疲れる筋肉と、疲れない筋肉〜姿勢を支えるTonic Function

本記事は「身体と心」シリーズ全6回の第2回である。本シリーズは、ロルフィングの基礎トレーニング(Basic Training)Phase IIとPhase IIIの期間にまたがって書かれた。本記事はPhase IIの期間中の記録にあたる。

アイダ・ロルフがロルフィングの10回シリーズを考えたときには科学的な理論というものがなく、本人のヨガ、オステオパシー、アレクサンダー・テクニックなどの経験を元に作られた。ロルフィングに科学的な裏付けを行ったのがHubert Godardである。大学で教鞭をとっているフランス人のロルファーだ。

重力に対してどのようにして筋肉が働くのか。そしてなぜロルフィングに効果があるのか。この疑問に基づいて追究していった結果、Godardは重力の環境下で筋肉の質を維持するため(’Keep tone’ of the muscle)に身体内で何が起こっているのかを考えた。

sky hook

彼の考えは、Tonic Functionという説に結晶化される。Tonicというのは持続的という意味で、日本語に直訳すると持続的に働くということ。Godardは、重力に対して持続的に働く筋肉の機能に注目したのだ。そこで、筋肉を一時的に働くPhasicと持続的に働くTonicに分けた。

Phasic Muscleは一過性に働く筋肉で、スプリント、ウェイトリフティング、物を持ち上げるときなどに関わっている。努力して物を持ち上げる際に働き、ブドウ糖をエネルギー源にしている。このため疲労感が襲い、身体が疲れてくる。Phasic Muscleは、α運動神経系(alpha motor neuron)に支配されている。α運動神経系は人間の脳によって働く神経系の一つであるため、脳が直接影響を及ぼすことができる。αは、運動神経系の3分の2を占める。日々のストレスによって身体に緊張が襲う場合にも、Phasic Muscleが中心となって働く。

serious_negotiation

Tonic Muscleは持続的に働く筋肉で、姿勢の維持に関わるといわれている。酸素をエネルギー源としているので、ゆっくりと持続的に働く。そのため、疲労感に襲われるということはあまりない。Tonic Muscleの特徴は、筋紡錘(spindle)を多く持つこと。筋紡錘とは筋肉のセンサーであり、筋肉の伸び縮みを感知する感覚器官である。普段ヨガや瞑想で「身体を意識する」というのは、筋紡錘のスイッチを入れると考えてもいい。重力によって筋紡錘は働くので、重力を意識しなくても筋紡錘の多いTonic Muscleが自動的に働くことができる。γ運動神経系(gamma motor neuron)によって支配を受ける。γは、運動神経系の3分の1を占める。γ運動神経系の特徴は、小脳や延髄など、習慣化された動きによって働き出すということである。

γ運動神経系のもう一つの特徴は、拮抗筋を働かせることなく必要な筋肉のみを働かせることができることである。筋肉には相反作用がある。実際に緩めようとする筋肉、例えばもも裏のハムストリングスを緩めようと思ったら、反対側の大腿四頭筋(もも正面の筋肉)に力を入れると、ハムストリングスが緩むように身体ができている。腕も、こぶの筋肉が縮んでいるときには、その裏の筋肉は緩んでいる。これを筋肉の相反作用という(大腿四頭筋に対してハムストリングスは拮抗筋という)。α運動神経系だと拮抗筋が働き出してしまう。

また、γ運動神経系を活性化するためには、筋感覚を使えている状態も大事である。ロルフィングではHaptic/Palpatoryとも呼ばれ、手、足、頭・顔を含めた外部感覚器官が外部情報をしっかりと受け取り、身体の内部に情報を伝えることができるかどうか、ということを意味する(「Phase II(21)〜姿勢の3要素〜視覚、内耳感覚、筋感覚」参照)。

feet

ロルフィングは、いかにしてγ運動神経系を活性化し、身体内のエネルギー効率の高いTonic Muscleを最大限生かしていくか、ということになる。そのために10回のセッションが組み立てられているといっていい。そのためには施術者も身体を調え、γ運動神経系が働いている必要がある。Embodimentで身体感覚を研ぎ澄ませるのも(「Phase II(13)〜身体感覚〜Embodimentとは何か?」参照)、この神経系を活性化するためである。

考えてみれば、人間の身体の95パーセントは外部環境の情報収集に当たる。残りの5パーセントは筋肉の力を使っている。現在の世の中はα運動神経系が優位になっていることを考えると、ロルフィングのニーズは非常に大きいと感じる。

iStock_000016757683Small

Godardの考察の面白いところは、Tonic Muscleを中心としたTonic Functionが、structure(身体の姿勢や構成、重力など)、coordination(身体がどのようにして動くか)、perception(世の中をどのようにみるのか)、meaning(どのように世の中に対して意味付けを行うのか)の4つの要素によって影響を受けると考えたことである。そのように考えると、Tonic Functionは心と身体をつなげる考えになる。

ロルフィングのトレーニングにおいてGiovanni Felicioniは、ロルフィングはstructure、フェルデンクライス・メソッドはcoordination、アレクサンダー・テクニックはperception、カウンセリングはmeaningに対してそれぞれ働きかけることによってTonic Functionを変えていくと話していた。

Tonic Functionについてはロルフィングにおいて重要な考えなので、何回かに分けて取り上げていきたいと思う。

2026年8月の注記

この記事は「何回かに分けて取り上げていきたい」と書いて終わっている。実際には、第3回で2方向性を、第6回で空間を扱った。ただし、この理論を伝えてくれた人と、その源にいる人物との距離が見えてくるのは、もっと後になってからだった。

