Tonic Function とは何か〜重力の中で自分を組み立てる能力 シリーズ

Tonic Function を辿るシリーズ(第2回|全3回)

はじめに

立っているとき、私たちは何もしていないように見える。けれども身体の中では、絶えず働いているものがある。倒れないように、微かに調整し続けている働きだ。

その働きに、ロルフィングは名前を持っている。Tonic Function。今回は、この名前が何を指しているのかを確かめる。

第1回では、この見方がどこから来たのかを辿った。ウベア・ゴダールというフランス人のロルファーが、ダンスの現場で見つけたものだった。同じ形の所作が、動き出す前の構えによって違う意味を帯びる。彼はそれを pre-movement と名づけた。

この回で使う資料を、先に挙げておく。1992年のインタビューは、Aline Newton 先生がウベアに聞いたもので、ロルフィングの機関誌 Rolf Lines に載っている。2005年のインタビューは、Caryn McHose 先生によるもので、ダンスの雑誌 Contact Quarterly に載っている。そして Newton 先生が1995年に書いた解説。ウベアの理論を、ロルファーに向けて初めてまとめたものだ。

Tonic Function とは何か

ここまでが観察の側だ。そろそろ、この名前そのものを確かめておきたい。

定義は、Aline Newton 先生が1995年に書いた解説にある。ウベアの理論を、ロルファーに向けて初めてまとめたものだ。

Godard calls the body’s ability to organize itself in gravity, “tonic function.”

ウベアは、身体が重力の中で自分を組み立てる能力のことを、「tonic function」と呼んでいる。

筋肉の分類の名前ではない。能力の名前である。

ここを取り違えると、あとが全部ずれる。私自身、長いあいだ「トニック筋の働き」という意味だと思っていた。持続的に働く筋肉と、一時的に働く筋肉。その区別の話だと。けれども、この名前が指しているのは、筋肉ではなかった。

Newton は続けてこう書く。tonic function は根本的なもので、あらゆる行為の根にある。私たちがそれについて考えることは決してないとしても。それは毎瞬、意識の水準の下で起きている。

そして、例が出てくる。

立っていて、腕を上げる。最初に収縮する筋肉は何か。ほとんどの人は腕と肩帯の筋肉を思い浮かべるが、答えはヒラメ筋である。重力の中で直立を保つ鍵になる筋肉だ。意図した動きが起きる前に、重力の機能が確保されている。

さきほどの、ウベアがふくらはぎについて書いていた例だ。Newton はこれを、知覚心理学者エドワード・リード(Edward Reed)の実験として引いている。そして——

The experiment reveals what we will call a pre-movement, the movement of the tonic system.

この実験が明らかにするのが、私たちが pre-movement と呼ぶもの、つまり tonic system の動きである。

ここで、前半と後半がつながる。ウベアがダンスの現場で名づけた前‐動作と、Tonic Function は、別の話ではない。同じものの、2つの呼び名だ。

それは、図ではなく地で働いている

この能力がどこで働いているのかは、絵を見るときの言い方で捉えると分かりやすい。図(figure)と地(fond)。こちらが見ている対象が図で、その奥にあるものが地だ。人物が図で、風景が地、という具合に。

ウベアは、これを動きに当てはめる。姿勢の構えと前‐動作は、所作の避けようのない前提であり、それを背景として、見えている動きが描き出される。それが図である。

つまり、私たちが「動き」として見ているものは図のほうだ。Tonic Function が働いているのは、その手前の地にある。目に見えにくいのは、そのためだ。

tonic system とは何を指すか

解剖学的に言えば、tonic function が関わるのは、脳、神経の経路、筋膜、筋紡錘、ゴルジ腱器官、そしてトニック筋。これらをまとめて tonic system と呼べる、と Newton は書く。身体が重力と交渉するのを協調させる働きを担う部分の全体だ。

そのうえで、彼女はこう釘を刺す。その人固有の tonic organization は、解剖学だけを考えていては、十分に記述できない。そして動きの仕事の観点から言えば、もっと広い視野なしには、その人の tonic organization を効果的に教育することはできない。

トニック筋は、手綱である

トニック筋は姿勢の筋肉で、直立を保つことに主に関わっている。フェイジック筋は、大きな運動や、短く激しい活動に使う筋肉だ。赤い線維が多いか白いか、酸素を使うか糖を使うか、筋紡錘が密かどうか。生理学的な区別はいくつもある。

ただ、このページで大事なのは分類のほうではない。2つの関係のほうだ。

For phasic muscles to work, the postural muscles have to release; thereby, they control and shape movement. The tonic muscles are like reins directing the phasic muscles.

