はじめに
Rolf Movementの認定トレーニングは、ロルフィングの基礎トレーニングとは別に設けられた、合計30日間のプログラムである。すべての課程を修了すると、Rolf Movement Practitionerとして認定される。
この記事では、これからトレーニングを受けるかどうか検討している方に向けて、認定に必要な要件と、受講できる場所や選択肢を整理する。
私自身は、2017年7月から2019年12月までの2年5か月をかけて、ヨーロッパ・ロルフィング協会(European Rolfing Association:ERA)で30日間のトレーニングを修了し、認定を受けた。その間に何を学んだのかについては、別の記事「ヨーロッパのRolf Movement Practitionerまでの歩みについて──認定までの道のり」にまとめている。
本記事では、個人的な学びの内容ではなく、Rolf Movementの認定トレーニングがどのような仕組みで成り立っているのか、その制度を中心に紹介する。
なお、トレーニング制度は、現在も時代に合わせて変化している。必要な受講日数や履修の順序、受講資格などが変更されることもあるため、最新の情報については、必ず各協会の公式ウェブサイトをご確認いただきたい。
この記事に出てくる団体
はじめに、この記事で扱う分野と組織の名称を整理しておきたい。
Structural Integration(構造的統合、以下SI)
Ida Rolfが創始した分野全体を指す一般名称である。ロルフィングはSIの一つであり、「Rolfing」という名称はDr. Ida Rolf Instituteの登録商標である。同じ系統の仕事であっても、どの学校で認定を受けたかによって、異なる名称が使われている。
Dr. Ida Rolf Institute(DIRI)
1971年に米国コロラド州ボルダーで設立された、ロルフィングの教育と認定を担う中心的な組織である。現在は同州ラファイエットに拠点を置いている。かつてはRolf Instituteと呼ばれていたため、この記事で過去の出来事を扱う際には、当時の名称である「Rolf Institute」を使用する。
European Rolfing Association(ERA)
ヨーロッパのロルファーによる協会で、事務局はドイツのミュンヘンにある。その教育部門が、Dr. Ida Rolf Institute Europe(DIRI Europe)である。ERAを通じて認定を受けると、DIRIにも自動的に登録される。
この記事では、協会や組織について述べる場合は「ERA」、教育課程やその資料を指す場合は「DIRI Europe」と書き分ける。
日本ロルフィング協会(Japan Rolfing Association、JRA)
日本のロルファーの協会である。
IASI(International Association of Structural Integrators)
ロルフィングを含むSIの実践者による国際団体である。SIの教育基準を定め、その基準を満たす養成課程を認定している。後ほど触れる受講資格のうち、「IASI認定校の修了者」という条件は、この団体が認定した養成課程の修了者を指している。
もう一点、あらかじめ説明しておきたい。
SIには、DIRIとは異なる系譜も存在する。Ida Rolf自身が1967年に最初に名づけた「Guild for Structural Integration」の名称と伝統を受け継ぐ学校が、現在もヨーロッパと米国にある。「Rolf Movement」はDIRIの登録商標であり、その認定制度もDIRIの系譜に属する。Guildの系譜にある学校では、Rolf Movementの認定課程は扱われていない。
したがって、本記事で取り上げるのは、SI全体の制度ではなく、DIRIの系譜におけるRolf Movementの認定制度である。DIRIとGuildが異なる道を歩むようになった経緯については、別の歴史記事にまとめている。
Rolf Movementとは何か
ERAは、Rolf Movementを、ロルフィングとは異なる視点から、その可能性を広げるプログラムとして位置づけている。
ロルフィングが主に手技を通して身体の構造に働きかけるのに対し、Rolf Movementでは、身体の機能や動きに着目してクライアントと関わる。つまり、動きから身体を捉えることで、手技による構造的なアプローチに、もう一つの視点を加えるのである。
動きの教育が拡張されてきた理由として挙げられているのは五つある。重力への方向づけ、知覚、協調、表現性、神経系の調整。これらが姿勢と機能の持続的な変化を決めるうえで重要だと分かってきたことが、拡張の背景にあるという(ERA公式ページ)。
ERAはさらに踏み込んで、Rolf Movementがロルフィングを他のStructural Integrationの実践から区別するものだ、と書いている。神経科学と運動パターンの研究における進行中の発見を、Ida Rolfの遺産に結びつけるものだ、と。
タッチの目的が異なる
ここには、重要な違いがある。
