ヨガ × ロルフィング Gateway ── なぜヨガを続けても「届かない層」があるのか|アシュタンガ20年・ロルフィングとの出会い

ヨガ × ロルフィング・全5回シリーズへの入口

はじめに

私がアシュタンガ・ヴィンヤーサ・ヨガ(以下、アシュタンガ)に出会ったのは2006年。呼吸と動作を連動させながら決まった順番でポーズを行うこのヨガは、自主練習が基本で、ポーズは生徒の準備に応じて与えられるという特徴を持つ。

20年以上にわたりアシュタンガを実践し、インストラクターとしても活動してきた中で、私は次第に「ヨガだけでは届かない身体の層がある」と感じるようになった。それを埋めてくれたのが、2013年に出会ったロルフィングだった。

このGatewayは、ヨガとロルフィングがどのように補い合うのかを、ヨガ実践者・指導者に向けて、全5回のシリーズで探究する入口である。

ヨガを実践する施術者は希少

日本でロルフィングを提供する施術者は約130名。しかしその中で、ヨガを継続的に実践している施術者はほとんど存在しない。

ロルフィング業界の代表的な施術者の多くも、ヨガを「指導する」ことはあっても、自身が「実践者として継続している」わけではない。

私は2006年からアシュタンガ・ヴィンヤーサ・ヨガを実践し、タリック・ターミ(Tarik Thami)氏に約12年師事してきた。ヨガインストラクター(RYT200)としても活動しながら、認定アドバンスト・ロルファー™として施術を提供している。

さらに、ロルフィング基礎トレーニング Phase 2 では、Giovanni Felicioni 氏に師事した。Felicioni氏は British Academy of Rolfing(ロンドン)の創設者であり、Mary Stewart(Vanda Scaravelli系統)のヨガを継承するヨガティーチャーとしても活動している。Hubert Godard氏(Tonic Function 提唱者)に20年以上師事した経歴も持つ、ヨガとロルフィングを世界レベルで統合する第一人者の一人である。

ヨガを内側から知る施術者として、「ヨガ × ロルフィング」を実践と理論の両面から統合的にお伝えできる立場にある。

ヨガの本来の目的は「坐ること」だった

現代のヨガは「ポーズ(アーサナ)」が中心のように見える。しかし伝統的なヨガの体系──パタンジャリの「ヨーガ・スートラ」に記された8支則(アシュタンガ)では、アーサナは8つのステップのうちの1つにすぎない。

そもそも「アーサナ」とはサンスクリット語で「坐る場所・坐り方」を意味する。語根「アス(ās)」は「坐る・留まる」という動詞だ。つまりアーサナの本来の意味は「ポーズ」ではなく「坐法」そのものだ。ヨーガ・スートラにはアーサナについてこう記されている──「スティラ・スッカム・アーサナム(Sthira Sukham Asanam)」。安定していて(Sthira)、快適で(Sukham)あること──これがアーサナに求められるすべてだ。

ポーズを練習するのは、最終的に「ディヤーナ(瞑想)」の状態に入るために身体を整えるためだ。20分間静かに坐り続けるとき、身体が安定していなければ意識は身体の不快感に引き戻され続ける。アーサナの実践は、その「安定した坐法」を身体に宿すための準備体操だ──これがヨガのアーサナが本来持っていた意味だ。

この視点から見ると、「坐法」は単なるポーズではなく、身体と意識の統合の到達点だ。坐法には蓮華座・半蓮華座・安楽座など様々な形があるが、すべてに共通するのは「骨盤が立ち、背骨が自然なカーブを保ち、力を抜いても崩れない坐り方」が求められることだ。

そしてここに、ヨガとロルフィングが出会う最初の接点がある。

八支則の構造、チッタ・ヴリッティ・ニローダ(心の働きの止滅)、ヨーガ・スートラと「認識の枠組み」の関係といった思想面の深掘りは、もう一つのサイト『Mind Bodywork LAB』で扱っている。 → 認識のOSと瞑想 Gateway(MBL)

しゃがむ・坐るという問い

坐法の土台は「骨盤が立つ」ことだ。しかし現代人の多くは、床に坐ろうとすると骨盤が後傾し、腰が丸まり、長時間維持できない。これは椅子文化・デスクワーク・スマートフォンの習慣が、骨盤を後傾させる筋膜パターンを固定させてきた結果だ。