フェイジック筋が働くためには、姿勢の筋肉が緩まなければならない。そうすることで、姿勢の筋肉が動きを制御し、形づくる。トニック筋は、フェイジック筋を導く手綱のようなものだ。

この2つの違いについては、疲れる筋肉と、疲れない筋肉〜姿勢を支えるTonic Functionにも書いている。

トニック筋が緩む順序が、他の筋肉の働きを指揮する。歩行では、背中のトニック筋がまず緩むことで前への動きが起き、ハムストリングスが緩むことで大腿四頭筋が働き、脚の他の筋肉の動きが協調する。

この緩みと張りの、細やかさと順序が、協調を作る。ウベアはそれを、古くからある動きの伝統の言い方で kinetic melody(動きの旋律)と呼ぶ。身体のすべての筋肉の、空間と時間における相乗。

仕組みの詳しい説明は、なぜ「姿勢の良さ」は筋力ではないのかにある。

二方向という考え方

ウベアが繰り返し戻ってくる考え方が、1つある。二方向だ。

その前に、なぜ「重力との関係」という言い方をするのかを書いておきたい。

生まれて最初に出会う相手が、重力だからだ。水の中では、上も下もほとんどない。生まれた瞬間から、絶えず上下のある世界に入る。そして、その世界とどう折り合いをつけるかを、時間をかけて決めていく。抱かれ方、寝かされ方、立ち上がるまでの過程。その全部が、重力との交渉になる。

1度ついた折り合いは、そのまま残る。けれども、決め直すことができる。

フェルデンクライスもアレクサンダーもオステオパシーもメジエール法も通ったうえで、彼はロルフィングを学んだ。そのとき何に惹かれたのかを、1992年のインタビューで答えている。ロルフィングの理論のほうが進んでいると思う、二方向があるから、と。

2005年のインタビューでは、別の言い方をしている。ロルフィングが重力との関係を交渉し直す(re-negotiate)方法だと初めて読んだとき、強く惹かれた。この「交渉し直す」が、いま書いたことだ。理論の側と、出会いの側から、同じことを言っている。

1992年のほうでは、フェルデンクライスとアレクサンダーの違いにも触れている。2人はしばしば同じ課題を使った。椅子から立って座る。けれども参照点が違う。フェルデンクライスは地面と骨盤、アレクサンダーは首と胸と上方。そして「線を持つには両方が要る」と続く。

上ばかりの人は接地がなく、人を押せない。うまくいかないと飛んで、場所を変える。押す人は地面に留まり、自分が動く代わりに周りを合わせさせる。どちらか一方では足りない。

この二方向を、ウベアは豆の根で説明している。

宇宙空間では、豆の根はあらゆる方向へ伸びる。けれども地に近づくと、根は下へ伸びる。植物は重力の法則に従う。だが同時に、太陽の法則にも従う。太陽に引かれて、植物は上へ伸びる。重力屈性と光屈性、2つの方向がある。

二方向については、2方向性が身体を調える〜Tonic Functionと歩行・座位で詳しく扱っている。

動くためには、身体の全体も、1つの筋肉も、支えの点を持たなければならない。人は、下向きを主な支えにするか、上向きを主な支えにするか、どちらかに偏る傾向がある。これは、身体の内側の空間の感覚と、外側の空間や環境の感覚、という言い方でも捉えられる。

そして、この二方向性に Palintonicity という名前を与えたのは、ウベアではない。ヘラクレイトスが対立するものの張り合いを palintonic と呼んだ。それをロルフィングに持ち込んだのは、ロルファーであり哲学者でもある Jeff Maitland だ。構造が統合される歓びがどう感じられ、どう見えるかを言うための語として差し出した、と Kevin Frank らの本の注に書かれている。

現象としての二方向はウベア、それを呼ぶ語は Maitland。同じことが Seeing という語でも起きている。

重力に応答する仕組みとして

ここから、その能力を支えているものを見ていく。

支えの三角形(Triangle of Support)