Rolf Movementで用いるタッチは、従来のロルフィングで用いられる手技とは、目的が異なる。その狙いは、動いているときの身体の組織化を高めることにある。筋膜そのものを変えるための手というよりも、動きを通して身体に新しい情報を伝える手だといってよい。
ただし、筋膜への働きかけがなくなるわけではない。ERAは、Ida Rolfの考え方に基づく筋膜への働きかけも、Rolf Movement Practitionerが用いる手段の一つであると明記している。
つまり、Rolf Movement Practitionerは、手技を通して身体の構造に働きかける視点と、知覚や動きの協調に働きかける視点の両方を身につけることになる。
何を変えようとしているのか
DIRIのRolf Movement Instructorである Kevin Frank は、この課程の目的をERAの公式説明より具体的に述べている。Rolf Movementはロルフィングの中の専門領域であり、知覚と協調の教育を通じて、努力と短縮に基づく運動パターンから身体を自由にすることを強調する。その主たる手段は、身体が動く準備の仕方、すなわちpre-movementを変えることである。動く準備の仕方は、変えようとしても抵抗する運動パターンを変えられるかどうかの大きな部分を占める。
この見方は、Ida Rolf自身の言葉と接続している。ERAはPart 1の案内の冒頭で、Ida Rolfの言葉を引いている。Put it where it belongs and ask for movement。あるべき場所に置いて、動きを求めなさい。ERAは、この一句が、身体がそれぞれの動きに向けて理想的に自分を準備することの重要性を示していると説明している。
どのような人が受けているのか
Rolf Movementは、動きを通して身体への気づきを深める教育的なアプローチである。そのため、ヨガ、ピラティス、ダンス、スポーツ、武術など、さまざまな動きの技法と組み合わせることができる。
トレーニングを受ける人の背景も多様である。ダンス、音楽、スポーツ、ヨガ、武術などに携わってきた人もいれば、まったく異なる分野から参加する人もいる。背景はそれぞれ異なるが、身体の動きに関心を持っているという点は共通している。
認定を受けた後の活用方法も一つではない。多くの実践者は、従来のロルフィングのセッションにRolf Movementの視点を取り入れ、仕事の幅を広げている。一方で、Rolf Movementの個人セッションやワークショップを独立した形で提供している人もいる。
Rolf Movementは、ロルフィングの10回シリーズを終えたクライアントが、さらに身体を探求するために受けることもできる。同時に、従来のロルフィングSIを受けていない人に対しても、単独のアプローチとして役立つとERAは説明している。
ERAはどの系譜を中心に据えているのか
トレーニングを受ける場所を選ぶうえでは、ERAがRolf Movementの成り立ちをどのように説明し、どの系譜を中心に据えているのかを知っておく価値がある。
Ida Rolfが問い続けたのは、三次元に広がる筋膜のネットワークを踏まえながら、人間はどのように身体を使うことができるのか、ということだった。その目標は、無理なく自然に直立し、重力に支えられる身体を実現することにあった。ERAによれば、Moshe Feldenkraisをはじめ、当時、動きを探究していた多くの研究者との交流が、彼女のRolf Movementの発展に影響を与えたという。
Ida Rolfが始めたこの探究は、その後、多くのロルファーによってさらに発展させられた。なかでもERAが画期的なものとして位置づけているのが、Hubert Godardによって発展したアプローチである。
GodardのTonic Functionのモデルは、ほかの動きの教師たちとの交流、長年にわたる豊富な経験、そして結合組織の機能に関する近年の研究知見をもとに構築されていると、ERAは説明している。
つまり、ERAはRolf Movementの教育において、Godardの理論とアプローチを中心的な系譜として位置づけている。次の章で見るように、Godardの系譜がRolf Movementのすべてというわけではない。しかし、ERAで学ぶということは、基本的にこの系譜を受け継ぐことである。この点は、受講先を選ぶうえで押さえておく必要がある。
この課程はどこから来たのか
ロルフィングの基礎トレーニングについて書いた記事では、その歴史にほとんど触れなかった。しかし、Rolf Movementについて説明する際には、成り立ちを避けて通ることができない。そこには理由がある。
手技によるロルフィングには、10回シリーズという共有された背骨がある。どこで誰から学んでも、基本的にはこのシリーズの考え方と順序を学ぶ。そのため、歴史的な成り立ちを詳しく知らなくても、トレーニングで何を学ぶのかは案内を読めば理解できる。
一方、Rolf Movementには、それに相当する一つの共通した型がない。複数の理論的な流れがあり、どこで、誰から学ぶかによって、受け取る内容の重心が変わる。次の章で見るように、ERAの教育を支える背骨はHubert GodardのTonic Functionモデルである。しかし、それがRolf Movementのすべてではない。
