜いた方、虫歯の治療で歯を削っている方であっても、噛み合わせからバランスが崩れているケースは少なくない。

ただし、口や鼻の中に触れるという進め方は、他のボディワークにほとんどない。人によっては、この回の説明を丁寧にする必要がある。口と鼻は、自分の内側と外側の境目にあたる場所でもあるからだ。ここに触れられることは、今回のセッションの範囲を超えた意味を持つことがある。だから、何をするのかを先に伝え、進める速さもその都度確かめる。

自分がトレーニングで10回シリーズを受けたとき、AO関節は課題の一つだった。4回目を終えた時点で、大腰筋の力を抜くこと、鎖骨から胸で呼吸できること、そしてAO関節で動けるようになることの3つを、残りの課題として書いている。6回目の段階でも、首まわりの緊張がなかなか取れないと書いていた。

絵画の中で頭の位置を見ていた同じ時期に、自分の頭の位置が課題として残っていた。7回目は、その課題に正面から入る回になる。

頭蓋骨と頸椎の間には、AO関節(環椎後頭関節)がある。口の中と首に触れることで、この関節に間接的に働きかけ、身体全体の緊張がほどけていく。

頭と脊柱の関係に注目し、身体の不必要な自動的反応に気づいてそれをやめていくことを学ぶ方法として、フレデリック・マサイアス・アレクサンダーが開発したアレクサンダー・テクニックがある。6ヶ月間学んだことがあるが、AO関節が解放されたときに、予想以上に全身の緊張が抜けていくことに驚いた記憶がある。

アイダ・ロルフが7回目の手法を組み立てるにあたって、このアレクサンダー・テクニックが大きな影響を与えたといわれている。

待つことと、与えすぎないこと

この回でいちばん判断が要るのは、どこに触れるかよりも、どれだけ時間をかけるかだ。

2017年に、正反対の考え方を東西で受け取ったことがある。

1月にシアトルでSharon WheelerからCranio Workを学んだとき、セッションは3時間半かかった。デモも3時間近い。変化が起きるまで待つ時間が要る、という考え方だった。

その半年後、ミュンヘンでPeter Schwindのワークショップに参加した。彼は当初1時間ほどでセッションを行っていたが、アイダ・ロルフの息子と出会って考えを改めたという。息子は短いと15分程度で終えていた。時間をかけすぎると、かえって脳に大量の情報を教え込んでしまう。そう気づいて、以来45分程度に収めるようになった。

3時間半と45分。同じロルフィングで、これだけの差がある。どちらが正しいという話ではなく、身体に何が起きると考えるかが違う。待つことが要ると見るか、与えすぎないことが要ると見るか。どちらも施術者がしないことについての判断でありながら、時間の扱いが逆になる。

2025年のアドバンスト・トレーニングでニュートラルが主題になったとき、待つことは技術の中身として扱われた。ただし、どれだけ待つかという量の問題は、そこでは扱われていない。2017年に受け取った2つの答えは、いまも決着していない。セッションごとに違う、というのが今のところの答えになる。

この回で、身体が受け取る情報

7回目にしていることを、頭蓋の筋膜をリリースした、口腔内にアプローチした、と手技で説明すると、実際に起きていることから離れる。

受け取っているのは、頭は支えなくてよいという情報だと考えている。下からの支えは骨盤底、腸腰筋、仙骨を通って、すでに首の下まで来ている。頭はその上に乗ればよく、首と顎が持ち上げる必要はない。この情報が届くと、頭の位置は自ずと背骨の真上へ移る。

何をもって、整ったとするか

首こりが軽くなったかどうかを、それ自体では成果としない。

sky hook

セッションの終わりに見ているのは、重力との関係のほうだ。頭の重さが背骨を通って下まで抜けているか。そして下からの支えが、頭を押し上げる形で戻ってきているか。重力が頭を落とす力ではなく、頭を乗せておける軸として働いているか。

内耳感覚が働き出すと、横隔膜と腸腰筋(5回目)、骨盤底(6回目)、胸鎖関節付近(7回目)と合わせて、身体の水平面がそろう。中心軸が通るとは、これらの面が積み重なることでもある。

この回でよく報告されるのは、内側が上へ伸びるのと同時に、表面の力が抜けるという感じだ。深層が持ち上がり、表層が緩む。これが同時に起きる。

そして知覚が広がる。前だけを見ていた状態から、周囲を含めた360度へ。自由になった感じ、一つにまとまった感じ、自分がここにいるという感じ。7回目でこうした言葉が出てくるのは、深層の4回が閉じるからだと考えている。

セッション後に起きること

  • 頭の位置が背骨の真上に自然に乗る
  • 視野が広がる
  • 声が変わる
  • 呼吸がさらに深くなる
  • 顎まわりの力が抜ける

次の回へ

7回目までで、各部位を扱う段階は終わる。8回目からは、身体全体が有機的に動くための統合セッションに入る。

トレーニングでこの回をどう学んだかは、こちらに書いている。


大塚英文(Ph.D.)|認定アドバンスト・ロルファー™/ロルフ・ムーブメント・プラクティショナー 東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(医学博士)。外資系製薬会社でメディカル・マーケティング業務に従事した後、2015年より渋谷でロルフィング®セッションを提供。「科学と実践の統合」をテーマに活動。

この記事を書いた人

Hidefumi Otsuka