【R#114】身体と心(8)〜モノ、身体、言葉

本コラムでは、身体と心の関係については、第二の脳である腸との関係(【RolfingコラムVol.93】)、脳と胃・腸を結ぶ迷走神経との関係(【RolfingコラムVol.53】【RolfingコラムVol.54】)、ロルフィングに動きの要素を取り入れたRolf MovementのベースとなるTonic Functionとの関係(【RolfingコラムVol.42】【RolfingコラムVol.43】)、深層とトラウマとの関係(【RolfingコラムVol.35】)で合計7回にわたって紹介してきた。
ロルフィングのトレーニングの開始前(2014年8月4日)、2010年6月から学んでいるタロットカードリーディングやコーチングを通じて対面セッションを500人近く体験した。
相手には、最小限の情報を与え、相手が答えを出すために考える時間と心のスペースを用意する
ことを学び(【TarotコラムVol.12】)、現在ロルフィングのセッションに大きな影響を与えている。

興味深かったのは、500人のうち半分以上の人たちは片付けがしっかりとできていないことだ(【TarotコラムVol.4】参照)。
なぜならば、直感や五感を含めた身体感覚というのは、モノがどれだけ整理されているのか?によって発揮されるからだ。例えば、モノが散らかっていると、頭も散らかっているということ。そして、自分自身が見えていない人、恋に悩んでいる人、執着を持っている人はその感覚が鈍っているのだ。
断捨離という観点から、心を整理することが効率が良いことがわかった。次に確認するのが、自己肯定感や自己受容感。
自己肯定感の高い人とは、自分自身を肯定できる人。
それは自分自身のいいところ・悪いところを「あるがまま」に受け入れられている人のことだ(【TarotコラムVol.5】参照)。自己肯定感の高い人は、自分との関係がしっかりしているため、他人の意見に動じることが少なくなる。逆にこの意識が低いと他人の意見に振り回され、周囲に合わせ、自他を比較。今までの様々な人との出会いから、自己肯定感の高い人と低い人の割合は経験上、1:10という割合になっている。
自己肯定感の基礎があって初めて自信が身につくと思うが、松本正著の「あるがままの自分を生きていく」によると、
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自信には「根拠のない自信」と「有能感からくる自信」という二つがある。「根拠のない自信」はシンプルに自分を信じること。「有能感からくる自信」は、仕事を通じて達成することで身につくもの。
最近、私は自己肯定感という言葉に違和感があり、無理してポジティブになっているという印象がある。私はあるがままの自分を受け入れることのできる、自己受容感という言葉の方がしっくりくる。
自己受容感を持つことによって、自信のみならずコミュニケーション能力も改善すると考える。
劇作家の平田オリザ氏の「わかりあえないことから」には、以下の言葉がある。

表現とは、他者を必要とする。しかし、教室には他者はいない。わかりあう、察し合うといった温室の中のコミュニケーションで育てられながら、高校、大学、あるいは私の勤務先のように大学院になってから、企業になってから、突然、やれ異文化コミュニ ケーションだ、グローバルスタンダードの説明責任だと追い立てられる。
繰り返す。子供たちのコミュニケーションの能力が低下しているわけではない。しかし、年々、社会の要求するコミュニケーション能力はそれを上回る勢いで高まっている。教育プログラムは、それについていっていない
では、自己受容感を取り戻す場合にはどのようなアプローチが大切になるのか?私が一番注目しているのは関係性(【RolfingコラムVol.96】参照)。私はタロットを見る際に、よく親との関係を見る。そして、親と一対一で会って「ありがとう」という言葉を通じて感謝したことがあるか?と聞く。この言葉は関係を一度終わらせる秘訣(私自身それを「卒業」という言葉を使う)で非常に効果のある言葉だ。
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その理由として、吉福伸逸氏の本(「吉福伸逸の言葉」)を本コラムで紹介したことがあるが、自分と他人との関係を見る「関係性の力」が最も大事だからだ(【RolfingコラムVol.96】参照)。
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これには、母、父、兄弟姉妹、同輩(同年代の人)、自然を含む社会との5つの関係が想定。興味深いのは吉福氏が、この関係性には健全な関係がないと極論している点。健全な関係を築く場合には「別れ」が肝心。「別れるためには本格的な出会いをする必要がある」という。 例えば、親と子は、親子関係という形で出会っているが、子供は、母や父という役割を担った人間の側面としてしか見ていなく、一人の人間として対峙していない。子供の目から父母を一人の人間として出会う。それが「本格的な出会い」の意味。それができるようになれば、これまでのような強い執着や拒絶から離れ、自己受容感にもつながっていく。
今まで、自己受容感のアプローチにおいて関係性が大切であることを述べてきた。最近、上記の関係性だけではなく身体へのアプローチも重要であり、ひょっとしたらこちらの方が早いのではないかと思うようになってきた。なぜならば、モノの整理、言葉による問いかけ(上記の「ありがとう」)は、自己受容感は、自分の身体に対して理解することが進めば、解決が更に進むことがわかってきたからだ。
ロルフィングでは、10回のシリーズを通じて全身でどの部分に緊張があるのか?筋膜の緊張を解いていくことでアプローチしていく(筋膜については【RolfingコラムVol.118】で触れた)。
身体の姿勢や身体の構成するパーツに対して、自分でなぜ認識することができるのか?それは人間には身体地図(body map)があるため、地図を頼りにどこになにがあるのか?について知ることができるからだ。
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その身体地図には2種類ある。ボディスキーマとボディイメージだ。
ボディスキーマとは、脳が様々な外部情報を集めることで無意識的に作られる身体地図。ボディイメージは、育った環境、文化等の主観的なイメージによって作られる地図。それぞれの詳細の内容について本コラムで触れた(【RolfingコラムVol.74】参照)。
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本コラムでは、例として女性のケースを取り上げた(【RolfingコラムVol.76】参照)。その人は「南米の女性らしくなりたくない」というボディイメージを持っているためか、胸を隠すという無意識な姿勢(ボディスキーマ)に現れていることが明らかとなった。
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ロルフィングが行っているのは、
ボディスキーマで無意識になっている身体地図を意識化。新たな選択肢(新たなパターン)を提示することによって身体地図を少しずつ書き換えていくことだ
そのことで、ボディイメージが変わることを期待するのだ。できることをすることで、ボディイメージに変化を与えること。これが自己受容感にもつながっていくように思う。
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心へのアプローチとしては、私はモノ、身体、言葉の順番で効果があると実感しているが、身体へのアプローチはこれからますます進むような予感がする。今回のコラムがそのことを考える一助となればと思っている。
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この記事を書いた人

Hidefumi Otsuka