こうした違いがどこから生まれたのかを理解するには、その歴史を振り返る必要がある。
Rolf Movementの教育は、当初から一つの難しさを抱えていた。Rolf Movement InstructorのKevin Frankは、その問題を次のように整理している。
Ida Rolfは、新しい身体の見方を一つの体系にまとめた。しかし、自分が理解していることを他者に教えるのには苦労した。それを表現するための言葉が、それまで存在していなかったからである。
何が調和のとれた身体に見えるのかを見分け、それを定義できる人はほとんどいなかった。ましてや、身体の協調がどのように変化したのかを、言葉で伝えられる人はいなかった。そこには、新しい言語と、身体の調和を捉えるための新しい指標が必要だった。Rolf Movementの仕事は、この欠けていた次元を補う試みとして始まったのだろうと、Frankは述べている(『Structural Integration』誌、2012年6月号)。
その後に生まれた複数の理論やアプローチは、いずれもこの問題に対する、それぞれの答えだと考えることができる。Godardの理論も例外ではない。
彼の考えを数ある技法の一つとしてではなく、「どのような問いに答えようとしたのか」という視点から理解するためには、まず問いが生まれた背景を知る必要がある。
Dorothy Nolteが1962年に始めたStructural Awareness。Judith Astonが1971年から発展させたRolf/Aston Structural Patterning。1977年のAstonの離脱。1978年から1980年にかけてのRolfing Movement Integrationの成立。そして、1989年の組織の分裂と、その後のカリキュラムの分岐。
この歴史の流れについては、別の記事「Rolf Movementはどこから来たのか〜Ida Rolfから現在までの歴史」にまとめている。
Rolf Movementの受講先を選ぶ前に、一度目を通しておくことを勧めたい。どこで、誰から学ぶかによって何が変わるのか。その背景が、歴史をたどることで見えてくるからである。
理論の流れは一つではない
Rolf Movementをどこで学ぶかを考えるうえで、最も重要になるのが、理論の流れは一つではないという点である。
ERAで教えられているRolf Movementの背骨には、Hubert GodardのTonic Functionモデルがある。前章で挙げた五つの要素──重力への方向づけ、知覚、協調、表現性、神経系の調整──は、いずれもこの系譜から来ている。
Hubert Godardとはどのような人物か
ERAの公式プロフィールによれば、Godardは1986年にCertified Rolferとなった。1988年からはミラノの国立がん研究所で研究に携わり、1990年にはパリ大学のダンス・動作分析学科のディレクターに任命されている。
もともとの専門は化学である。化学の学位を取得し、短期間ではあるが化学者として働いていた。しかし、彼が本当に情熱を注いでいたのはダンスだった。
踊るなかでGodardは、自分にとって非常に難しい動きがあることに気づいた。その後、ある医師の助けを得ながら、さまざまな技法を実践することで、自分の動き方を実際に変えることができたという。この経験から、人間の運動の仕組みを理解したいという関心が生まれたと、本人は語っている。
Godardが学んだものとして挙げられているのは、オステオパシー、フェルデンクライス・メソッド、アレクサンダー・テクニーク、メジエール法、クラシックダンス、そして精神分析である。
そのGodardにとって、ロルフィングとの出会いは一つの転換点となった。
ロルフィングを受けたことで、重力のなかで身体がどのように組織化され、それが身体的・心理的なあり方にどのような影響を与えるのかを理解する道が開かれた。それによって、それまで個別に学んできた知識や技法を、一つの共通した視点から捉え直すことができたと、本人は述べている。
Tonic Functionはどこから生まれたのか
Godardは、Tonic Functionの探究に至った経緯について語っている。自分を形づくったのは、ダンスを教えた経験だったという。
同じ動きの課題であっても、どのような言葉で伝えるか、スタジオのなかでどのような物語として語るかによって、生徒の踊り方が変わる。Godardの探究は、このことに気づいたところから始まった。
なぜ、言葉の違いによって動きが変わるのか。それを理解しようとするなかで、Godardはまず、「空間が身体を支える」という考えにたどり着いた。
さらに近代舞踊の歴史をたどると、動きを床から組み立てる系譜と、胸から上へ吊り上げるように組み立てる系譜という、二つの流れが見えてきた。そして、自分が空間をどのように捉え、組み立ててきたかが、身体の収縮や、その内部に生じる矛盾と直接結びついていることに気づいた。
