ロルフィングで姿勢を見る際に三つの要素が関わっていると考える。視覚(Visual system)、内耳感覚(Vestibular system)、筋感覚(kinesthetic system)の3つの要素であり、この3つの要素があって初めてバランスが調っていると考える。中でも、セッション7で大切になるのは内耳感覚。身体が本来持つ内耳感覚を取り戻すかがテーマとなる。
まず3つの感覚について説明する。
視覚は、目で見る情報だが人間の外部情報の8割を目に頼っているとも言われる。目を酷使すると(例えばPCを使った作業を含めたデスクワーク)、他の2つの感覚とのバランスを調えようとする。しかし、他の二つの感覚が発達していないと、姿勢を正そうと思っていても、また崩れてしまうのである。そこで、ロルフィングでは、次の二つの感覚を調えることを考える。
筋感覚とは、手、足、頭・顔を含めた外部感覚器官が外部情報をしっかりと受け取り、身体の内部に情報を伝えることができるかどうか?という意味である。ロルフィングではPalpatoryやHapticという言葉で表現する。
Palpatoryは、Palpation(触診)に由来する。解剖学を勉強するときにどこに筋肉や骨があるのか?実際に生きた身体に触れて確かめる、あの作業である。一方でHapticは、ギリシャ語のhaptō(触れる、触知する)に由来する。すなわち手や足を触れる際に情報を受け取れる状態に調えることが重要であるが、必ずしも身体はそのようになっていない。
足の場合には足底アーチが3箇所あるが、そのアーチの土台を築くことや下肢と足との間にスペースが出来ること(セッション2で扱う。「セッション2:足を調える」参照)で、下半身が地面をしっかりと受け止めることができ、上半身の自由度が増す。

Palpatory/Haptic状態の足を表現すれば、まるでヤモリのように地についた状態、または足にまるで目がついたような状態で情報を受け取ることができると考えてもいいかもしれない。
顔・頭の場合は、重力によって押しつぶされた状態ではなく、頭が空から吊るされた状態(Sky hook)で身体が重力に対して、二つの方向(Palintonicity。「基本的な考え方〜2方向性(palintonicity)」で説明した)で調える。二つの方向とは、下半身が地について、上半身が自由に上向きになるという意味である。そのことで、頭も自由に動くことで、外部からの情報が得やすくなる。
内耳感覚は平衡感覚のこと。重力を感じるのは耳の奥にある内耳。そこには平衡器官があり、脳神経系と共同に働き、身体の向いている方向、傾きや動きを感知する。このことで身体のバランスを取り戻そうとする。
平衡感覚のわかりやすい例は、船酔い。海の波で平衡感覚を失ってしまうために、船酔いは起こる。耳は顔・頭の一部である。セッション7では、この顔・頭の内耳感覚に対してアプローチすることで身体の内部に対してこの感覚を呼び戻そうと考える。
そのために口や鼻の中にそれらに関連する場所の筋膜を緩める。それらには、顎やその周辺の筋肉、鼻周辺の筋肉や、舌の筋肉なども含まれる。
顔や頭についての効用を少し触れたが、実際のセッション7の説明の際にどのように体感したかを見てみたいと思う。
2026年8月の注記
この記事で挙げた3つの情報収集系——視覚、内耳感覚、筋感覚——は、その後も繰り返し現れることになった。
2018年:自分の身体で確かめる
2018年1月から2月にかけて、Rolf MovementのPart IIを受講した。そこで、この3つが「3つの情報収集系」として正面から扱われた(「3つの情報収集系のバランスを整えること」参照)。
Rita Geirola先生の指摘が興味深かった。人間は「見る」ということを教育や経験を通じて学ぶ。それに対して、内耳感覚と筋感覚はすでに備わっている。学習して身につけたものだから、視覚は最も意識しやすく、そのぶん優位になりやすい。この記事で「外部情報の8割を目に頼っている」と書いたことの、成り立ちの側からの説明にあたる。
そして、目の感覚が強すぎると内耳感覚の働きや重力が感じにくくなる。目は後頭部につながっているため、目の酷使は首こりと肩こりに結びつく。
実際にワークで確かめたことがある。両目と片目で人を観察したときに身体がどう変わるか。自分の場合、左目の視野が100で球状だとすると、右目は60で若干後方に偏っていた。左目を閉じて右目だけにすると、胸に詰まり感が出た。
そこでパートナーに脳の右半分の外側で音を出してもらい、内耳感覚を活性化させたところ、右目の視野が広がり、胸の詰まり感が取れた。さらに足の感覚を整えると、視覚がより安定した。
視覚のわずかな変化が、身体の整い方に大きく影響する。この記事で「3つの要素があって初めてバランスが調っている」と書いたことを、4年後に自分の身体で検証したことになる。
2025年:見る側の枠組みへ
2025年のアドバンスト・トレーニングでは、この3つの感覚が別の位置に置かれていた。
Jeff Maitlandが最も強調したのは、観察する力(Seeing)を鍛えることである。「単なる目視ではない。感覚器官全体を使って身体を聴くことだ」。彼はSomatic Sensorium——身体感覚の総動員——によって情報を得ることを推奨した。
Ray McCallも「’Seeing with your own eyes’ は誤解を生む。身体全体で受け取ることが観察だ」と語っている(「ロルフィングにおける原理・原則と観察力 — Jeff Maitlandのアプローチ」参照)。
ここで枠組みが移っている。この記事で扱った3要素は、クライアントの姿勢を評価するためのものだった。11年後には、施術者自身がどう観察するかの問題になっている。見られる側の枠組みが、見る側の枠組みへ移った。
「視覚に8割依存している」という指摘も、当時は一般論として書いていた。2025年には、施術者自身への戒めとして機能する。
足の目
この記事には、次の一文がある。
「足にまるで目がついたような状態で情報を受け取ることができる」
2025年のアドバンスト・トレーニングで、Ray McCallが毎回扱うというワークの名前が「Eye of the Foot(足の目)」だった。足裏に目があると仮定し、それを開閉することで身体や空間にどう変化が起きるかを観察する(「空間は「ないもの」ではなく「あるもの」──足裏の“目”から始まる知覚の捉え方」参照)。
2014年に比喩として書いたものが、11年後に技法の名前として戻ってきた。
そして、その中間に2018年の実験がある。足の感覚を整えると視覚が安定した、という記録である。足の目と視覚のつながりは、比喩ではなく実際の関係だった。