重力の中で自分がどこにいるかを、身体は3つの入口から受け取る。眼、足、内耳。眼は地平線と上下を、足は地面の凹凸や質感や温度を、内耳は頭の位置の変化を受け取る。耳の奥で結晶の層がずれ、その変化が神経の信号になって脳幹へ届く。

重力に抗して立つ仕組みそのものについては、なぜ「立つ」は疲れないのか──重力と抗重力筋の仕組みにまとめている。

足の神経の働きの大半は、地面との接触から情報を集めて動きを整えることに使われている。足は支える場所であると同時に、受け取る場所でもある。

ただし「三角形」という言い方は、ウベアの系統の資料にいつもあるわけではない。2006年の Kevin Frank らの本にこの語は出てこず、内耳への言及もウベアの序文の一箇所だけだ。後からまとめられた形だと思われる。

二種類の見え方

Focal visionPeripheral vision
範囲狭い180度
色色と白黒白黒のみ
働き細部、名づけ、区別位置を知る、重力に対して自分を定める

読む、運転する、画面を見る。現代の生活は Focal に偏っている。どちらのモードにいるかで、重力に対する構えが変わる。

制御された不安定さ

支えのない背骨は、二キログラムほどで潰れる。人が立っていられるのは、椎骨を積み上げているからではない。

骨格の分節は、むしろ簡単にずれるようにできている。だから屈曲も伸展も回旋もなめらかに起こる。不安定であることが、進化の上での利点になっている。力を入れて動き出すのではなく、筋のトーンを手放すことで素早く位置を変えられる。カナダの技術者セルジュ・グラコフスキー(Serge Gracovetsky)が Controlled Instability と呼んだ考え方だ。

伸びない腿の裏

これが実際にどう働くかを、ウベアが1つの例で説明している。

ハムストリングス。多くの踊り手が毎日のストレッチで伸ばそうとするのに、応えないことがある。そこで知覚を変え、地面と空の両方へ定位し直すと、すぐに変わる。

だからこれはトニック筋の良い例だ、と彼は言う。地面と空間に対して反射的に応答している。トニック筋とは、中心を安定させる筋肉のことだ。

対になる観察がついている。完全に「上」の人、地面を持っていない人は膝に緊張を持つ。地面から組み立てている人は、股関節とハムストリングスに持つ。膝ではない。

トニック筋は、何をするかには応答しない。空間をどう築き、どう定位するかにだけ応答する。そして彼は姿勢をこう定義する。姿勢とは、2つの方向へ行ける能力である。行為の五割は床から始まり、五割は吊られている必要がある。

知覚を要因として見る

ウベアの発想でいちばん特徴的なのは、ここだと思う。姿勢を決めているものの中に、知覚を入れた。空間をどう感じ、この場をどう受け取るかが、筋のトーンを変える。骨格の並びや筋膜の状態と同じ列に、知覚が置かれている。

では知覚とは何なのか。このページでは踏み込まない。知覚そのものは言葉は、知覚に触れている──知覚とは何かに、哲学の側から見た身体は現象学とロルフィング──ボディワーカーのための、身体の見方で扱う。

※ 引用はいずれも Hubert Godard, “Le geste et sa perception”(La danse au XXe siècle, Bordas, 1998, pp. 224-229)と、Caryn McHose, “Phenomenological Space: Interview with Hubert Godard”(Contact Quarterly, Summer/Fall 2006, pp. 32-38)より。英文は原文からの訳。

※ この回の引用と要旨の出典は次のとおり。Aline Newton, “An Interview with Hubert Godard”(Rolf Lines, Winter 1992)/Aline Newton, “Basic Concepts in the Theory of Hubert Godard”(Rolf Lines, Vol. XXIII, No. 1, March 1995, pp. 32-43)/Caryn McHose, “Phenomenological Space: Interview with Hubert Godard”(Contact Quarterly, Summer/Fall 2006, pp. 32-38)/Hubert Godard, “Le geste et sa perception”(La danse au XXe siècle, Bordas, 1998, pp. 224-229)。英文はいずれも原文からの訳。