そこからGodardは、重力に対して身体がどのように応答するのか──すなわち、身体の重さと、空間のなかでどこへ方向づけられているのか──を、動きを理解する中心に置くようになった(Caryn McHoseによるインタビュー、『Contact Quarterly』2006年夏/秋号)。
つまり、Tonic Functionの出発点にあったのは、言葉の伝え方によって人の動きが変わるという観察である。
これは、前章で見たRolf Movementの成り立ちとも重なる。身体の協調やその変化を表す言葉が不足していたため、新しい言語と指標が必要になった。Godardの探究もまた、その課題に対する一つの答えだったのである。
文化によって空間の経験は異なる
Godardは、空間の使い方や経験の仕方が、文化によって異なることを明確に指摘している。
たとえば、日本で生まれ育つことと、米国中西部で生まれ育つこととでは、空間との関係が大きく異なるという。日本では、人々が互いに近い距離で暮らしていても、一人ひとりが大きなキネスフィアを持つことができる。物理的な空間は狭くても、身体によって経験される空間は広い。一方、米国中西部では、その関係が逆になるとGodardは述べている。
キネスフィア(kinesphere)とは、身体を中心として、手足を動かすことで届く範囲に広がる個人的な運動空間を指す。ここでGodardが問題にしているのは、測ることのできる物理的な広さではなく、身体が空間をどのように感じ、どこまで自分と関係するものとして経験しているかである。
Godardは、絵画における遠近法についても言及している。西洋文化では、消失点へ向かって空間が収束する遠近法が正統なものとされてきた。それは同時に、社会の階層構造を表す隠喩でもあるという。これに対して、日本の絵画では、消失点がしばしば見る人の背後に置かれていると述べている。
この指摘は、日本でRolf Movementのトレーニングを受けようとする人にとっても無関係ではない。Tonic Functionの理論には、文化によって空間の経験が異なるという視点が含まれており、そのなかでは日本の空間感覚も明確に取り上げられている。
つまり、ERAで学ぶ理論は、欧米で生まれた方法をそのまま日本の身体に当てはめるだけのものではない。文化の違いによって、身体が空間をどう感じ、どう動くのかが変わることまで、すでに理論の射程に含まれているのである。
ERAの外側にある流れ
ただし、Godardの系譜がRolf Movementのすべてではない。
米国のDIRIで教えている教員を見ると、Kevin Frank、Per Haaland、Aline NewtonのようにGodardの流れを汲む人がいる一方で、異なる教師からRolf Movementの認定を受けた人や、ソマティック心理学、クラニオセイクラル・ワークなどを背景に持つ人もいる。同じDIRIの内部でも、教員によって理論的・実践的な背景は異なる。
ブラジルには、Monica Caspari(1953–2019)が設計した、ロルフィングとRolf Movementの両方を学ぶdual certificationの課程がある。身体の構造と動きという、互いに支え合う二つの側面を、一つの体系として扱うプログラムである。
Caspariは、人間は誰もが空間と重力との関係のなかで組織化されている一方、その関係をどのように経験するかは一人ひとり異なり、文化からも影響を受けると考えていた。生前はブラジルをはじめ、ドイツ、日本、オーストラリア、南アフリカ、アルゼンチン、米国各地で教えていた。
日本には、田畑浩良さんが発展させたイールド技法がある。田畑さんはCertified Advanced Rolferであり、Rolf Movement Instructorでもある。2012年の時点ですでに米国で教えており、2023年と2024年には、ERAのRolf Movement認定ワークショップで「肚(Hara)」と「間合い」を扱っている。
このように、米国で育った考え方がヨーロッパの教育課程に取り入れられ、日本で発展した方法がヨーロッパで教えられている。Rolf Movementの理論と実践は、一方向に伝えられてきたのではなく、地域や文化のあいだを往復しながら発展してきたのである。
Gael Rosewoodは、GodardがRolf Movementにもたらしたものを、従来よりも具体的な言葉と科学的な裏づけを備えた、刺激的な視点だったと評価している。その一方で、Godardの貢献が、それまでのRolf Movementの教育課程とどの程度うまく統合されたのかについては、自分には分からないとも述べている。
したがって、Rolf Movementでは、どこで、誰から学ぶかによって、伝えられる内容の重心が変わる。この点は、受講する場所や教師を選ぶ前に知っておいたほうがよい。
認定に必要な要件
認定に必要な基本要件は、どこで受講しても共通している。
Rolf Movement Practitionerの認定を受けるには、合計30日間、225時間のトレーニングを修了する必要がある。また、最初の講座を受講してから6年以内に、すべての課程を修了することが推奨されている。
