はじめに
こんにちは!東京・渋谷でロルフィング・セッションと栄養・タロットカウンセリングを提供している大塚英文です。
ロルフィングの7回まで〜何を整えていくのか?
私は、2015年6月から渋谷・恵比寿・代官山にて、ロルフィング・セッションを提供している。
ロルフィングとは、
1〜2週間に1回、手技を使って、毎回テーマに沿って施術を行う方法の一つ。
身体を整えながら「身体感覚」を磨くことができるので、肩こり、腰痛を含めた身体の不調も改善していく。
ロルフィングは、1回目は、呼吸、2回目は、足裏、3回目は、前後のバランスをそれぞれ整えていく。
3回目までは、表層の筋肉を整えていたが、4回目以降は、(身体の内側にある)中心軸を扱う。そのため、目の見えない深層の筋肉を扱っていく。
4回目で、下半身(内転筋〜骨盤底付近)、5回目で、上半身の背骨の前側(腸腰筋、内臓、横隔膜)、6回目で、上半身の背骨の後側(脛、臀筋群、仙骨、背骨)、7回目で、上半身の肩と首全体をそれぞれ整える。
注目すべきことは、上半身の肩と首全体は、7回目の整えることであり、先ではないこと。
なぜならば、下半身が整っていないと、いくら上半身が整っていても、すぐに元に戻ってしまうからだ。
そして、7回目まで来ると、自律神経のバランスの改善が期待できる。今回は、その点についてまとめたい。
心的外傷(トラウマ)と身体感覚との深い関係
ロルファー(ロルフィングの施術を提供する人)の一人、Peter Levineは、動物を観察して、人にはない特徴を見つけた。
動物は敵に遭遇するときに、闘う(Fight)又は逃走(flight)の2つの手段を取るが、その2つを取ることができない場合に、凍りつく(Freeze)という第三の手段の方法をとる。
これらの3つの手段は、人間が自らコントロールすることができない「自律神経系」が関わっている。
下記の映像では、豹に襲われたインパラが、「凍りつき」反応を示した後、ショックによって生じたエネルギーを解放するために、震える動作を行っていることを確認することができる。
動物は、このようにショックによる生じたエネルギーを解放することで、心的外傷(トラウマ)に囚われることなく、生きることができる。
実は、人間は、そのプロセスが中途半端なため、トラウマが身体内に残るというのだ。
興味深いのは、Levineの着眼点だ。トラウマは、誰が何を起こしたのか?原因は何か?を見るのではなく、身体内のショックのエネルギーが中途半端な形で身体内に残ってしまうこと引き起こされるのだと考えた。そして、動物と似たように、エネルギーを全て放出するといったプロセスを経ることで初めてトラウマが完治することを、実際に何例かの患者に治療することを通じて示したのだ。
Levineが強調しているのは、トラウマの解決は、その人の身体内で感じる身体感覚を呼び起こしその観点を大事にするということだ。
ロルフィングの4回目以降の深層筋のセッションに進むと、こういった未解決のトラウマが潜んでいる可能性が高まる。クライアントさんの中でも、身体が震える、感情が出てくる(笑う、涙が出る、怒りの感情が出る等)などの反応が出てくる場面をいくつか遭遇した。どんな深い感情であっても、大切なのは身体を整えるという観点と身体感覚を大事にするということで、かなりの確率で改善の方向に向かう。
これらが関わっているのは「自律神経」だ。以降「自律神経」と「身体感覚」についてまとめたい。
迷走神経と身体感覚〜「新しい迷走神経」と「古い迷走神経」
人の身体には、
「自分の意思で動かすことが可能である」体性神経系
と
「自分の意思ではコントロールができない」自律神経系
の2つの神経系がある。
自律神経系には、2つの拮抗する神経系がある。運動している時に優位になる交感神経系とその反対の働きをし、安静時に優位になる副交感神経系である。
一方で、第三の手段であるFreezeと関わるのが、迷走神経(Vagus nerve)だ。
