本記事は「力を抜くこと」シリーズ全3回の第3回である。本シリーズは、ロルフィングの基礎トレーニング(Basic Training)Phase IIの期間中に書かれた。
ロルフィングのセッション8以降の説明に移る前に、再び「力を抜くこと」(ここでは、余計な力を抜くという意味)について取り上げたい。私自身、ヨガでは力を抜くことが課題で、様々な西洋のボディワークを探究するきっかけとなった(「力が抜けない身体を、どう解くか〜ヨガに足りなかったもの」参照)。
ロルフィングは、身体内にスペース(空間、Articulation)があることに意識を向ける(英語でevoke)ことで、余計な筋肉の力が抜けていくと考える(「Articulationという言葉〜身体に空間を作るということ」参照)。今回は、どのようにスペースの意識を広げるかについて考えてみたい。
ロルフィングでは、重力をどのように感じるかを大切にする。大きな理由は、身体はどのような状況でも重さを感じることができるからである。
身体が重力に対して自由に動くためには、身体を一つの大きな塊と考えると、上半身と下半身を感じる必要がある。上半身と下半身が分かれるという意識である。その意味は、それぞれ相応のスペースがあるということ。下半身の土台を元に、上半身が自由に動くように調えていく(詳しくは「基本的な考え方〜2方向性(Palintonicity)」参照)。
身体というのは、前・後、左・右というスペースも持つことができる。
このため、身体には上・下、前・後、左・右の6つのスペースがあるということになる。ロルフィングでは、セッション1〜3を通じて上・下、前・後の意識を、セッション4〜7で左・右(中心軸の意識)を、筋膜に働きかけることによって広げていく。
このことで、身体内から変化が起きる。緊張や日々のストレスによって表層優位になっていた身体が、余計な緊張が抜けてスペースを与えられることで、深層が働き出す。最終的に、重力によって深層に対して適切な刺激を与えることになるので、経験的により適した場所に身体が収まる(詳細は「Phase II(12)〜深層(コア)セッション」参照)。

調えていくための指標として、身体にどのような重さがどこにかかっているのか?gとg’(gは、gravityの重力)という二つの指標を使う。g、g調えていくための指標として、身体にどのような重さがどこにかかっているのかを見る。gとg’という二つの指標である。gはgravity(重力)の頭文字で、それぞれ次の意味を持つ。
- g:重さが身体全体に対して、前面か後面か。
- g’:股関節から見て、重さが上半身に対して前面か後面か。
gもg’も極端に前や後に傾くことで余計な力が入り、6つのスペースの中でどれかの意識が狭まるという状態になるからだ。例えば、g’が前面に傾くと、背骨側の筋肉が伸び、胸および腹周りの筋肉が縮まることが起こる。
セッション1〜7は、このgとg’を指標に6つのスペースをどのように広げ、自由にしていくかがポイントとなる。重力に対してスペースを広げる意識を持つことで、自ずと力が抜けていくのだ。
その過程で、重さに対してスペースを広げようとしている流れに対して、それを防ぐような力が働いていることに遭遇する。
そこで、何がそれを防いでいるのか。課題として、なぜそれに執着しているのか。手放すとどうなるのか、どういったベネフィットがあるのか、どういった可能性があるのか。これらについてクライアントと考えていく。
興味深いのは、その後のセッション8〜10だ。今まで6つのスペースがあったものを、それぞれ連動性をもって動けるように身体を調えていくからだ。例えば、上・下、前・後、左・右がどのようにお互いに関連性(relationshipまたはlink)をもって動けるか、ということになる。関連性をセッション8〜9で調えて、セッション10では、自分の内部と外部環境との間にスペースの広がりを考えていく。
実際にロルフィングを体感していただくしかないが、トレーニングでセッション9が終わった段階で、スペースの意識が相当広がったと思う。ロルフィングの施術をするようになったら、こういった意識は忘れずにアプローチしていきたい。
2026年8月の注記
この記事は、シリーズの最後にあたる。第1回で3つの方法を挙げ、第2回でArticulationという語を確かめ、この記事で6つのスペースとgとg’に行き着いた。セッション8以降に入る前の、区切りとして書いている。
g と g’ という指標
この記事は、gとg’という2つの指標を紹介している。身体全体に対して重さが前面か後面か。股関節から見て、上半身に対して前面か後面か。
これはHubert GodardのTonic Functionに基づく見方である。当時はそこまで意識していなかったが、ミュンヘンで受けた基礎トレーニングは、Godardの理論を支柱としていた。
その3年後、Rolf Movementの認定トレーニングで、この見方はさらに細かくなる。Pierpaola VolponesがPhoric Functionについて説明した際に示されたのが、Fixed Point(重さを感じる部位)とOrientation(重さから比較的自由な部位)という組み合わせだった(「2方向性が身体を調える〜Tonic Functionと歩行・座位」参照)。
Phoricとは ‘to carry the weight’、重さを抱えるという意味で、Godardが使い始めた言葉である。身体は重力を感じる以上、重さを抱える。そして身体が動くようになると、重さに偏りが生じる。
この記事のgとg’は、身体全体と上半身という2つの単位で、重さの偏りを見るものだった。3年後には、動きが起きるたびに、その都度どこに重さがかかっているかを見る形になっている。
指標そのものは、いまも日々のセッションで使っている。重さがどこにかかっているかを見るという出発点は変わらない。
防ぐ力を、どう扱うか
この記事には、実践上の観察が一つある。
スペースを広げようとしている流れに対して、それを防ぐような力が働いていることに遭遇する、と。そして3つの問いを立てている。何がそれを防いでいるのか。なぜそれに執着しているのか。手放すとどうなるのか。
当時は、クライアントと一緒に考えていく、という形で書いた。
その2日前に書いた記事では、この防ぐ力に名前が与えられている。古いパターンである(「古いパターンと新しいパターン」参照)。施術する前に相手が持っていた動きの習慣であり、正しい・間違いではなく、選択肢の一つとして扱われる。
そして、クライアントが古いパターンと新しいパターンの間で迷う場合には、Negotiation(交渉)やRe-negotiation(再交渉)の余地があるという。
この記事の3つの問いは、その交渉の中身だった。何が防いでいるのかを見て、執着の理由を問い、手放した先を想像する。決めるのはクライアントであり、施術者は問いを立てる側にいる。
2025年に学んだのは、その前提だった。相手の身体は自己調整することができると信じること。施術者の役割は、変化が生まれる場を整え、信頼し、待つことにある。
問いを立てて一緒に考える、という当時の姿勢は、方向として正しかったこ
とになる。
6つが連動するということ
この記事は、セッション8〜10について触れて終わっている。6つのスペースが、それぞれ連動性をもって動けるように調えていく。関連性を8〜9で調え、10では自分の内部と外部環境との間のスペースの広がりを考える、と。
統合セッションについて書いたのは、この記事の3日前だった(「「統合セッション」参照)。そこで書いたのは、統合セッションが一つの目標に向かって進むということ、その目標がクロージングだということである。
統合セッションの記事が時間の側から書いたものだとすれば、この記事は空間の側から書いている。3日のうちに、同じ3回を2つの角度から見ていたことになる。6つのスペースが連動することと、終わりに向かうこと。どちらも統合の姿である。