米国のDIRIでは、30日間のうち最大3日分を、独立研究またはDIRIのRolf Movement教員によるメンタリングに充てることができる。また、2009年以降に認定教員のもとで受講した対象講座については、認定に必要な日数として算入できる。
日本ロルフィング協会を通じて認定を登録する場合、登録手数料は2,000円である。
受講資格の記載は資料によって異なる
受講資格については、注意が必要である。資料によって、対象者の記載が異なっているからだ。
米国のDIRIの案内には、次の三つが挙げられている。
- 資格が有効なCertified Rolfer
- 基礎トレーニングのPhase IIを修了した学生
- IASI認定校の養成課程を修了したStructural Integrator
一方、ERAのPart 1の案内に記載されているのは、次の二つである。
- Certified Rolfer
- IASI認定校を修了したStructural Integrator
こちらには、基礎トレーニングの途中にある学生は含まれていない。
さらに、DIRI Europeの「Education Overview」には、IASI認定校を修了したStructural Integratorに開かれているとのみ記載されている。
つまり、同じ30日間・225時間の認定課程でありながら、受講資格の記載には三つの異なる形がある。米国のラファイエット校では、基礎トレーニングの途中からRolf Movementの課程を始められるとされているのに対し、ERAの案内では、原則として認定を受けたRolferまたはStructural Integratorを対象としているように読める。
したがって、自分に受講資格があるかどうかについては、実際に受講を希望する協会へ直接確認することを勧めたい。
なお、基礎トレーニングの段階を表す名称は、以前のPhase I・II・IIIから、現在はLevel 1・2・3へと変更されている。DIRIの案内に記載されている「Phase II修了」は、現行制度では「Level 2修了」に相当する。
認定までの二つの道
必要な30日間をどのように修了するのか。そこには、大きく分けて二つの方法がある。
ワークショップの単位を積み重ねる
一つ目は、複数のワークショップを受講し、必要な単位を少しずつ積み重ねていく方法である。
それぞれ独立したテーマを扱う3〜5日間の講座を受講していく。履修する順番は決められておらず、どの時点からでも、そのとき提供されているコースのローテーションに加わることができる。
日本ロルフィング協会は、この形式が採用されている理由について、踏み込んだ説明をしている。
Rolf Movementの学びは、決められた段階を直線的に進むというより、同じテーマに繰り返し触れながら深まっていく。その過程は、個別のスキルを一つずつ身につけるというよりも、異なる文化圏で暮らしながら、徐々にその文化になじんでいくことに近いという。
そのため、トレーニングは短期間のワークショップに分けて行われる。次のクラスまでの期間には、学んだことを実際のセッションで試し、自分の理解として定着させていく時間が与えられる。
この方式には、実務上、三つの利点がある。
一つ目は、継続教育を目的として受講したクラスでも、後からRolf Movement認定の単位として申請できることである。認定を目指す前に受講していたクラスが、後になって必要単位に算入されることがある。
二つ目は、取得した単位に協会間の互換性があることである。複数の協会や地域で受講したクラスを組み合わせ、必要な30日間を満たすことができる。
三つ目は、一度に自宅や仕事を離れる期間が短いことである。実務を長期間止めることなく、数年をかけてトレーニングを進められる。
費用について、日本在住の講師が東京で行うクラスを中心に30日間を修了する場合は、およそ45万〜60万円が目安とされている。ただし、開催地域、講師の人数、海外講師を招聘するかどうかなどによって、費用は変動する。
三つのPartを集中して受ける
もう一つは、まとまった日程で集中的に受講する方法である。ERAでは、この形式が採用されている。
ERAは、30日間の課程を三つのPartに分けている。各Partは10日間で、個別に申し込むことができる。受講する順序は原則として自由で、数年に分けて修了することも可能である。ただし、Part 1の案内では、教授陣はPart 1、Part 2、Part 3の順に受講することを推奨している。三つのPartをすべて修了すると、Rolf Movement Practitionerの認定証が授与される。
公式資料には、各Partは12〜14か月ごとに開講されると記載されている。一方、2026年から2027年にかけて公開されている実際の日程では、Part 1が2026年10月、Part 2が2027年3月、Part 3が2027年7月から8月に予定されており、それぞれ4〜5か月の間隔で実施される。
また、同じ案内には、三つのモジュールを約1年間で受講する集中形式であるとの説明もある。
つまり、各Partの開講頻度と、課程全体を修了するまでの期間について、公式資料の記載は一致していない。後の章で見るように、現在は各Partの内容や順序そのものが移行期にあり、制度の変更に案内資料の更新が追いついていないと思われる箇所がいくつかある。ここも、その一つと考えられる。