「しゃがむ」という動作は、この問いを照らし出す。人類学者ゴードン・ヒューズが分類した300余りの坐法の中で、しゃがみ坐りは最も自然で筋骨格系への負担が少ない姿勢の一つとされる。しゃがめる身体は骨盤・股関節・足首の筋膜が協調して働いており、坐法の土台として理想的だ。

アシュタンガの実践者が長年練習しても「坐法が安定しない」と感じるとき、それはポーズの問題ではなく、骨盤と筋膜のパターンの問題であることが多い。

→ しゃがむと座るは何が違うのか──椅子文化が身体に与えた影響

アシュタンガから見えてきたこと

私がアシュタンガを始めた2006年当時、師であるタリック・ターミ(Tarik Thami)のもとでマイソール形式の練習を続けた。毎朝6時から始まる自主練習に通い続けた約12年間は、身体と呼吸と意識の関係を探り続ける日々だった。

アシュタンガの特徴の一つが「ウジャイ呼吸(Ujjayi Pranayama)」だ。喉の奥を細め、波の音のような呼吸をしながら動作を続ける。この呼吸は横隔膜と体幹の深層筋を協調させ、Tonic Muscle(深層の抗重力筋)を活性化させる働きがある。アシュタンガを長年続けると、呼吸と動作が統合され、「動かされている」ではなく「動いている」という感覚が生まれる。

しかし実践を8年ほど続けた2014年頃、気づきが生まれた。アシュタンガのプライマリーシリーズは、前屈・後屈という矢状面(前後の動き)が中心の動きで構成されている。水平面(回旋)や前額面(左右の動き)の要素は相対的に少ない。長年この偏った動きのパターンを繰り返すと、筋膜にその偏りが刻まれていく。「呼吸と動作は繋がっている。でも筋膜のパターンが変わらない限り、同じ制限が繰り返される」──これがロルフィングを探し始めたきっかけだ。

ヨガだけでは届かない層

ヨガは素晴らしい実践体系だ。しかし20年実践して確信したことがある。ヨガのアーサナは「今ある筋膜のパターンの中で動く」練習だ。ポーズを繰り返すことで柔軟性は上がり、筋力もつく。しかし筋膜に刻まれた「過去の姿勢パターン・感情パターン・怪我の記憶」そのものを書き換えるには、別のアプローチが必要だ。

ロルフィングはその「別のアプローチ」だった。10回のセッションで筋膜に直接働きかけると、骨格が重力の軸に乗り直し、Tonic Muscleが本来の働きを取り戻す。その結果として、ヨガのポーズの質が根本的に変わった。「やろうとする」のではなく「自然にそうなる」ポーズが増えた。坐法が安定した。そして呼吸が深くなった。

→ ロルフィングの10回セッションとは何か

ロルフィング・ロルフムーブメント・ヨガ ── 3者循環という実践構造

ヨガとロルフィングは補い合う。しかし両者を統合する実践には、もう一つの柱が必要だ──ロルフ・ムーブメントだ。

私の実践が長年かけて辿り着いたのは、3者が循環する構造だった。

  • ロルフィングは、構造(筋膜・骨格)に直接介入する。10回シリーズで身体の重力との関係性を組み直す。
  • ロルフ・ムーブメントは、その構造変化を動きの中で定着させ、気づきを言語化する。Pre-movement(動作前の動き)の観察を通じて、自分の動きの癖と新しいパターンの違いを身体感覚として捉えていく。
  • ヨガは、日常実践の中でその感覚を深めていく。アーサナ・呼吸・坐法を通じて、整った構造を生活時間の中に織り込む。

この3者循環は、シリーズの3記事すべてに通底している。第1回ではボディスキーマの書き換えを動きの中で確認する文脈で、第2回では呼吸の動きを言語化する文脈で、第3回では坐法に向かうスペースの体感の文脈で、それぞれロルフ・ムーブメントが第3の柱として機能している。