Godardへの経路

この記事は、Giovanni Felicioniの説明を紹介している。ロルフィングはstructure、フェルデンクライス・メソッドはcoordination、アレクサンダー・テクニックはperception、カウンセリングはmeaningに働きかける、という対応である。

当時は、講師が教えてくれた枠組みとして書き留めた。この整理がどこから来たのかまでは、意識していなかった。

Giovanniはイタリア人で、母国語は英語である。そしてフランス語に堪能だった。Godardはフランス人で、講義はフランス語で行われる。つまりGiovanniは、通訳や英訳を介さずに、Godardから直接教えを受けることができた。基礎トレーニングでTonic Functionの説明を受けていたということは、その伝達経路の先にいたということになる。

この構造は、後にも繰り返される。2018年のRolf Movement Part 2でTonic Functionを説明したAline Newtonも、フランス語を解し、Godardから直接学んだ人物だった。理論が伝わってくる経路には、言語が挟まっている。

そして2016年9月2日、パリで、Godard本人からメンタリングを受ける機会があった。ミラノを本拠地とし、教えるためにパリへ滞在するという、そのわずかな期間に重なった。ミュンヘンのトレーニングで一緒だった2人と3名でのセッションだったため、3時間という時間枠を取ることができた(「ERA Mentoring Session(4)〜パリでの体験:基礎を大事にすること〜Hubert Godard」参照)。

Godardはもともとコンテンポラリー・ダンサーとして活躍し、膝の怪我を通じてオステオパシーやボディワークへ関心を持つようになった。ほぼ50年の経験を持つという。

そこで話されたのは、理論ではなく基礎だった。

「ロルフィングで大事なのはグラウンディング。足のつま先と踵を含め全体的に使えること。その上で全身がその足に乗っている状態になるためには矢状面に注目。身体の前後での動きが重要であり、呼吸を見る意味はそこにある。だから第一セッションがある」

Tonic Functionを打ち立てた人物が、目の前で説明したのは、なぜセッション1が呼吸なのかという話だった。原理原則に触れ、その後に必要なテクニックを述べていくという順序だった。Body readingの基礎的な内容の復習も行われ、基礎トレーニングの復習になった。

この記事を書いてから、2年後のことである。

4つの要素が、5つになった

この記事は、Tonic Functionが4つの要素によって影響を受けると書いている。structure、coordination、perception、meaning である。

2018年1月、Rolf Movementの認定トレーニングPart 2で、Aline NewtonがTonic Functionについて時間をかけて説明した。そこで挙げられたのは、5つの視点だった(「Rolf Movement – Part 2(3)〜いい意味での混乱+Tonic Functionについて」参照)。

組織(Tissue)、知覚・認知(Perceptual)、思考と言語(Thinking / Words)、意味とシンボル(Meaning / Significance / Symbolic)、共同で動くこと(Coordination)。

4年で変わった点が2つある。

組織が加わった。 ロルフィングで行う筋膜へのアプローチを通じて、構造やTonusに影響を及ぼす、という項目である。この記事のstructureは、姿勢や構成、重力という外側の条件を指していた。2018年には、施術が直接触れる組織そのものが、独立した因子として立てられている。

思考と言語が独立した。 この記事では meaning の中に含まれていた領域が、分けられた。そして具体例が与えられた。「背筋を伸ばす」という一つの言葉を取っても、背骨を伸ばすのか、背骨に力を入れるのか、背骨が勝手に伸びるのか、人によって異なる経験として身体に定着している。母国語の選択やボディ・ランゲージも、ここに含まれる。

この記事が書いた「Tonic Functionは心と身体をつなげる考えになる」は、4年後に、より細かい格子として与えられたことになる。5つの視点で身体を観察することによって、どこにアプローチしていったらいいのかが明確になっていく、と説明された。

4つの技法の対応が、5つの分類になった

Giovanniが示したのは、因子と技法を対応させた見取り図だった。

2025年のアドバンスト・トレーニングでは、この対応が Taxonomy(アプローチの種類・分類)として整理されていた。身体は一つの統合された存在だが、構造、機能、感情や神経システム、エネルギーフィールドといった異なるレイヤーを持つ。いま、どの観点から働きかけるべきかを選ぶために分類が要る、という考え方である(「Advanced Rolferの認定までの歩みについて【総括】」参照)。

挙げられた分類は5つ。構造的・セグメント的、バイオメカニカル、機能的、心理生物学的、エネルギー的。

違いは、外側にあるか内側にあるかだった。2014年の対応では、それぞれの因子を別の技法が担当する形になっている。ロルフィングが扱うのはstructureであり、perceptionはアレクサンダー・テクニックの領域である、と。2025年の分類は、そのすべてをロルフィングの内側に置く。クライアントの状態に応じてどの分類を優先するかを選ぶのは、施術者自身の判断になる。

11年で、他の技法に振り分けられていた領域が、自分の扱う範囲に入ってきたことになる。

習慣化された動きの側に、身を置く

この記事は、施術者についても書いている。

「そのためには施術者も身体を調え、γ運動神経系が働いている必要がある」

当時は、Embodimentの練習の理由として書いた。2025年には、これが在り方(Being)の問題として扱われている。ニュートラルを養うための3つのポイント。Shape the Hand(クライアントの身体に自分の手を形作ってもらう)、Finding Back Space(背後の空間を感じる)、Hara(肚に繋がる)。

いずれも、意図的に何かをするのではなく、習慣化された動きの側に身を置く方法である。γ運動神経系が小脳や延髄など習慣化された動きによって働き出す、というこの記事の記述と、同じ層を扱っている。

施術者の身体が調っている必要がある、という当時の観察は、技術ではなく在り方の話だった。

この記事を書いた人

Hidefumi Otsuka