実際に申し込む際には、一般的な説明よりも、その時点で公開されている具体的な日程を確認する必要がある。
課程を三つのPartに分けて行うことには、明確な理由がある。教室で経験したことを、次のPartまでに自分の実践へ取り入れるためである。そして、クライアントに試すなかで生まれた疑問や洞察を持って、再び教室に戻ることができる。ERAは、このように説明している。
受講料は、1つのPartにつき2,150ユーロである。三つのPartをすべて受講すると、合計6,450ユーロとなる。分割払いにも対応している。また、すでにRolf Movement Practitionerの認定を受けている人は、通常料金の半額で再受講できる。
日本から受講する場合は、この受講料に加えて、渡航費と現地での滞在費が必要になる。私の場合、全課程を修了するまでにミュンヘンを6回往復した。したがって、費用を見積もる際には、受講料だけでなく、交通費、宿泊費、現地での生活費まで含めて考える必要がある。
二つの道は設計思想が異なる
どちらも合計30日間の課程だが、その設計思想は異なっている。
ワークショップの単位を積み重ねる方式では、それぞれ独立したテーマを扱う講座を組み合わせていく。決められた順序がないため、どの時点からでも始めることができ、必要に応じて途中で間を空けることもできる。学びが直線的ではなく、反復しながら深まっていくと説明されているのは、この構造によるものである。
一方、ERAの方式では、三つのPartの順序そのものに意味が与えられている。まず、ロルフィングの10回シリーズに含まれる機能的な側面への理解を深め、そこから、より広いRolf Movementの実践へ進んでいくように設計されている。Part 1、Part 2、Part 3の順で受講することが推奨されているのは、そのためである。
どちらが優れているということではない。仕事や生活の都合で長期間実務を離れることが難しい人には、短いワークショップを積み重ねる方式が向いている。一方、まとまった受講期間を確保できる人や、一つの流れに沿って体系的に学びたい人には、ERAの集中形式が適している。
どこで、誰から学ぶか
Rolf Movementのトレーニングを受けられる場所は、一つではない。取得した単位には協会間の互換性があるため、複数の地域や協会の講座を組み合わせて認定を目指すこともできる。
まず、全体の枠組みを押さえておきたい。DIRIには、世界各地に四つの公式ライセンシーがある。それぞれが、米国のDIRIと互換性のあるトレーニングを独自に提供している。
- ドイツ・ミュンヘンのEuropean Rolfing Association(ERA)
- ブラジル・サンパウロのAssociação Brasileira de Rolfistas
- 日本・東京の日本ロルフィング協会
- カナダ・アルバータ州エドモントンのRolfing Association of Canada
各地域で取得した単位に互換性があるのは、この仕組みによる。
ヨーロッパ
ERAが、ミュンヘンで三つのPartからなる認定課程を提供している。各Partは、DIRI Europeの教授陣から選ばれた講師とアシスタントの二人で進められる。
米国
DIRIが、複数のモジュールからなる形式で提供している。各モジュールを順番に受講することも、独立した講座として個別に受講することもできる。ラファイエット校では、ロルフィングの基礎トレーニングの途中からRolf Movementの課程を始められると案内されている。
なお、2026年10月からミュンヘンで始まるERAのRolf Movement認定コースは、米国のDIRIの講座一覧にも掲載されている。
日本
田畑浩良さんがRolf Movement Instructorとして認定対象となるコースを提供している。認定に必要な要件は、ほかの地域と同じ30日間・225時間である。すべての要件を満たすと、Rolf Movement Practitionerの認定を受けることができる。
また、認定の対象にはならないものの、ロルファーやStructural Integratorに限らず、ほかの技法の実践者が参加できるクラスも提供されているという。
ブラジル
ブラジルでは、1991年に最初のトレーニングが行われて以来、長い教育の歴史がある。現在は、Monica Caspariが設計した、ロルフィングとRolf Movementを一つの体系のなかで学ぶdual certificationの課程が提供されている。
どこで学ぶかを決める基準は、人によって異なる。日本語で受講できることを優先するのか。海外への渡航が不要であることを重視するのか。あるいは、特定の教師や理論の系譜から学ぶことを選ぶのか。
前章で見たように、受講する場所や教師の違いは、費用や日程だけでなく、学ぶ内容の重心にも影響する。自分が何を学びたいのかを明確にしたうえで、受講先を選ぶ必要がある。
単位の互換性とアドバンスト・トレーニングとの関係