ヨガの実践者にとって、ロルフ・ムーブメントは「気づきの実践」と直接つながる入口になる。

→ ロルフ・ムーブメントとは何か──動きの質を探究するボディワーク

ヨガ実践者・指導者がロルフィングを受けた声

ヨガの実践者・指導者がロルフィングを受けて何を感じたか。体験記の一部を紹介する。


「身体の可能性の楽しい探究に繋がりますよ。」

── 近藤真由美様(ヨガ・インストラクター/アンダーザライトヨガスクール講師)

近藤真由美さんは、私がRYT200の資格を取得したアンダーザライトヨガスクール(UTL)の講師の一人であり、アシュタンガの練習仲間でもある。タリック・ターミから教えを受けた経歴も共有している。ヨガの指導者として、自分自身の身体と深く向き合い続けるための入口としてロルフィングを選んだ体験記である。

→ 近藤真由美様の体験記


「ロルフ・ムーブメントのセッションを受け、終わった直後から首の痛みや肩こりが激減した。ヨガ・ピラティスの動きがよくわかるようになった。声の響きが違う。思考がクリアになった。」

── 相本幸子様(フリーアナウンサー)

→ 相本幸子様の体験記


「気持ちのいい散歩(歩行)がしたい方にロルフィングを勧めたいと思う」

── 柿崎亜耶子様(会社員・ヨガ・インストラクター)

腰痛の改善と同時に、「内面的な部分と連動して身体の中の詰まり・滞りを自分で捉えられるようになった」と報告した。ヨガの実践者として身体と内面の統合を体験した記録。

→ 柿崎亜耶子様の10回体験記


→ ロルフィング体験記 Gateway(41本) ── 症状別・職業別に読む

身体が整うと、瞑想が変わる

ヨガの最終的な到達点が瞑想だとすれば、身体が整うことは瞑想の質に直結する。Tonic Muscleが正しく働き、骨格が重力の軸に乗った状態では、20分間坐り続けることに身体的なエネルギーをほとんど使わなくて済む。瞑想は身体的な負担からではなく、認識そのものの探究へと向かえるようになる。

「瞑想は認識のOSを更新するデバイス」という視点、瞑想と神経科学(Polyvagal理論・DMN)の関係、認識のOSが書き換わるプロセスといった瞑想の思想・神経科学的な深掘りは、MBL側の Gateway「認識のOSと瞑想」で扱っている。 → 認識のOSと瞑想 Gateway(MBL)

ロルフィングの科学的根拠

ロルフィングは医学的にどう位置づけられているのか?

2025年現在、欧州ロルファー協会(European Rolfing Association)のScientific Advisory Boardには、NIH NCCIHディレクターのHelene Langevinや、ポリヴェーガル理論の提唱者であるStephen Porgesなど、著名な研究者が名を連ねている。

これは、ロルフィングが筋膜研究や神経科学といった学術領域との接点を持ちながら発展していることを示している。

→ 詳しくは ロルフィングは疑似科学か?──筋膜研究の最前線 へ

ヨガ × ロルフィング・全5回シリーズ

ここまで述べてきた「ヨガとロルフィングの接点」を、5つの視点から具体的に深掘りしていくのが、ヨガ × ロルフィング・全5回シリーズだ。

第1回では、ボディスキーマ・ボディイメージ・現象学の視点から、「なぜヨガを続けても変わらない感覚があるのか」を解き明かす。

第2回では、アシュタンガのウジャイ呼吸とTonic Function(重力に対する持続的な姿勢制御機能)の関係から、「呼吸と構造のダイナミクス」を探る。

第3回では、「スペース(空間)」という身体感覚の視点から、坐法を深める鍵を探る。

第4回では、2015年スリランカでのアーユルヴェーダ体験を起点に、ロルフィングとアーユルヴェーダに共通する「個別化原理」を探る。

第5回では、2015年のプラーナーヤーマ連続講座を起点に、ウジャイの背後に広がる呼吸法の地図と現代呼吸生理学の接点を扱う。


第1回:なぜヨガを続けても『身体の感覚』が変わらないのか──ボディスキーマ・ボディイメージ・現象学から読み解く

ヨガの練習で「右側はスムーズなのに、左側だけ引っかかる」「前屈で『伸びているつもり』なのに、写真を見ると背中が丸まっている」──これらは筋力や柔軟性だけの問題ではなく、「身体の地図」にズレがあるサインかもしれない。