迷走神経は、脳から腹部まで到達する唯一の神経で頭から出ており、胃腸管、気管支、心臓と内臓の働きに関わっている。凍りつくに関わっているのは、迷走神経の中で、ミエリン鞘のない「古い瞑想神経」(身体では、背面(dorsal)に位置している:Dorsal Vagus Nerve、背側迷走神経)で脊椎動物や爬虫類の時代から発達した古い迷走神経とも言われている。この迷走神経は、Freezeに関わる。
一方で、イリノイ大学の脳神経学者のStephen Porges教授は、興味深い発見をする。
人間を含む哺乳類には別の種類の迷走神経を発達させたという。哺乳類は、ミエリン鞘*のある「新しい迷走神経」(身体では腹側(ventral)に位置している:Ventral Vagus Nerve、腹側迷走神経)だ。これは顔面表情と発声をコントロールする頭蓋の神経につながるように発達した。
Porges教授は、迷走神経(Vagus)が複数(2つ:「古い迷走神経」と「新しい迷走神経」)あるということからポリヴェーガル(Poly=多数、Vagal=迷走神経)理論という名前で呼んでいる。
哺乳類は(爬虫類とは違い)子供を産む際に乳を飲ませる必要がある。そこで新たにコミュニケーション手段を発達させる必要性があったのだ。顔面を表情で表現すること、泣くこと、発声、又は口から吸うこと等。
「新しい迷走神経」は、社会性を発達させる上で重要な役目を果たすと考えられており、顔面を表情で表現することで人間関係の距離感を近づける一助となった。
「新しい迷走神経」〜社会性・心理的距離との関係性
結果として、顔面に集中する新しい迷走神経の働きによ心理的に距離を近づいていいという合図を発達させていく。このように人間は、他人に近づく際には、顔や発声、他人からの合図によって判断するようになった。
「新しい迷走神経」が使えている状況だと、
- アイコンタクトをする
- 発声に抑揚やリズムが出る
- 表情に出す
- 背景にある声と人の声を識別するのに中耳の働きを制御する
等が認められるが、「新しい迷走神経」が使えなくなると、顔面の筋肉が使えなくなり、
- まぶたが下がる
- 発声の抑揚がなくなる
- 表情の感情表現が乏しくなる
- 人の声に対する意識が減少する
- 社交性に関する感度が低下する
が認められなくなる。
Porges教授によると、3つの自律神経系の「新しい迷走神経」(心理的距離や社会性に関与)、交感神経(Fight/Flightに関与)、古い迷走神経(Freezeに関与)は階層構造をとることを明らかにしている。普段ならば、新しい迷走神経が下位の2つ(交感神経、古い迷走神経)を抑制。交感神経は「古い迷走神経」を抑制する。上位に上がれば上がるほど安心感が増すので、人間は一番最上位の「新しい迷走神経」を使おうとする。
最近「心理的安全性(Psychological safety)」について叫ばれているが、これも「新しい迷走神経」が整っているかどうかが決め手になる。
裏を返せば、出来事が起き安全を感じた場合には、新しい迷走神経が働くが、危機的な状況が訪れると次の交感神経が働き、Fight/Flightが作動する。最終的に生命において危機的な状況が訪れると最終的に古い迷走神経が働き、Freezeという行動へと出る。
興味深いのは、ストレスを感じた時に人間は無意識的に顔面の筋肉を使い始めること。それは、飲食、音楽を聴く、人と話すこと等の行動として現れる。これは全て顔面の筋肉を働きかけを通じて、新しい迷走神経を優位にするための行動と考えてもいい。Porges教授は、ヨガのPranayama(呼吸法)のように呼吸を深くすることで、顔面の筋肉を使うことにつながり、それが同じように「新しい迷走神経」を優位にするための行動だという。
「新しい迷走神経」とロルフィングのセッション
ロルフィングの面白いところは、顔や肩を7回目に行うことだ。4回目で、下半身(内転筋〜骨盤底付近)を整える、5回目で、上半身の背骨の前側(腸腰筋、内臓、横隔膜)を整える、6回目で、上半身の背骨の後側(脛、臀筋群、仙骨、背骨)を整える、を行うことで、「新しい迷走神経」を使える準備が整うからだ。
まとめ
今回は、自律神経系とロルフィングのセッションとの関係についてシェアさせていただいた。
この投稿が少しでも、皆さんのお役に立てれば幸いです。