Rolf Movementの認定対象となる単位には、協会間の互換性がある。日本、米国、ブラジル、ヨーロッパのいずれで受講しても、認定に必要な30単位の一部として積み重ねることができる。
また、当初は継続教育を目的として受講したクラスでも、後からRolf Movement認定の単位として申請できる。米国のDIRIでは、2009年以降にRolf Movementの認定教員から受講した対象講座を、必要単位に算入できるとしている。
Rolf Movementの単位や認定は、アドバンスト・トレーニングとも二つの点で関係している。
一つ目は、アドバンスト・トレーニングの受講に必要な継続教育単位を満たせることである。
ERAでは、Rolf Movementの各PartがMovement 10単位として認められる。三つのPartをすべて修了すると、アドバンスト・トレーニングに進むために必要なMovementとElectiveの単位を、すべて満たすことができる。
二つ目は、アドバンスト・トレーニングを受講できる期間が延長されることである。
Certified Rolferは通常、認定から3年以上の実務経験を積んだうえで、認定後7年以内にアドバンスト・トレーニングを受けることが求められる。しかし、Rolf Movement Practitionerの認定を受けている場合は、その期限を認定後9年まで延長することが認められている。
この延長には、実際的な意味がある。
私自身、当初は2018年にアドバンスト・トレーニングを受ける予定だった。しかし、実際に東京で始まったトレーニングを受講したのは、2025年からである。Rolf Movement Practitionerの認定を受けていたため、受講可能な期間が延長され、自分に合った時期と場所を選ぶことができた。
いま何が変わりつつあるか
Rolf Movementの認定制度とカリキュラムは、現在も見直しが続いている。必要な日数が増え、各Partの内容と順序も変更されてきた。ここでは、現在確認できる主な変化を整理しておきたい。
18日から30日へ
Rolf Movementの認定課程は、2009年以前は18日間だった。現在は30日間に拡張されている。
拡張の理由として挙げられているのが、第2章で見た五つの要素である。重力への方向づけ、知覚、動きの協調、表現性、神経系の調整。姿勢や身体機能の持続的な変化を支えられる課程にするため、必要な日数が増やされた。
Partの順序が入れ替わっている
現在、ERAの三つのPartは、次のように構成されている。
- Part 1:10回シリーズの機能的な側面
- Part 2:グループ指導
- Part 3:3回シリーズの設計
以前はPart 2とPart 3の内容が逆で、3回シリーズの設計を先に学び、グループ指導を最後に学ぶ順序だった。
この変更は、まだすべての資料に反映されていない。ERAの課程ページでは、一覧に示された順序と本文の説明が一致していない。Part 2の説明文は「この最後のPartでは」で始まり、Part 3の説明文は「この2番目のPartでは」で始まっている。さらに、DIRI Europeの「Education Overview」では、また別の順序で記載されている。
つまり、同じ組織が公開している三つの資料に、それぞれ異なる順序が示されている。現在はカリキュラム変更の移行期にあり、資料の更新が追いついていないものと思われる。
これに関連して、Part 2の案内には、旧カリキュラムで認定を受けたRolf Movement Practitionerにも、新たに重視されるようになったグループ指導を学んでほしい、という趣旨の説明がある。認定者が通常料金の半額で再受講できる制度が設けられているのは、このような背景による。
認定を受けている人はどのくらいいるのか
DIRI Europeの「Education Overview」によれば、ERAに所属するロルファーのうち、約25%がRolf Movementの追加認定を受けている。
この比率の背景について、Gael Rosewoodは興味深い指摘をしている。歴史的に、この分野は、身体を手技によって変える「操作」と、動きを通して学びを促す「教育」との関係をめぐって、問いを抱え続けてきたという。
手技による働きかけを学びたいが、動きについては学びたくないという学生がいる。一方には、身体の機能や教育的なアプローチを学びたいという学生もいる。その分裂は、現在も続いているとRosewoodは以下のように述べている。
その分裂は、現在も続いているとRosewoodは以下のように述べている。
Historically, to take the whole picture, we struggle with questions about manipulation versus education. There is still a split between students who want the functional/educational part and those students who want to learn hands-on manipulation but not movement.