Tonic Muscle と、動く前の動作

持続的に働く筋肉には、独特の時間の性質がある。スイッチが入るのに5秒、緩むのにも5秒かかる。1度入れば疲れを知らず働き続けるが、事故や障害やトラウマでオフになることがある。

5秒という数字は、Gael Rosewood WS(4)〜重力に関わるTonic Muscleが、どのように身体のバランスを保つのか?で学んだものだ。

この筋肉が担当しているのが、Pre-movement だ。立った状態で腕を前に上げるとき、最初に働くのはヒラメ筋。ものを掴むときは、手より先に前鋸筋。舌が口蓋に静かに置かれていることで、首と顔の安定が保たれる。ウベアが1995年にふくらはぎの例で書いていたことが、そのまま実習の場に来ている。

5秒かかるということは、この層は速くならないということでもある。セッションで急ごうとしても、層の側の都合がある。

Pre-movement の定義と見方は、Rolf Movement – Part 2(8)に書いた。ヨガのバンダも、アレクサンダー・テクニークの頭と脊柱の関係も、同じ場所を指している。

もう1つ。ロルフ・ムーブメントの課程では、ボディスキーマやボディイメージという言葉は使われない。同じ場所を、Pre-movement や Fixed Point という Tonic Function の言葉で指している。言葉が違うだけで、扱っている事柄は重なっている。

Tonic Functionが、どう発展したのか?

ウベアが持ち込んだとすれば、それを理論として整理し、書いて残したのは Kevin Frank だ。認定アドバンスト・ロルファー、ロルフ・ムーブメント・プラクティショナー、そして Dr. Ida Rolf Institute のロルフ・ムーブメント・インストラクター。1991年から Tonic Function に取り組み、1995年に最初の論文を書き、2007年、2014年と続けた。ロルフィングを「情報のシステム」として見る立場を取っている。

1人が見つけ、もう1人が言葉にした。その関係が、そのまま一冊の本になっている。Caryn McHose との共著『How Life Moves』(2006年)だ。序文を書いているのがウベアである。

ウベア自身が書いたものは少ない。1994年の記事、1995年のダンス史の本の後書き、この序文、2021年の呼吸についての小冊子。数えられる程度しかない。だから、書かれたものより、その場にいたかどうかが効いた。

書かれたものを年代順に並べると、この理論がどう形になってきたかが見える。

  • 1995年。Aline Newton 先生が、ウベアの理論をロルファーに向けて初めてまとめた。「身体が重力の中で自分を組み立てる能力」という定義は、ここにある。同じ年、Kevin Frank が最初の論文を書いている
  • 2006年。Kevin Frank と Caryn McHose の共著『How Life Moves』。ウベアが序文を寄せた。その第1章と第2章は、2009年に日本ロルフィング協会が日本語に訳して、いまも公開されている
  • 2007年、2014年。Kevin Frank が論文を重ねる。知覚と協調、そして大腰筋
  • 2022年。Per Haaland が、現在のかたちにまとめた論文を書いた。ERA が Tonic Function の説明として指しているのは、この文章である

30年かけて、少しずつ書かれてきたことになる。そして、いまも書き足されている。

次回へ

ここまでで、Tonic Function が何を指しているのかは見えた。身体が重力の中で自分を組み立てる能力。それを支える系があり、緩む順序が協調を作っている。

けれども、答えていない問いが残っている。なぜ、この能力を語るときに、構造だけでなく、協調も、知覚も、意味づけも出てくるのか。

次回は、そこを扱う。Tonic Function は、何を見ているのか。

※ この回の出典は次のとおり。Aline Newton, “An Interview with Hubert Godard”(Rolf Lines, Winter 1992)/Aline Newton, “Basic Concepts in the Theory of Hubert Godard”(Rolf Lines, Vol. XXIII, No. 1, March 1995, pp. 32-43)/Caryn McHose, “Phenomenological Space: Interview with Hubert Godard”(Contact Quarterly, Summer/Fall 2006, pp. 32-38)/Per Haaland, “Tonic Function Model: The Human Gravity Response System”(Structure, Function, Integration, Vol. 50, No. 3, November 2022)。英文はいずれも原文からの訳。


このシリーズの全体像と、関連する記事の一覧は、重力の中の身体──Tonic Functionという見方はどこから来たのかにまとめている。

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この記事を書いた人

Hidefumi Otsuka