筋膜という見方──ロルフィングは、身体の何に触れているのか

はじめに

ロルフィングは筋膜(fascia)に働きかけると言われている。では、その筋膜とはいったい何なのか。そして、ロルフィングは、その組織にいったい何をしているのか。

この問いを、4回に分けて書いてきました。このページは、その4本を一望するための地図です。かつて免疫学を研究していた頃の視点から、手のひらの下にある組織を捉え直す──そんな試みでもあります。どこから読んでいただいても構いません。気になった入口から、辿ってみてください。

四つの顔それぞれの奥には、さらに深く掘り下げた記事があります。概観だけを掴みたい方は、四本の本編だけを。もう一歩踏み込みたい方は、その先へ。

筋膜という、ひとつの見方

はじめに、四本を貫く一本の背骨を置いておきます。

筋膜は、筋肉を包む「ただの詰め物」ではない。生きて、感じて、動き、そして変わりうる、ひとつの連続した組織である。皮膚の下から、腱、骨をつつむ膜、そして骨まで、身体を支える組織はひとつながりの網としてつながっている。ロルフィングが働きかけているのは、個々の不調ではなく、この連続体そのものだ──というのが、四本に共通する見方です。

四つの顔 ── 一覧

何を見ているか本編
生きている生きて流れる連続体。免疫のことばを話し、全身をひとつながりにつなぐ筋膜は、生きている ──生きているがゆえに、長く見えてこなかった
感じている豊かな感覚神経の終末が分布する、身体でもっとも大きな感覚器官筋膜は、感じている ──身体を内側から感じる、もうひとつの感覚
弾んでいる力をためて返す、しなやかなバネ。動くことが、しなやかさを保つ筋膜は、弾んでいる ──動くことが、しなやかさを保つ
変わっていく可塑性を持ち、重力のなかで編み直される。重力を支えとして使える身体へ筋膜は、変わっていく ──重力のなかで、身体は編み直される

以下、それぞれの顔と、その奥にある記事を紹介します。

生きている

筋膜は、固定された標本の上では消えてしまう、生きて流れる連続体だ。免疫のことばを話し、全身をひとつながりにつないでいる。生きているがゆえに、その本当の姿は長いあいだ見えてこなかった。

▶ 「筋膜は、生きている ──生きているがゆえに、長く見えてこなかった

さらに深く読みたい方へ。この「生きている」という顔の奥──筋膜には免疫の細胞が住み、炎症が起こり、そして収束していく──を掘り下げた記事が、二本あります。免疫学を研究していた視点が、もっとも直接に働く場所です。

▶「筋膜には、免疫細胞が住んでいる ── ストレッチが炎症を鎮めうる、という研究

▶ 「その腰痛は、筋肉ではなく筋膜かもしれない ──痛みの発生源としての筋膜

感じている

筋膜は、支えるだけの組織ではない。おびただしい数の感覚神経の終末が分布する、身体でもっとも豊かな感覚器官でもある。身体の内側を感じ取る「もうひとつの感覚」の現場だ。

▶ 「筋膜は、感じている ──身体を内側から感じる、もうひとつの感覚

さらに深く読みたい方へ。この「感じている」という顔の奥 ──いったい何が感じ、施術者の手はどこに語りかけているのか── を、四つの感覚受容器から掘り下げた記事があります。

▶ 「筋膜の四つの感覚受容器 ──『どう触れるか』で、身体の応え方は変わる

弾んでいる

筋膜は、力をためて返す、しなやかなバネでもある。そして、その弾力や潤いは、動くことによって保たれている。動かないものは、しなやかさを手放していく。

▶ 「筋膜は、弾んでいる ──動くことが、しなやかさを保つ

さらに深く読みたい方へ。この「弾んでいる」という顔の奥 ── なぜ筋トレだけでは、しなやかさは育たないのか ── を掘り下げた記事があります。

▶「筋トレだけでは、しなやかにならない ── 運動する人としない人で、筋膜はどう違うのか

変わっていく

生きて、感じて、動く組織は、固定されていない。だからこそ、変わりうる。ロルフィングは、その可塑性に、重力のなかで働きかける。身体を、重力と争う姿から、重力を支えとして使える姿へと組み直していく。

▶ 「筋膜は、変わっていく ──重力のなかで、身体は編み直される

さらに深く読みたい方へ。この「変わっていく」という顔の奥には、四つの顔すべてを貫く問いがあります。手で触れること、身体を動かすこと──それは物理的に「力を加える」だけの出来事なのに、なぜ生きた組織の構造まで変えうるのか。細胞が力を読み取る仕組みから、その道筋を追った記事です。

▶ 「なぜ、触れることが身体を変えうるのか ──細胞は、力を読んでいる

部分ではなく、連続体として

四つの顔は、ひとつの見方に収束していきます。

身体は、別々の部品を寄せ集めたものではなく、生きて、感じ、動き、そして重力のなかで編み直されていく、ひとつの連続体である。Body as an Operating System──身体を、部分の集まりとしてではなく、全体として動く一つの系として捉える視点です。

そしてこの視点は、身体という大きさにとどまりません。細胞を見ても、同じことが起きています。細胞のまわりを埋めているコラーゲンのネットワーク(細胞外マトリックス)と、筋膜とは、同じ物質を細胞レベル(違った倍率)で見たものにほかならない。細胞がバラバラにならないためにその網へ繋ぎ止められているように、身体もまた、バラバラにならないために筋膜という網でまとめられている。

まとめるための仕組みが、そのまま力を伝え、力を読む仕組みになっている──大きさを変えても、同じ論理が繰り返されています。ロルフィングが手を添えているのは、痛むところを揉みほぐす対症的な手当てではなく、この連続体のしなやかさのほうだ、と考えています。

わかっていること、まだわからないこと

四本を通じて、ひとつの姿勢を大切にしてきました。ここで紹介した知見は、手が触れている組織を「どう捉えるか」という見方を新しくするものであって、「ロルフィングが病を治す」「免疫を高める」といった効能を約束するものではありません。わかっていることと、まだわからないことの境は、正直に引いておきたいと思っています。

手技そのものの違いに関心のある方へ

マッサージ、整体、クラニオセイクラル、ソースポイントセラピーとロルフィング。「身体に手で触れる」実践は驚くほど多様です。その違いを、「何をしようとしているのか」という志向から地図にした記事もあります。

▶ 「癒し・矯正・全体 ── 手技療法の三つの道と、科学で説明できることの境界

はじめての方へ

筋膜という組織を入口に、ロルフィングが何に触れているのかを書いてきました。もし、この見方の背景にある歩み——免疫学の研究から、ロルフィングへ——に関心を持たれた方は、プロフィールのページをのぞいてみてください。

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さらに読みたい方へ。ロルフィングの効果を、23年分の臨床記録から捉えた研究についても紹介しています。

▶ 「筋膜研究の第一人者が光を当てた、23年分の記録 ──ロルフィング10シリーズの新しい研究から

どの顔から入っても、行き着く先は同じひとつの身体です。気になったところから、ゆっくり辿ってみてください。

大塚英文(Ph.D.)|認定アドバンスト・ロルファー™/ロルフ・ムーブメント・プラクティショナー
東京大学大学院医学系研究科博士課程修了(医学博士)。外資系製薬企業でメディカル・マーケティング業務に従事した後、2015年より渋谷でロルフィング®セッションを提供。「科学と実践の統合」をテーマに活動。