Rolf Movementの歴史の始まりに見られた、手技と動き、操作と教育のあいだの緊張関係が、形を変えながら今も残っているのである。
基礎トレーニングとは独立した課程
Rolf Movementは、ロルフィングの基礎トレーニングに組み込まれた課程ではない。基礎トレーニングとは別に設けられ、ロルフィングの実践に機能と動きの視点を加える認定課程である。
DIRI Europeの教育課程図では、Rolf Movement Trainingは、Level 3の認定とLevel 4のアドバンスト・トレーニングのあいだに、独立した列として示されている。継続教育とも別の枠に位置づけられている。
この位置づけは、現在も変わっていない。
もちろん、ロルフィングの基礎トレーニングにもMovementの科目は含まれている。Level 1には9日間のMovementがあり、Level 3では、能動的な動きをロルフィングのプロセスにどのように取り入れるかを学ぶ。
しかし、これらは基礎トレーニングの一部として行われるMovement教育であり、30日間のRolf Movement Trainingとは異なる。Rolf Movement Practitionerの認定を受けるには、基礎トレーニングとは別に、この30日間の課程を修了する必要がある。
おわりに
認定に必要な基本要件は明確である。合計30日間・225時間を受講し、開始から6年以内に修了することが推奨されている。
複雑なのは、どこで、誰から学ぶかという選択である。Rolf Movementには複数の理論的な流れがあり、受講する地域や教師によって、学ぶ内容の重心が変わる。また、受講資格や各Partの順序、開講頻度については、資料によって記載が一致していない部分もある。この記事で詳しく取り上げてきたのは、主にこうした違いである。
受講を決める前に、希望する協会へ直接問い合わせることを勧めたい。とくに自分が受講資格を満たしているか、希望する講座がどのくらいの頻度で開講されるのかについては、公開情報だけでは判断できない場合がある。
Rolf Movementの認定トレーニングを受けるかどうか、また、どこで誰から学ぶかを検討している方にとって、この記事が判断の材料になれば幸いである。
参考文献・リンク
- European Rolfing Association「Rolf Movement™ Training」(rolfing.org)
- European Rolfing Association「Rolf Movement™」(rolfing.org)
- European Rolfing Association「Functional Embodiment of the 10 Rolfing Sessions – Part 1 of Rolf Movement Training」(rolfing.org)
- European Rolfing Association「Hubert Godard」(rolfing.org)
- Dr. Ida Rolf Institute® Europe「Education Overview」(2025年9月版、rolfing.org)
- Dr. Ida Rolf Institute「Rolf Movement」(rolf.org)
- Dr. Ida Rolf Institute「About the Institute」(rolf.org)
- 日本ロルフィング協会「継続教育」(rolfing.or.jp)
- Kevin Frank「Rolf Movement® Integration: An Historical Overview through an Interview with Heather (Wing) Starsong and Gael (Ohlgren) Rosewood」Structural Integration, June 2012
- Heather Wing「Evolution of Rolf Movement® Integration」1982(上記記事に併載)
- Caryn McHose「Interview with Hubert Godard: Phenomenological Space」Contact Quarterly, Summer/Fall 2006
- Pedro Prado and Heidi Massa「Remembering Monica Caspari」Structure, Function, Integration: Journal of the Dr. Ida Rolf Institute, Vol. 48, No. 1, March 2020
ロルフィングの学びについて書いた記事
- ロルファーになるには何が必要か──資格・認定団体・トレーニングの全体像をロルファーが解説
- ヨーロッパのロルファーとしての認定までの歩みについて〜ヨーロッパ・ロルフィング協会・認定トレーニング
- ロルファー認定後の継続トレーニング〜アドバンスト・ロルファーへ向けた18単位の枠組みと講師の地図
- 継続トレーニングをどう選ぶか〜講座を選ぶときに見ている4つの基準
- Rolf Movementはどこから来たのか〜Ida Rolfから現在までの歴史
- ヨーロッパのRolf Movement Practitionerまでの歩みについて〜認定までの道のり
- Advanced Rolferの認定までの歩みについて【総括】〜認定までの道のり