第2回:なぜウジャイ呼吸は『身体の奥』に届くのか──Tonic Functionと呼吸法から見る構造のダイナミクス

ヨガ実践者の多くが「呼吸が深まらない」「胸のあたりで止まる」と感じる。これは表層筋への過剰依存と、深層のTonic Functionの不活性が原因だ。

第3回:なぜ『スペース』を感じると坐法が変わるのか──瞑想に向かう身体感覚の再発見

「20分坐ることができない」「足の痺れ」「腰の痛み」──ヨーガ・スートラがアーサナに求める「Sthira(安定)・Sukham(快適)」が成立しないのはなぜか。鍵は身体の中の「スペース」にある。

第4回:なぜ『一人ひとりに合わせる』のか──スリランカで体験したアーユルヴェーダとロルフィングの個別化原理

2015年6月、スリランカ・シッダレーパ・アーユルヴェーダ・ヘルスリゾートでの4日間の体験を起点に、ピッタ・カパ体質の診断、体質別オイルマッサージ、シロダーラなどの実践を、ロルフィングのオイルアプローチと比較する。「一人ひとりに合わせる」という原理が、両者の実践にどう現れているかを探る。

第5回:なぜ呼吸法は『身体の状態』を変えるのか──プラーナーヤーマと現代呼吸生理学

2015年9月、カイヴァリヤダーマ・ヨーガ研究所系統のプラーナーヤーマ指導者・斎藤素子さんとの出会いから始まった連続講座の体験を起点に、ナーディ・ショーダナ(片鼻交互呼吸)、カパーラバーティ、クンバカ(息の保持)といったテクニック群を、現代呼吸生理学(Tonic Function、ボーア効果)の視点から扱う。第2回で扱ったウジャイ呼吸の延長線上にある、より広い呼吸法の地図を提示する。

思想的背景は MBL(Mind Bodywork LAB)で

ヨガを20年、瞑想を10年以上実践してきた中で、私が深めてきた問いがある──「身体を整えると、なぜ認識が変わるのか」「ヨガの思想は、現代の神経科学と何を語り合えるのか」「個別化という原理は、どこから来てどこへ向かうのか」。

これらの問いを扱っているのが、もう一つのサイト『Mind Bodywork LAB』だ。

  • 認識のOSと瞑想:瞑想を「認識のOSを更新するデバイス」として捉える視点。Polyvagal理論・DMN(デフォルトモードネットワーク)・Carhart-Harris の幻覚剤研究まで含む、認識の神経科学的基盤。
  • ヨーガ・スートラの思想的読み直し:八支則・チッタ・ヴリッティ・ニローダ・サーンキヤ哲学。「ヨガが扱ってきたのは何だったのか」を、認識論として読む。
  • クリシュナマチャリアの個別化哲学:4人の弟子(パタビ・ジョイス、アイアンガー、インドラ・デビ、デシカチャー)にそれぞれ異なるヨガを伝えた事実から、「個別化」という原理を浮かび上がらせる。
  • 近代ヨガの100年史:19〜20世紀インドのナショナリズム、欧米エクササイズとの融合、現代ヨガの起源。

Rolfing HP が「身体に何が起きるか(実践)」を扱うのに対し、MBL は「その変化が認識に何をもたらすか(思想・神経科学)」を扱う。両者は車の両輪として補い合う。

→ 認識のOSと瞑想 Gateway(MBL) → Mind and Bodywork Lab:このサイトの歩き方


修正ではなく、変容を。

まずは60分の体験セッションで、あなたの身体とヨガの実践の接点を確認することから。

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※10回コースの強制はありません。まずは1回、ご自身の身体で確かめてください。

東京・渋谷/60分/初回ご相談歓迎/英語対応可


大塚英文(Ph.D.)|認定アドバンスト・ロルファー™/ロルフ・ムーブメント・プラクティショナー/全米ヨガアライアンス認定指導者(RYT200)
東京大学大学院医学研究科博士課程修了。製薬業界を経て、2015年より渋谷でロルフィング®セッションを提供。2006年よりアシュタンガ・ヴィンヤーサ・ヨガを実践中。「思考・感情・身体の統合」をテーマに活動。